ロマン武器を求めて ~イシャール堂の調査日記~

秘澄

第1話 ロマン武器を求めて

「やっぱり、ロマン武器はあこがれだよなぁ」


 きっかけは、師匠のそんな一言でした。


最近、お嬢さんやアルドさんたちが、東方や西方の珍しい素材や武器のレシピを提供してくださるので、師匠もそんなことを言ったのでしょう。


僕の勤める『イシャール堂』は、エルジオンで一番の鍛冶屋であり、尊敬するザオル師匠は大陸でも5本指に入る鍛冶師だと思っております。


当店の品ぞろえは、『アンティーク』などと言われてしまうこともありますが、合成人間との争いも収束しない時世柄、安心、安全、実直な武器であることがハンターの皆様からの信頼獲得に一役買っていると考えております。


 その師匠をも唸らせる材料やレシピを集めてくるお嬢さんやアルドさん方の人脈の広さには、底知れないものがあります……

 また、お嬢さんたちには一点ものの武器もたまに見せていただきますが、どれもこれも図録にないもので、ワクワクします。


 最近だと、エビフライや湯飲みの武器が印象深かったですね。『イシャール堂』でも雑誌をモチーフとした武器は作ったことはありますが、エビフライや湯飲みなんてアイディアはどこから来たのか。


 しかも、モチーフの面白さだけではなく、実戦に耐えうる攻撃力、耐久性…… いつか僕もあんな武器の考案者になりたいものです。

 まず、そのためには普通の武器をしっかり作れる腕を磨かなければなりませんが。


 ああ、話がそれました。僕の話はいいのです。

 今は、師匠がロマン武器を作りたい。という話です。


「ロマン武器、ですか」

「おう。最近、東方の個性的な武器を見たり、古い時代の素材なんかを触っただろう」

「エルジオンではあまり一般的でない製法もあって、面白かったですね」

「そうだろう。やっぱり、今まで見たことのないレシピや素材を扱うと、『俺が、もっともっとこいつらの性能を引き出してやりたい!』とか、『こいつがありゃぁ、今まで誰も見たことがないようなもんが作れるんじゃねぇか』って思うんだよな」

「わかります!」

「ただなぁ。一言で「ロマン武器」といっても間口が広くってなぁ」


 その時、お客さんがご来店され、話はそれきりとなってしまったのですが、師匠の言うことに僕はすごくすごく共感しました。


 何か作りたい意欲はとてもあるのに、意欲だけがふわふわと在って、形にならないもどかしさ。あと1ピースで揃うのに、何がその足りない1ピースなのかわからない、ふんぎれなさ……


 「古きを温ねて新しきを知る」という言葉もありますし、様々な時代の武器図録も取り寄せてみましたが、どれもピンとこず……


◇◇◇◇◇


「と、いうことでお嬢さんの人脈の広さを見込んでお願いがあるのです」


 エイミが『イシャール堂』を訪れると、店員の男性がそう切り出した。


「『と、いうこと』って言われても、話が見えないのだけれど……」


 エイミが困惑気味に返すと、店員は軽くうなづき、ノートとペンを取り出した。

 携帯端末が一般化したエルジオンでは、ノートとペンは日用品、というよりも嗜好品に分類される。店員の手にあるノートも臙脂色の落ち着いた装丁、同色のペンはノックやクリップの金属部分に彫金が施されていた。


「詳細は、このノートに書いてありますが、先人のロマンあふれる武器についての情報が欲しいのです」

 そういうと、店員はノートとペンをエイミに差し出した。


「ロマン…… そのノートに書けばいいの? というか、携帯端末からレポートを送るのではだめなの?」

「だめですね! 調べる段階からロマン武器のロマンは始まっていますので!」


 力強く言い切った店員に、エイミは胡乱げな目を向けた。

「……今度は、何に影響されてるの?」

「シアターで公開中の『ミステリ・マグノリエ2』ですねー。 そのノートとペンも映画のグッズなんです。作中で主人公がミステリ収集のために、いつでも持ち歩いているアイテムで、そのノートに集めたミステリのいくつかが、いにしえの王国の謎に関連していて……」


 「わかった。そのノートに『ロマン武器』の情報を集めてくるわ」

 興奮して口の回転が速くなる店員を制し、ノートを受けとると、エイミはイシャール堂を後にした。

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