第5話 2本目(下書き_1)
私のやったこと、ねぇ。
うーん。下書きなしで書くのも大変だから、今回はユニガンで買った紙に下書きしてから、ノートに書く内容を考えるわ。
2本目のロマン武器を探すに当たって、私たちはまずザルボーに向かったわ。
パルシファル王朝時代のサルーパの鍛治師が気合を入れて走り去っていったから、ミグランス王朝時代に何か伝わっていないかと思って。
ちょうど防具の更新がしたかったし素材も沢山貯まっていたから、素材の売却と新しい防具の試着をしつつ、ザルボーの鍛治師に聞いたの。「ロマン武器を知らないかしら」って。
そうしたら、売却した素材の整理をしていた鍛冶師は、ばっと顔をあげて「その話は一族秘伝のはず…… 一体どこから話が漏れたのか……」と驚いたあと、嬉々として教えてくれたわ。
武器の話を始める前に、「いや、知られてしまったもんは仕方ないし、一族秘伝といえど、既に知ってるやつに詳細を話す分には問題ないよな……」って小声で言っていたけれど、それは本当に大丈夫なのかしら…… まぁ、私の心配することでもないのだけれど。
それで、ロマン武器の話ね。
なんでも、ザルボーがまだサルーパと呼ばれていた時代のご先祖様が、『ロマン武器』という概念を天の使いより授けられ、それ以降、先祖代々ロマン武器の改造、保全をしてきたらしいの。
……それって、この間ザルボーで「ロマン武器を知らないかしら」と聞いてしまったことがきっかけよね。
鍛治師からも結構質問攻めにあった気がするし。
それに、伝承されている天の使いの特徴が、『栗色の艶めく長髪、羽も無いのに宙を舞い、腰には大きな青い剣を佩き、ピンクの衣を纏いて、異国の訛りで話す。美人な猫を連れている』ですって。
なんだか知っている特徴を全部混ぜたみたいよね……
ま、まぁ。やってしまったことは仕方ないわ。次に生かしましょ。
えっと、サルーパの時代から受け継いできたロマン武器なんだけど、今は動かないらしいの。
なんでも、武器とコンセプトとしては、「どんな攻撃手段にも使える武器って、かっこいいよね!」なんだそうだけど、そのためには沢山のパーツを組み替える必要があるらしくって……
で、そのパーツごとの滑りを良くするために、昔は『プクプクポーク』と薬草や香味野菜を煮詰めた上澄みを使っていたらしいの。
あ、上澄みをとった後の『プクプクポーク』は、濃い味付けの煮汁で煮込んでからおいしくいただいていたらしいわ。
伝承では、上澄み液の作り方よりも『プクプクポークの煮込み』がどれほどおいしかったかの記述に重点が置かれているらしいけれど、それはもう料理の下処理ではないかしら……
サル―パの宿屋で食べる『ハナブクのトロトロ焼き』は、噛むたびにじわっと甘いあぶらがあふれ出しておいしいし、確かに煮込んでもおいしそうだけど。
で、そのおいしい『プクプクポーク』なのだけれど、サルーパが砂漠化するにつれて、環境に適応できなかったハナブクは数を減らしていって、貴重なものになったんですって。
もちろん、ザルボーの鍛治師たちもハナブクの減少を指を咥えてみていたわけではないわ。東に錬金術師がいると聞けば訪ねて錬金術の師事を乞い、西に凄腕の料理人がいると聞けば肉の脂身がおいしい煮込み料理の情報を集め、海を渡ってリンデやユニガンで植物学と調薬を学び……
ついに代替品を見つけ出したらしいの。
でも、代替品を見つけるまでの試行錯誤で、どうしても錆び付いて取れないパーツが出来てしまったんですって。
錆び付いて取れないパーツを、周りのパーツと一緒に丸ごと交換しようにも、周りのパーツに別の絶滅した魔物の素材を使っていて、にっちもさっちも行かなくて困っていたみたい。
ここ数代では、ロマン武器の機能拡張よりも錆取り剤の研究に注力して、『ゆらめき光る果実』、『猛毒の傘』、『鋼鉄の拳』を調合したものが使えると突き止めたみたい。
というか、代替品探しの話でも思ったけれど、いったい何がそこまでの情熱をこの一族にもたらすのかしら……
錆取り剤の開発も成功して、これで万事解決かと思われたけど、そうは問屋が卸さなかった。半分ほどの錆をとったところで、ストックしてた『ゆらめき光る果実』が尽きてしまったらしいの。
「一族自慢のロマン武器をお見せするなら、せっかくですから、完全な状態でお見せしたかったです……」とザルボーの鍛治師が肩を落としていたわ。
ただ、『ゆらめき光る果実』って、どこかで聞き覚えがあるのよね……
そう思っていたら、サイラスが「『ゆらめき光る果実』とは…… 先日アクトゥールのおなごが使わなかった素材ではござらんか?」と言っていたわ。
しかもアルドが「あれ? それなら今さっき鍛冶師に売った素材の中に入っていなかったか?」というものだから、鍛冶師は「本当か!」と言って、さっき売却した素材をひっくり返していたわ。
そうよね、ロマン武器の話に夢中になって忘れていたけれど、そういえば売却した素材の整理中だったわね。
しばらく素材をひっくり返していた鍛冶師だけれど、少ししてから「うおぉぉ!」と雄たけびを上げて、手に持った素材を高く掲げたわ。
その手にはもちろん、『ゆらめき光る果実』が…… って、それ『プクプクポーク』じゃない!
そのあとすぐに鍛冶師は『ゆらめき光る果実』を見つけたんだけど、「良かったら、『マジョラムシード』も持っていないか?」って聞いてきたの。
なんでも、『プクプクポークの煮込み』に使ういくつかの薬草は現在手に入らないけれど、『マジョラムシード』があれば、だいぶ近い味にできるんじゃないかっていう研究成果が残っているそうよ。情熱、武器だけじゃなくそっちにも向かっていたのね……
錆取り剤の作成に時間がかかるようだし、私たちは『マジョラムシード』を採取しに行くことにしたの。幸い、『マジョラムシード』は稀に月影の森で採取できることをアルドが知っていたしね。
それに、鍛冶師が並々ならぬ情熱を傾ける『プクプクポークの煮込み』、私も食べてみたいじゃない?
私たちは月影の森で『マジョラムシード』を探したわ。でも、探せども探せども見つからないのよね……
アルドは確かに「稀に月影の森で採取できる」とは言ったけど、あんまりにも見つからなさすぎじゃない……
月影の森を何周したかしら、「さすがにおかしい」と思って、バルオキーの村長を訪ねたの。
そしたら、「稀に採取できる」の「稀」って、数十年単位らしくって……
さすがに、数十年単位の「稀」を引き寄せられる気はしないし、すごく楽しみだったけれど『プクプクポークの煮込み』はあきらめるしかないかと思ったわ。
でも、リィカが「検索中…… 汎用メモリおよび特別メモリの検索、完了しマシタ! 『マジョラムシード』ハ次元の狭間ノ青い扉ノ先デ採取できマス!」というので、バルオキーを後にして、次元の狭間に採取に行ったの。
というか、そんな貴重な素材が料理の代用品になることを調べ上げた、ザルボーの鍛冶師一族は、本当に何者なの……? ちょっと、怖くなってきたわ。
ザルボーに戻ると、鍛冶師が「ちょうど、錆取りも終わって、最高の状態でロマン武器がお見せできますよ!」と晴れやかに迎えてくれたわ。
また、『マジョラムシード』を渡すと「まさか、こんなに貴重なものを採取してきていただけるとは……」と感動されたわ。というか、感動の具合から、どのくらい貴重かを本当の意味で知っていたわね……
鍛冶師は、「先に料理の仕込みをしてくる」というと、『マジョラムシード』をもってカウンターの奥の階段を上がって、少ししてから大きな槌をもって降りてきたわ。
そして、「『プクプクポークの煮込み』を作るのに、下処理に3日、味付けに3日かかるので…… それくらいあれば、駆け足にはなりますが、我が一族秘伝の武器のすべてをご説明できると思います!」と自信満々に言い放ったの!
説明に6日もかかる武器って何!? ってなったけれど、まぁ、ここまで来たらもう逃げることもできないし、みっちり6日間捕まったわ。
槌、確かに大きいとは思ったけど、125形態に変形するとは思わなかったわ……
そして、1日当たり21形態の説明を受けて、確かに駆け足、駆け足だった。というか、物理的にどういう構造していたらそんな複雑な機構になるのよ…… すごく気になったけど、深く突っ込んだらもっと説明が長くなりそうだったから、ぐっとこらえたわ。
あー。『プクプクポークの煮込み』おいしい。
この美味しさで、ロマン武器の説明が全部吹き飛んでしまいそう……
『プクプクポークの煮込み』に舌鼓を打った後、ザルボーの鍛冶師と話しあって、「『ゆらめき光る果実』を火種に煮込んだ『プクプクポークの煮込み』は絶品!」を合言葉に未来の一族からロマン武器を見せてもらう約束をしたわ。
ミグランス王朝時代ですでに125の形態を持つということは、AD1100年にはどこまで進化しているのかしら。この一族の執念を考えると気になるような、知りたくないような……
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