第4話 料理を頂く

 意外な事にウルススは料理が得意だと云う。宿に宿泊した時は出された料理のレシピを聞いたりするらしい。でも、実際に食べてみるまで油断は出来ない。オリジナリティーを出そうとして妙な調味料を入れる人物も居ると風の噂で聞いている。

「じゃあ、買い物は任せた。まだ、厄介になりそうだからな。食事当番は交代制の方が良いだろ」

「ウルススはお尋ね者ですものね?」

「不審者には違いないな、お尋ね者かは分からんが……」

「ああ、前国王は病死って事になってますからね」

「俺は暗殺者ギルドの方が怖いな。本当の意味で真実を闇の中に葬り去りたいのはギルドの方だからな。幾ら貰ったかは知らないが……。それよりもブランデーを飲んでだろう? 減ってたぞ?」

「なんの事だか、さっぱりです」

「このアマ、食い物の恨みは恐ろしんだぞ?」

「ブランデーは飲み物ですよ?」

「細かいな、飲み物の恨みなんて言葉はねぇんだよ」

「じゃあ、行ってきます、留守中私の下着とか物色しないで下さいね」

「ガキの下着なんか興味あるか、阿呆」

 カッとなって乱暴に扉を閉めた。女性扱いされてないのが無性に腹が立つ。

「いつか、ボンキュッボンになって見返してやります!」

 少し冷静になって食材の書かれたメモを確認する。王都で手に入らない物はない。王都全てのお店を全部把握している訳ではないが、いつか全てを把握する情報屋になってみせる。

「何を作るつもりだろ?」

 パスタ料理なのは分かるが、貝なんて何に使うのだろうか。

「貝を使ったパスタ? レストランでも食べた事ないですね……」

 世の中まだまだ知らない事ばかりだ。だからこそ楽しいと思う。知り過ぎるのも問題かもしれないが、情報屋とはそういう職業だ。

「貝の指定がないのが気になりますが、不味ければ影に食べてもらいましょう」

 一度も姿を見たこともないが、義理堅い事だけは分かっている。不味いパスタでも食べてくれるだろう。

「胡椒なんて高級品をパスタに使いますか……。ますます謎です」

 買い物を終えて帰宅するとウルススが濡れた布で体を拭いていた。長い潜伏で体が痒くなったのかもしれない。師匠以外の大人の裸は初めて見る。一片の無駄なく鍛えられた体だった。暗殺者とはこれだけ鍛えないといけない職業なのだろうか? こんなに見惚れたのは初めてかも知れない。

「何見てんだ?」

「私も年頃ですから、興味はあります」

「うるせえよ、ドアを閉めて食材を台所に置いて来い」

「もうちょっと見てていいですか?」

「お前な……。金取るぞ」

「これでも裕福です、いくらですか?」

「はぁ、怒るのも馬鹿らしい好きなだけ見てろ。世話になってるから金は取らん」

 お言葉に甘えてそれから二十分くらいガン見した。

 ウルススが作ってくれた貝のパスタは絶品だった。貝の旨味をパスタが吸い、胡椒が味を締めている。新鮮な香草を使えばもっと旨くなるといっていたが、これは毎日でも食べられる味だ。料理が得意と言うのは本当の事だった。悔しいが私が前に出したボロネーゼより断然美味しい。

「おかわりあるぞ?」

「いただきます!」

「やっぱり自分の料理が評価されるのは嬉しいな」

 ウルススの屈託ない笑顔を初めて見たかもしれない。胸の奥がキュンとする。これが初恋だと気付くのはもっと先の話だ。




 



 

 

 


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