第2話 初めての依頼

 三人分の料理を作り一つは資料部屋の師匠に他の二つは自室にいるハズのウルルスと食べる事にする。

「ウルスス。すみませんが、扉を開けて下さい」

 ウルススは何の警戒も無く扉を開けた。国王を殺害した暗殺者にしては不用心だと思うのだが、

「ああ、飯か……」

「そうです。今夜はボロネーゼにしてみました」

「……。牛肉は苦手なんだがなぁ」

「施されているのに、文句言わないで下さいよ」

「すまんな、旨い牛肉に出会ったことが無いんだ」

 確かに王都の肉屋で牛肉を買う人間は少ない。値段が高いせいもあるが、あまり美味しくないのだ。

「ボロネーゼって何のパスタだ?」

「肉の入ったトマトソースですね」

「王都の人間の味覚には付いていけない……」

「それは食べてから判断して下さい」

 無理やりウルススに皿を渡すと私は机で食べる。資料にトマトソースが着いたら大惨事だが、十分に片付いている。ウルススが片付けてくれたのだろう。

「ウルスス、資料読みました?」

「いや、余計な事を知らない、聞かないが俺のモットーだ」

「ならいいです。いただきます」

「いただきます」

 パスタをフォークで巻くのはお子ちゃまだけという話だが、こっちの方がだんぜん食べやすい。王都のレストランに居る訳では無いので自分の好きな食べ方でいいはずだ。

「ふ~ん。こんな味になるんだな。美味い」

 自分の料理が褒められるのはやっぱり嬉しい。レストランで食べて以来その味にに近づけようと努力していて良かった。

「蒸留酒は食後ですから」

「分かった。ご馳走様」

 いくら何でも食べるのが早すぎだ、私はまだ三分の一も食べていないのに、

「美味かった、ありがとな」

「私は食べ終わってないので……」

「この料理すぐ食べないととソースが分離しそうでな……」

「私は猫舌なんです……」

「難儀だな」

 床で何をする訳でも無くボーとしているウルスス。今なら私でもヤレるのでは? そんな疑問が湧いて来る。

「変な気は起こすなよ……」

「ひゃい!」

 心を読まれた? 返事が裏返ってしまった。

「ご馳走様でした」

 ようやく食べ終えた。その間生きてる心地がしなくて味はよく分からなかった。

「蒸留酒持って来てくれるか?」

「銘柄も質もお任せでいいんですよね?」

「ああ、逃亡生活で贅沢は言わんさ」

 銘柄も質も良く分からないので、一番安い物にしといた。

「これは酷い。管理が甘かったな」

「一目で分かるんですか?」

「まあな、色々の酒を飲んできたからな、お礼と云っては何だが一つ面白い話をしてやろう」

「凄惨な話は止めて下さいよ?」

 食べたものを吐きたくない。それは食材に対する最大の侮辱行為だ。

「暗殺ギルドの入会試練だよ。そんなに凄惨な話じゃない」

「嫌な予感しかしないのですが?」

「まあ、聞けよ。ただのお使いクエストだ」

 蒸留酒をラッパ飲みしている。こんどはグラスを用意しよう。

「王都からある場所に荷物を運ぶだけのクエストだ」

「それが入会試験なのですか?」

「まあ。襲撃者もいたし、それなりに危険だがな、依頼主と受け取り人が同じ顔だったらどうする?」

「それは、普通に渡すのでは?」

「俺はお前は誰だ? って聞いたのさ」

「……。双子ですか?」

「いや、正確には三つ子だった。それを俺は見抜いてめでたく暗殺者ギルドに入れたんだがな」

「そんなの見抜けるものなのですか?」

「呼吸数とか、口調とか。まあ、いくら上げてもキリがないが、俺はギルド長に気に入られた」

「はた迷惑ですね……」

「俺もそう思う。今回の国王暗殺にも選ばれちまった」

「それは、ウルススを評価しての事では?」

「いや。俺がどう、しくじるか見たっかだけだと思うぞ?」

「歪んでますね、そのギルド長」

「まあ、三つ子の父親なんだがな」

「ああ、娘にたかる悪い虫ですもんね」

 蒸留酒をラッパ飲みして吐き出すように答えた。

「手は出さないよ、俺も命が惜しい。この場所も暗殺者ギルドにはバレていないと思う」

「二重に狙われているんですね……」

「ベスには頭が上がらんよ」

「私にもでしょ?」

「はいはい、感謝してるよ」

 そのまま床にゴロンと寝転がって寝始めた。たぶん、私が襲っても返り討ちに合う。猛獣がこの部屋にいる。そう思うと少し怖くなった。

 

 

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