逃げ
あー、疲れた……」
「大分、疲れてるな。ほれ」
そう言って、悟はグラスに入った麦茶を渡してくれる。
俺はそれを一気に飲む。
よく冷えていて、喉が乾いていたせいか普段より美味しく感じる。
今は昼時になり、一旦、買い物を止めてショッピングモールの中にあったファミレスに来ている。
「食べ終わったら、今度は何処回るー?」
「え、まだ回るの……?」
「当然! 今度は男女に別れて行くよー!」
まじか、これで終わりじゃないのか。俺は欲しい物は揃えたからもういいんだけど………。
だけど、女子組は次は何処に行こうか、と楽しそうに話し合ってる。
…………仕方がない、最後まで向き合おう。
「じゃあ、俺達は何処行く?」
「俺は新しい鞄が欲しいな」
「俺はもう欲しい物揃えたから任せるよ」
「そうか。俺も欲しい物は大体買ったし、鞄を見に行くかー」
男子の方は話がまとまり、女子の方はまだ話し合ってるようだ。
「お持たせしましたー。こちら、カルボナーラとハンバーグ定食です」
そうこうしてる内に、頼んでいた品が運ばれてきた。
カルボナーラは俺で、ハンバーグ定食は亮平だ。
それから次々に休む事なく頼んだ品が運ばれてくる。
「じゃ!食べよーー!!」
そう、鈴原さんが言うと皆食べ始める。
俺もカルボナーラを一口。
味の濃いホワイトソースが口に広がる。ベッパーが効いているのかそこまではくどくなく、チーズのコクが合ってとても美味しい。
「あーでも、ましろんごめんね。ひいーちゃん借りちゃって」
「え、何で謝るの?」
「だって、ましろんとひいーちゃん付き合ってるんでしょ?」
「いや、付き合ってないよ」
はっきりと答える。前にもこれで迷惑をかけてしまったのでここはちゃんと伝えとかないとな。
と言うか、前ので誤解は解けた、と思ってたんだが。まだ解けていなかっとのか。
『『え』』
三人が揃って驚く。そんなに驚く事か? しかも、亮平と相沢さんまで。
「嘘でしょ? よく一緒に登校してくるの見るよ?」
「通学路が一緒だから」
「じゃあ、一緒に帰るのは?」
「それも、帰る方向が一緒だから。生徒会の事で話したい事もあるし」
『『……』』
三人は黙ってしまい、食べる手を止めてしまう。
さすがに、本当の事は言えないが、柊さんの家は、俺の家の近くらしいし、行った事ないから分からないけど。帰りも生徒会の事で話もするからあながち間違ってない。
「と言うか、一緒に登校したり帰ったりするのは、友達として当然でしょ?」
「………私、ひいーちゃんが可哀想に思えてきた」
「俺も……」
「カナ、よしよし。諦めず頑張るんだよ?」
皆で柊さんを慰め始めた。何故だ? 俺、何かした……?
「………ましろ、ちょっと話がある」
「なんだよ、悟まで」
「すまん、亮平。少しの間だけ俺とましろ抜けるわ」
「おう? 分かったぜ」
ちょっと来い、と悟に腕を引っ張られる。
「ちょっ!?なに!?」
「いいから、来い!」
俺は、悟に強引に連れていかれた。ええ、まだカルボナーラ食べてないのに……。
◇◇◇◇
「なんだよ急に」
悟に人気がない場所に連れてこられた。
急にどうしたんだ? 本当に。
「なあ、ましろ。そろそろ前を向かないか?」
「前を向くってなんだよ」
「お前、気づいてんだろ?」
悟は言葉を遮ってそう言ってきた。俺はその言葉を聞くと口をつむがせる。
悟が何を言いたいのかよく分からない。いや、分かってはいるけど分かりたくないんだ。
「気づくって何にだよ」
「そろそろ見て見ぬフリはやめないか?」
「だから、何を」
「いいから、答えろ」
真剣な顔で見てくる悟。これ、マジなやつか。
これは、答えるまで逃がしてくれないな。
見て見ぬフリ…………俺の予想、いや、確実に柊さんの事だろう。
俺は人を信用するのが嫌だ。
信用して、もし裏切られたらどうする? もちろん、悲しいし、怒りもある。
俺は、何度も、何度も、大切な人に裏切られた。
悲しかった、寂しかった。怒りもした。
その気持ちは何度も受けたって、慣れないものだ。そんな気持ちをするぐらいなら、最初から関わらないか、もしくは見て見ぬフリをするのが一番だ。
もちろん、柊さんがしないってのは少しの付き合いだけど、分かってはいる。だったら、柊さんの気持ちに答えるのが一番なんだろう。
だけど、いざ信用して、裏切られたらどうする?
俺はそんな体験を何度もしているから、簡単には人が信用ができない。
「分かってるだろ、これ以上、柊を無視をするのか?」
それ以上は────言わないでくれ。
「そんなに、信用ができないか?」
「だから、何を。悟、そろそろ戻ろうよ、皆待たせてるから」
「言わないと分からないか?」
お願いだ、悟。言わないでくれ。それを言われたら、もう見て見ぬフリができない。
「悟。ごめん。まだ無理だ」
「……………そうか、"まだ"だな」
「ああ」
悟は納得はしてない様子だけど、これ以上の追求はやめてくれた。
まだいいんだ。今はこのままで。
それは今じゃなくてていい。いつか必ず向き合う。
「悪かったな、いきなり」
「いいよ。悪いのは俺だし」
「やっぱり、怖いか?」
「まだ、ちょっとね」
「そうか」
悟はそれ以上は何も聞かなかった。
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