終章

 ガタン、と馬車がひときわ大きく揺れて、エヴァンははっと物思いから覚めた。

 窓の外を見れば、見慣れた王都の街並みが広がっていた。もう少しでジェイソンが待つ屋敷に到着するだろう。

 いつの間にか雨は止んで、雲の切れ間から太陽の光が降り注いでいる。天使の梯子と呼ばれるこの現象は今までにも何度か見ているはずなのに、よりいっそう神々しく感じられた。

『神様のご加護がありますように』

 アイリスの言葉が思い起こされる。もしかしたらこの光は、エヴァンの旅立ちに対する神からの祝福なのかもしれない。

(……なんてね。いくら神が慈悲深くても、僕みたいな人間を祝福するものか)

 自分達を救ってくれない神など、とうの昔に見限った。表向きは信心深い人間を装っていても、真面目に祈りを捧げていたのは遠い過去の話だ。

 —アイリスが言うように、それでも見捨てないというのなら、好きにするといい。

 おまえの祝福などなくても、幸福になってやる。そんな思いで、空を睨みつけた。



 —この二月後、エヴァンはこの国を発ち、二度と祖国へ戻ることはなかった。

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