第2話 1本目(失われたページ)
ええっと、何から書けばいいのかしら。
実家で父さんの弟子からこのノートを受け取ってから、各地で鍛冶屋に寄るたびにロマン武器の情報がないかの聞き込みをしたけど、反応は様々だったわ。
ラトルの鍛冶師は、苦い思い出でもあるのか遠い目をしていたし、パルシファル宮殿の鍛冶師は「ロマン武器に憧れはあるが、宮勤めだからなぁ」と残念そうだった。
サル―パでは、ロマン武器の聞き込みに行ったはずが、逆に鍛冶師から質問攻めにあったわ。「うぉぉ~。たぎるぜぇ~!」ってすごい勢いで走り去っていったけど、何だったのかしら。
「まぁ、鍛冶師も急に『ロマン武器を知らない?』って聞かれても、困るわよね……」 と思いながらも聞き込みを続けていたのだけれど、ついにアクトゥールでロマン武器の情報を手に入れたの。
鍛冶屋のおやじさんがロマン武器を作っているわけではなかったんだけど、私たちが訪ねる数日前に、「理想の武器を作ってほしい」っていう若者が来たんですって。
アクトゥールの鍛冶師は若者の話を聞いて「そんな武器は夢物語だ」って言って、作成を断ったそうよ。
そうしたら若者は、「それなら、自分で作って見せる!」と啖呵を切って、アクトゥールを去ったらしいの。
「強い魔物を倒すための武器が欲しいと言っていた…… もし、無謀なことをして魔物に襲われていたら、寝覚めが悪い」と鍛冶師が心配していたわ。
鍛冶師からも若者の安否を確認してほしいと頼まれて、私たちは若者の足取りを追ったの。
アクトゥールの町の人々に聞き込みをして、若者がデリスモ街道方面に行ったことはわかったのだけれど、それ以上のことはわからなかった。デリスモ街道にいるパルシファル宮殿の衛兵に聞いても、彼らも若者を見ていないって。
もう、理想の武器を求める若者は、見つからないんじゃないかとあきらめかけた時、アルドが言ったの
「デリスモ街道からコリンダの原に行くには、パルシファル宮殿の近くを通る。でも、衛兵がみていないってことは、ケリルの道に行ったんじゃないか?」って。
他に手掛かりもなかったし、とりあえず、ケリルの道で若者を探してみることにしたわ。
そうしたら、『冷酷なる槍』という異名の付いたハマーンに襲われている人を見つけたの。
アルド達とハマーンを追い払った後、その人に「どうしてケリルの道にいたのか」と聞いたら、「土のエレメンタルに強く影響された魔物を観察したかった」と答えられたわ。隠れて観察しているつもりが見つかってしまったんですって。
「助けてくださり、ありがとうございました。……次は、もっとうまく隠れて見せます」と言ってふらふらとその場を去ろうとした人を捕まえて、深く事情を聴くと、その人が探していた若者だということが分かったの。
アルドが若者に「どんな武器が理想なんだ?」って聞いたら、若者は何かに取り憑かれたように語りだしたわ。若者の様子に思わず身を引いたアルドをがっしりと捕まえて、聞き終わるまでは決して離さない!という執念深さを感じたわ。
若者の話をざっくりまとめると、「一撃必殺になるような、強力な技を出せる武器」「一撃必殺だから、強力な技を使った後は、武器が自壊するのもやむなし。ただし、技を使い終わるまでは壊れない丈夫さが欲しい」ってところね。
で、若者の話を聞いたアルドはいつものように言ったわ。
「俺たちにできることなら、手伝うよ」って。
まぁ、アルドはああいう性格だし、そういう流れになるような気はしていたわ。若者の尋常では無い様子も気になったし、手伝うことにしたの。
若者が手伝ってほしかったのは、武器の材料集めだったわ。
「とにかく、各地の強い魔物の素材が欲しいのです。ただし、わがままなのは承知の上で、ティレン湖道に棲む『水辺の悪魔』だけは、倒さないで欲しいのです。やつは…… やつだけは、なんとしてでもこの手で……」
語尾になるにつれて声は小さくなっていったけれど、ぐっと握られた若者の手は、白く、白くなっていったわ。
私たちは古代の各地で強い魔物を倒して、素材を集めてアクトゥールで待つ若者のもとへ戻ったの。
「ありがとうございます。少し待ってください」
素材を渡された若者は、そういって材料を吟味すると、「こちらは、お返しします」と言って『ゆらめき光る果実』と『鼓動する体液』を返してくれたわ。
「水辺の悪魔」に対抗するためには、火と水のエレメンタルが強く影響する素材は避けたかったんですって。
「あとは…… いただいた素材を、この槍にこうして……」
若者は、その場で槍と『暴君龍の爪』、『漆黒の翼』、『恐怖の仮面』を合わせて儀式をしていたわ。あれは、鍛冶というよりは、魔法的な効果の付与ね。
出来上がった槍を検分した若者は、「そういえば、皆さんは『ロマン武器』というものを探しているのですよね。この槍はお渡しできませんが、作り方についての研究成果をまとめたものがありますので、よかったら受け取ってください」と言って紙の束を渡してくれたわ。
若者は、今作った槍でティレン湖道にいる『水辺の悪魔』を倒しに行くというので、みんなでついていくことにしたの。道中も心配だし、研究成果に対して「もう、いらないものですから……」と呟いた若者を、このまま一人で行かせてはいけないと思ったの。
若者は、自分の作った武器で『水辺の悪魔』を倒したわ。
そして、『水辺の悪魔』の落とした、青い石のネックレスを抱えて泣き崩れたの。
うずくまる若者に、どう声をかけたものかと悩んでいると、若者にやさしい色の光が降り注いだわ。若者にだけ聴こえる何かがあったのか、はっと顔を上げた若者は誰かの名前を呼んで、涙をぬぐっていたわ。
若者とアクトゥールに戻ってから聞いたのだけれど、若者は昔『水辺の悪魔』に大切な人を殺されて……
それだけじゃなく、思い出の詰まったネックレスも持っていかれたそうなの。
だから、せめて形見となるネックレスだけでも自分の手で取り戻したくて、「武芸にすぐれない自分でも、一撃必殺になるような、強力な技を出せる武器」を求めていたんですって。
その後、「武器は先ほどの戦いで壊れてしまったけれど、こちらももう必要ないものですから」と言って、槍も譲ってくれたわ。
「目的を果たした自分には、武器も研究も不要の長物なので、ほしいと思っている方に渡してください」ですって。
若者の目は赤く泣き腫れていたけれど、思いつめたような表情は晴れたから、きっともう大丈夫ね。
若者の研究が、鍛冶師のあなたの参考になるかはわからないけれど、今度持って帰るわ。
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