俺のラブコメの最大の難関は神様だった。
ちっぷすたー
第1話 【速報】俺のなりゆき
どうも、陰キャです。
いや待ってくれ。
またぼっち系ラブコメかよと思ったそこの諸君。
違うんだ!俺は望んでこの状況になったわけじゃないんだよ!
「今週どこ行くぅ〜?」
「うーん。水族館でも行くか!」
「うん!」
あ、そうそう!
今俺の前を通って行ったカップル。
2日後、別れます。
なぜなら神様が言ってたから。
そう、神様である。
顔の前で手を組み、総司令官やってそうな感じでポツンと一人、机に座っている俺に神様が舞い降りたのである。
「ねーねー!」
信じ難い話だがこれは本当の話であり、俺の現実に起こったことなのだ。
「おーい?」
普通なら、そんな夢みたいな状況に驚き、そして神様からこの世界を生き抜く中で有利な能力を得たり、自分が思う理想の世界に変えてもらったり。そんなことを期待するだろう。
しかし、現実は非情である。
俺は神様と出会ったことが人生において、最大の災難と化したのだ。神様とかマジで滅びねぇかな。
「おい」
なぜ災難と化したのか今から説明するわ
「無視ですかー?鍵谷良介くーん!」
けだがその前にいい加減、このうるさいやつの相手をしてやろう。
俺は嫌々後ろを振り返り、そいつの顔を確認する。
「心の声全部聞こえてるけど」
「………はぁ」
俺を地獄に追い込んだ張本人、自称神様こと倉橋弥生である。
制服を身にまとった神様、倉橋弥生。神様と言うと仙人みたいなじいさんを想像する人が多いが、現実の神様はまさかの美少女。綺麗な黒髪に、現実離れした顔、それでいて色気ある抜群のスタイルに、誰とでも仲良く接する、明るく、優しい女の子。
顔、スタイル、性格、スペック諸々完璧で、まさに神様のような女子高生だ。
そんな万人受けのスーパーアイドルのこいつがマジモンの神様だとは俺以外知る由もない。
こんな超絶美少女がなぜ俺の災難と化したのか。
時は昨日の夕方に遡る─────
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部活終わり。
俺は同じサッカー部の友人、松浦伸二、立川晋太郎、山根仁と帰宅していた。
西に傾く初夏の太陽に照らされながら、俺たち4人は駐輪場までの道を歩く。
「ハックシュン!!」
「晋太郎花粉症か?」
「ん、あぁ。伸二はいいよなぁ〜!この時期は辛いのよね」
「分かるぜ!俺も花粉症なんだよぉ〜」
「良介と晋太郎羨ましいなぁ」
「おい仁。鼻出せ。細くしたティッシュ突っ込んでやる」
「バカっ!やめんか」
「いいぞ!俺たちと同じ目に逢え!」
「俺は大人しく見守っとくわ」
「良介茶化すな!伸二はたすけろやぁ!」
ティッシュ片手に仁を追いかけ回す晋太郎。
それに遠目に見ながら爆笑する俺と伸二。
2年生になってもこいつらとこうやってバカできることにはとても感謝しなければならない。
恋愛ありの青春とか言う人もいるけど、俺にとってはこうして男4人でバカしてる時の方が青春しているなぁと感じることができる。
こいつらとは1年生の頃から仲良くしてもらってる。
人見知りだった俺に積極的に話してくれて、暗闇から俺を引っ張り出してくれたおかげで、俺は今こうしていられるのだ。人見知りもだいぶ改善され、俺は色んな人と話せるようになることが出来た。
でも、俺はそんなこいつらに何も恩を返せていない。
一年も経ってなお、こいつらには迷惑かけるし、こいつらのためになるような事は何も出来ていない。
なんなら、俺に何かできるようなような力もないし、それでも力になりたいと思うけど何をすればいいのか分からない。
でも、こうして仲良く話してくれるし、一緒に帰ることもできている。
お互いに助け合い、支え合い、そういった相手を思いやる仲間意識が友情や信頼関係を作り、本当の関係になる。心の底から信頼し、それを構築するために自分ではどうしようもない苦境をさらけ出し、それを仲間と協力して解決していく。それをみんなで共有することで固い絆を構築する。
でも俺は、そのために必要な力もないし、何かこいつらのためにしたこともない。
なんなら俺たち4人、お互いを助け合う、自分をさらけ出す、そういったこともこの1年間、1度もなく、ただただ表面上で笑い合い、関わり合ってきた。
それは俺が認識している本当の関係とは程遠いし、きっと本当ではないのだろう。
だからといって、俺たちが偽物の関係では決してないような気がする。
お互い信頼している部分もあるし、認め合っている所もある。
本当でもなければ偽物でもない。
それ以前に俺が思っている本当自体、違うかもしれない。
じゃあ、本当の関係ってなんなんだろうか。
そんなことをふと思う。
「おい?良介大丈夫か?顔暗いぜ?」
隣にいた伸二が俺の顔を覗き込む。
こうゆうところにはしっかり気づいてくれる伸二はすごいと思う。
多分俺には分からないな。
「ん?あぁ悪ぃ。ちょっと考え事さ」
「お、おうそうか。ならいいけどよ」
「あぁ。おい!そろそろ帰ろーぜー!」
まぁでも
「バッグジュッ!!ふぉー!帰ろバックシュン!!」
「くしゃみ止めろよ気持ちわりぃ!」
「ぶははは!!!」
「ひゃー!腹痛てぇ〜!あははは!」
今はこのままでも
「ふっそぉおばえらほぼえてろよ!ハックシュ!!」
「何言ってっかわかんねぇ〜!」
いいかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「んじゃ、俺こっち〜」
「おう。じゃな良介」
「またなぁー!」
「まーたーあーしーたー」
「おうよー!」
他の3人と別れ、俺は1人で自転車を漕ぐ。
いつもこの交差点で3人と別れ、細い路地進むのだが、この後の喪失感はかなりのものがある。
俺の左側には中学時代、よく寄ってた公園がある。公園の街灯は今にも切れそうにチカチカと点滅している。
大通りから外れた薄暗い路地を1人で自転車を漕ぐ。
さっきまであったものが急に手からこぼれ落ちたような気分だ。
この道を通ると公園の存在も相まって、中学時代を思い出す。
二度とあんな思いはしたくないものだ。
公園を通り過ぎ、家までラストの曲がり角を曲がった時、突然、なにかの障害物ぶつかった。というか人だろう。なんか柔らかかったし。
「うおっ!あぶねっ!」
幸い、持ち前の反射神経が発動し、軽く避けたため、転倒とまではいかなったものの、思いっきりぶつかってしまった。
「大丈夫って……へ?」
俺は恐らく倒してしまった人を起こすため足元を見る。
しかし、そこには地面と垂直に上に伸びる足。
かなりの衝撃があったはずなのに、そいつはピクリともせずに立っていたのだ。
そして、何より驚いたのが、
その人物が
「そんなくらいでは倒れないわよ」
絶世の美少女だった。
俺のラブコメの最大の難関は神様だった。 ちっぷすたー @nanashi__17
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