トモダチ…。

星ぶどう

第1話

 ピー、ピー、ピー…。

 「まずい、このままだと墜落する。緊急着陸するしかない。近くに星は…。」

 ピー、ピー、ピピン。

 「よしあった、ここに降りよう。」

 彼はそう言い、宇宙船を近くの黄色い惑星に向けて舵を取った。

 ゴー…、プシュー。

 宇宙船は無事に着陸した。

 「ふー、何とか助かった。だがまいったな。このダメージではもう動けんな…。」彼はそう言った。

 彼の名前はミスターG。地球で指名手配になっている大泥棒だ。何故こうなったのか。あれは遡る事1週間前の話だ。

 ある日、ミスターGはテレビで面白いニュースを見た。それは誰でも乗れる宇宙船が遂に完成したというものだった。彼は今度はその宇宙船に目をつけた。

 「よし、今度はこれを盗んでやろう。」

 ニュースによると日本宇宙センターで1週間後に試運転をするそうだ。その時が狙い目だろうと思い、彼は早速計画を立て始め1週間後に備えた。

 1週間が経ち、ミスターGは計画を実行した。上手く管理人の目を欺け、会員証を奪い宇宙センターに侵入した。そして遂に宇宙船が保管している場所を見つけた。さっき手に入れた会員証でドアを開けて中に入った。中は真っ暗だったが、運がいいことに中には誰もいなかった。持ってきた懐中電灯であたりを照らすと、そこには宇宙船が5台並んでいた。

 「おお、これが例の。」ミスターGは感動した。

 見た目は丸っぽく、黒と青のしま模様がかっこよかった。まるで現実の世界に、SF映画に出てくるような宇宙船が飛び出てきたようだった。

 彼はもっと詳しく見ようと中に乗り込んでみた。中は1人乗り用で、後ろには荷物が置けるようになっている。今その荷物置き場には宇宙服が置いてあった。ミスターGは興奮がとまらなかった。

 「さあ、後はこれに乗って脱出するだけだ。」

 ミスターGの当初の計画はこうだった。宇宙船ということは空を飛べるので、直接これに乗って自分の家まで飛んでいけばいいと思っていた。

 「このボタンで動くのかな?」

 彼がその赤いボタンを押したその時、

 ビー、ビー、ビー…。

 警報音が鳴ってしまった。

 「しまった。一番目立つから押してみたが、罠だったか。」

 ミスターGが慌てていると、たくさんの職員が宇宙船が保管されている部屋に入ってきた。

 「おい、そこで何をしている。早く降りなさい。」

 「まずい、とりあえずこれを置いて逃げるしかない。」

 そう思って彼は降りようとしたが遅かった。ここの出入り口は二カ所ある。だが彼が入ってきた所は職員にふさがれていて、もう一カ所は宇宙船が出入りするための出入り口があるが、シャッターがしまっている。もはや降りて逃げるのは不可能だと悟った。

 「こうなったらやはり最初の計画通り、宇宙船に乗って脱出するしかないか。だが、どこでエンジンがかかる?」

 ミスターGは一旦落ち着くことにした。すると警報音がやんでいることに気づいた。それと同時にこの機体から変な音が聞こえた。

 ブルルル、ブルルン…。

 どうやらエンジンがかかっていたらしい。やはりさっきのボタンは正解だったようだ。そして下に車のアクセルみたいな物を見つけた。

 「これなら行ける。一か八か、壁を突き破る。」

 ミスターGは念のために持ってきておいた煙玉を職員に投げつけた。

 「何だこれは、げほっ、がほっ…。」

 職員が戸惑っている隙に空いていた窓を閉め、服装や顔がバレないように側にあった宇宙服を着た。誰でも乗れるだけあり、宇宙服も軽く簡単に着れた。そして思い切りアクセルを踏み、シャッターを突き破って脱出した。

 「ヒャッホー、私の勝利だ。」

 ミスターGは喜んだ。だが喜びも束の間、後ろを見ると4台の宇宙船が追いかけてきていた。そしてこちらに向かって攻撃をしてきた。

 「くそ、ちゃんと映画みたいに武器もついているのか。ならこっちも。」

 彼は反撃しようと適当にボタンを押した。だが、どれを押しても何もでない。原因は、さっきシャッターを突き破った衝撃で、武器が壊れてしまっていたからだ。

 「ちっ、逃げるしかねえのか。」

 ミスターGは必死で逃げた。だが、向こうもしつこく追いかけてくる。

 その後、一生懸命に逃げているうちに気づけば宇宙に来ていた。1時間ほどの逃亡の末、運良くスペースダストに紛れ込み逃げ切る事ができた。だが、彼の宇宙船は激しいダメージを負っていて今にも墜落しそうだった。そして近くの惑星に着陸し、今に至る。

 「このままいても仕方ない。まずは降りてこの星を探検してみるか。」

 ミスターGは宇宙船を降りた。空気があるかどうかわからないので宇宙服は着たままにした。また、武器も宇宙船になかったので、何も持たずに降りた。敵に警戒させないためでもある。

 外に出てみると一面に緑が広がっていた。どうやら森の中に落ちたらしい。見た感じ生き物はいるみたいだ。助かった。緑があるということは水があるということだ。また、重力もあったので歩くこともできた。彼は探検することにした。

 ミスターGが歩いているとりんごの様な木を見つけた。なぜりんごの様かというと、形はりんごだが色が青かったのだ。彼は腹が減っていたが体を壊すかもしれないので、食べるのを我慢した。ここで彼がわかったことは、この星は地球と似ているということだ。緑があり、植物も地球にあるものと似ている。ただ空は黄色かった。

 しばらく歩いていると森の出口を見つけた。彼が森を出ると目を丸くした。そこには巨大なビルが立ち並び、道路には車の様なものが走っていた。どうやらこの星は地球と同じくらい進歩した星のようだ。いや、もしかすると地球以上かもしれない。

 「私は運が良かった。この星なら生きていける。」

 ミスターGは早速街を散策してみた。周りを歩いていた人がこちらをちらっと見てくる。まあ、こんな格好をしていたら目立つに決まっているか。そこを歩いていた人はみんな服は着ていたが、みんな肌の色が水色で頭から角みたいなものが生えていた。

 「そりゃそうか、違う星に来ているからな。ここでは逆に私が宇宙人か。」

 ミスターGがしばらく歩いていると、ハンバーガー屋を見つけた。正確にはハンバーガーかどうかは分からなかった。だが、店の前にメニューが書いてある板があり、そこには肉や野菜をパンに挟んだものの写真があったので、おそらくハンバーガーだろう。

 グー…。ミスターGのお腹が鳴った。

 「そういや朝から準備をして宇宙センターに忍び込んだから、何も食べていないな。」

 彼は店に入ろうと思ったがやめた。それは彼がお金を持っていなかったからだ。おそらくこの星も貨幣というものはあるだろう。それに店のメニューの写真の隣には数字が書いてあった。何を表しているのか分からないが、おそらく値段だろう。

 「数字はどこの星でも共通なんだな。それにしても腹が減った。」

 ミスターGは仕方なくまた歩き出した。どこに向かうか分からない。とりあえず今日の寝られそうな場所を探した。

 近くに公園があったので、今日はそこで寝ることにした。彼はベンチに腰掛けこれからのことを考えた。

 グー…。

 「まずは何か食べないとな。」

 彼は立ち上がろうとしたが、お腹が空きすぎて力が入らなかった。

 「やばいな、このままだと飢え死にするな。」

 ミスターGはベンチでうずくまった。

 グー…。腹の虫が鳴き止まない。

 「くそ、私はやはり死ぬのか。」

 そう思った時、

 「あの、大丈夫?」

 誰かが声をかけてきた。顔をあげると水色の顔をした男の人が立っていた。この星の住人だろう。

 「あの、実は…。」

 グー…。

 「あー、お腹が空いているのか。ちょっと待っててね。」

 しばらくするとその男の人が帰ってきた。

 「はい、これ食べて。」

 男はサンドイッチのような物を持ってきた。

 「でも、私はこの星の者ではないんだ。」

 「わかるよ、だって宇宙服みたいなの着ているから。でも大丈夫。これは全宇宙誰でも食べられるように開発された物だから。」

 「だけど、私はこの星では息ができない。」

 「大丈夫、この星も酸素はあるよ。生き物は酸素がないと生きられないからね。」

 ミスターGは勇気を出してヘルメットを外した。そして思い切り息を吸い込んでみた。

 「苦しくない。」彼は息ができることを確信した。

 「ね、僕の言った通りでしょ。さ、これ食べて。」

 ミスターGはサンドイッチを頬張った。少し変わった味だったが美味しかった。

 「助けてくれてありがとう。私の名前はジョージ。地球から来た。地球ではミスターGと呼ばれていた。」

 「よろしく、ジョージ。僕の名前はリゲル。」

 「よろしく、リゲル君。」

 「君付けなんて、呼び捨てでリゲルで良いよ。僕も、もう24歳で大人なんだし。」

 「え!全然見えない!」

 「へへ、地球では若く見えるのかな。」

 会話は大いに盛り上がった。人とこんなに楽しく話したのは初めてだった。

 ミスターGには友達がいなかった。というのも人と話すのが苦手だった。だからいつも一人ぼっちだった。大人になって就職の面接に行った時も上手く話すことが出来ずに落ちた。その結果仕事に就けず、仕方なく物を盗んで暮らしていた。

 そんなこともあってリゲルが話しかけてくれたことは嬉しかった。そしてリゲルとの会話は楽しかった。

 「あのさリゲル、私と友達になってくれないか?」ミスターGは恐る恐る聞いた。

 「もちろんだよ。僕らは友達だ。」

 ミスターGは笑顔になった。初めて出来た友達。心から嬉しかった。

 「で、これからどうするの?」

 「そうだな、まずはこの星で生きる方法を探さなきゃ。お金も持ってないし…。」

 「この星に初めて来たのか。そういや地球からの旅行者は初めてだな。」

 「旅行?」ミスターGは聞き返した。

 「そうだよ。この星は宇宙旅行の旅先で人気の星なんだ。色々な星から観光に来るよ。」

 「そうなんだ。」

 ミスターGはもうすでに色々な星では宇宙旅行が実現していることに驚いた。

 「この星では働かないとお金はもらえないよ。まあ、どこの星でも同じだろうけどね。」

 「でも、私働いたことがなくて…。」

 「大丈夫だよ、きっとジョージにピッタリの仕事が見つかるはずさ。一緒に探そう!ついでに僕が街を案内してあげるよ。」

 「本当!ありがとう。」

 二人が公園で話していると公園に一人のスコップを持ったおじさんが入ってきた。

 「あ、あのおじさんも今からここで仕事をするよ。」

 「え、掃除でもしにきたの?」

 「違うよ。」

 おじさんは公園の砂場に入った。するとスコップで砂を掘り始めた。

 「あれは何してるの?」

 「子どもたちが遊びやすいように砂を柔らかくしているのさ。」

 「え、それ仕事になるの?」

 「うん、この星には色々な仕事があるからね。じゃあ行こうか。」

 二人は街を歩き出した。しばらく歩くと商店街の様なところに着いた。

 「ここは有名な観光地なんだ。」

 そう言われてみれば、確かに色々な顔をした人がいた。ミスターGは改めて地球は遅れていることを実感した。

 私たちは商店街を歩きながら色々な職業を見つけた。ストローを特産品と言って道で売る人。服屋でマネキンの代わりに服を着て立っている人。この辺の道案内だけをする人もいた。

 「この星には、地球にはないような変わった職業ばかりだな。」

 「実はこの星では人口が増えすぎて、一時期就職難民がたくさん出たんだ。それで政府が改善しようと無理矢理でも新しい、今までに無かった職業をたくさん作ったんだ。おかげで今は仕事に困る人はいない。」

 「ふーん、そうなんだ。」

 「あっ、そうだ。忘れてた。」

 リゲルが突然大声をあげた。

 「写真撮ろうよ、記念にさ。」

 「あ、良いね。撮ろう撮ろう。」

 リゲルはポケットから携帯電話を取り出し、二人は商店街の門の前で写真を撮った。

 「ありがとう。ついでにさ、これに名前を書いてくれる?」

 リゲルは何やら請求書の様な紙を取り出した。

 「何これ?」

 「これは僕が仕事をする時に必要な書類なんだ。別に悪いことしている訳じゃないから怪しまないで良いよ。」

 「そうか、リゲルももう大人だから仕事をしているんだな。いいよ、初めての友達だから信じるよ。」

 「ありがとう。」

 私はその紙にサインをした。そして私は聞いた。

 「ちなみにリゲルはどんな仕事をしているの?」

 リゲルは言った。

 「一人ぼっちの人を見つけて、友達になってあげる仕事…。」

 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

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トモダチ…。 星ぶどう @Kazumina01

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