第2話奇妙な朝食

 朝、給仕からあなたと朝食を摂るように別室に促された。

 制服に着替えてから、あなたの部屋に入った。アメスピの煙草の香りがする部屋は久しぶりで、私の胸はわずかに興奮した。席にはあなたが居て、知らない男性が同席していた。背がすっと高く、目鼻立ちがはっきとした顔立ちである。服は真っ白で襟が立ったシャツに紺色の上等そうなベストを着ていた。年はあなたよりは幾分か年下に見える。

「リベルタだ。座れ」言われるがまま、給仕が引いた椅子に腰かける。リベルタという青年はこちらに視線をしっかりと合わせて「おはよう、はじめまして」と爽やかな笑顔を向けた。私は眉も動かさずに「どうも」と返す。私の雰囲気がキリキリと尖っているのなら、リベルタの雰囲気はふんわりと丸い印象である。上品な貴婦人が飼っている質のいいふわふわの猫、という感じである。とにかく、リベルタはよく話す。あなたは相槌を打つくらいで、後はリベルタが会話を盛り上げたり、私に返事を振ったりする。私は語彙力が少なく、喋るという行為もあまり好きではないので、リベルタの話をあなたと共に聞いているだけだ。リベルタは歌うように、滑らかに話す。あなたは他人に指示されるのも、少しの冗談さえも嫌いである。しかし、年下のリベルタの意見や冗談話には素直に耳を傾けていた事を意外に感じた。

 奇妙な朝食が終わってから、あなたは部下から電話を受けて途中退席した。リベルタは煙草を吸わないらしい。代わりにキャンディーを出して、こちらに差し出した。「子供じゃないわ」私はそっぽを向いて答えた。リベルタはにっこりと笑い「僕には君はまだ子供に見えるけどね」「ケンカ売ってるの」私は不快感をあらわにした。「違うよ、僕より年が幼いとか、そういう事を言いたいんじゃない。心の問題だ」「私が300人斬り殺したのを知っていても、そんな口きけるわけ」リベルタは降参した、という風に手を私の前に突き出した。「殺した人数が、殺した人間の精神年齢に比例している、という理論を僕は知らない、ただ」リベルタは窓の朝日を大きな瞳を細めて眺めた。こちらに向き直る。

「君はあの人が居ないと、生きている意味がないと思っている。それは絶対的な強さではなくて、強烈な弱さになる時がある。敵に対してじゃない、君にとって」そして優しい笑顔でこう付け加えた。「君は、目覚めるべきだ」

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