第3話 1本目(修正版)

「何を書いているの?」


 エイミが次元戦艦の中でイシャール堂の店員に頼まれたロマン武器の情報をノートに書いていると、ヘレナに声をかけられた。


「うちの店員に頼まれて、ロマン武器の情報を集めたから、その報告を書いているの」

「ああ、この間のティレン湖道の件ね」

「そう。槍と研究成果も譲ってもらえたから、一緒に渡そうと思って」

「それは…… 問題になるんじゃないかしら?」


 エイミの話を聞いたヘレナは、口元に手をあてて、ふわりと浮いた。


「問題?」

「ええ、『イシャール堂』の店員ということは、エイミがティレン湖道やアクトゥールに行けることを知らないでしょう…… それに、パルシファル王朝時代のものとしてエルジオンに持ち込むには、その武器は綺麗すぎるわ」

「! そうね!」


 ヘレナの言葉にエイミは「はっ」とし、そのままノートが置かれた机に沈んだ。

 机とエイミの頭の隙間から、「これ、ペンで書いちゃったから消せない……」という呻きが漏れる。


「落ち込まないで、エルジオンにもっていく前に気が付けてよかったじゃない」

 机に沈んだままのエイミの背中をさすりつつ、ヘレナが励ました。


「武器と研究ノートは…… ユニガンのマクミナルに保管をお願いしたらいいかしら」

「そうね。それがいいんじゃないかしら。パルシファル王朝時代からミグランス王朝時代の間も長いけれど、埋めたりすると、紙に書かれた研究成果は持ちそうにないもの。」


「……よし! 報告を書きなおすわ!」

 エイミはのっそりと机から身を起こした。



◇◇◇◇◇



 まず初めに、ノートを切り取ってしまってごめんなさい。

 下書きなしで書き始めたら、とても人に見せられないような文章になってしまって……


 まず、一本目のロマン武器は、マクミナル博物館が所蔵する『乙女の槍』ね。


『乙女の槍』はパルシファル王朝時代に作られた武器で、武芸の心得のない、か細い少女が強大な魔物を打ち破ったと言われているわ。

 倒した魔物が『水辺の悪魔』という異名を持っていたことから、『悪魔殺しの槍』と呼ばれることもあるわ。


 槍自体はパルシファル王朝時代によくみられるもので、握り部分にペンダントトップくらいの大きさの青い石が埋まっている以外は特筆すべき点はないそうよ。

 パルシファル王朝時代の衛兵に支給されていた槍よりも性能が劣ることから「逸話は史実ではないのではないか」とする学説が有力ね。


 ただ、マクミナル博物館には槍だけではなくて、その槍を作るための研究成果も所蔵されていて、その記述と、初代マクミナルの書き残しから「本当にか細い少女が強大な魔物を打ち破ったのでは」とする派閥もいるみたい。


 あと、青い石はいつから埋まっていたのかしら……

 前に見た時には、木製の継ぎ目のない柄で装飾もなかった気がするのだけど……


 『乙女の槍』は貸与できないけれど、申請すれば職員立会いの下見学はできるそうよ。研究ノートは電子化もしているようだから、それであればすぐにアクセスできるみたい。

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