過去
「おかあさん……いっしょに、いてくれ、る?」
「もちろん。お母さんはましろの側にずっといるよ」
少年が弱弱しい声でそう言うと、お母さんと呼ばれた女性は安心させるように、にこやかな笑みを浮かべ、少年の手を握ってあげた。
少年は安心したのか、目を閉じて眠ってしまった。
◇◇◇◇
「……」
懐かしくて、思い出したくない夢を見た。
朝から気分が悪い。もう一度寝たい気分だが、花月の朝食を、
「あ、そういえば泊まりに行ってるのか」
昨日、花月は遊びに行ったまま友達の家で寝てしまったそうで、そのままお泊まりしたんだった。
「……」
俺は少し考えて、布団を頭まで深くかぶり、瞼を閉じた。
◇◇◇◇
「……何しよう」
誰もいないリビングでボソリ、と呟く。
今は昼過ぎ。
既に家事を全て終わらせて、買い出しにも行って、課題も終わってしまっている。
いつもなら、花月と出掛けたり、家で遊んだりとかしているが、今日は花月が居ない。
柊さんにも今日は花月が居ない、事を伝えてあるから来ないし。
悟に、今は会いたくないな。
「だったら、どうしよう………」
さっきまで韓ドラを観ていたテレビを消して、ソファーに身体を任せるように力を抜く。
よくよく考えてみれば、花月が来てから一人になった事がない。
花月が来る前って何してたっけ。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「あれ、本当に何してたっけ」
花月が来る前の事が、あんまり思い出せない。
いや、思い出せ。この暇すぎる時間を打開する方法を。
勉強したり、悟と一緒に遊んだり、爺ちゃんと────
「いたっ!」
頭が締めつけられるような痛みが走った。
だけど、痛みは直ぐに治まってくれた。
「疲れてるのかな」
最近、短い間で色んな事があったしな、無理に何かをやる必要はないか。たまにはゆっくり休もう。
でも、休むって何をすれば───その時、家のチャイムが鳴る。
「ん、誰だ?」
今日は誰かが来るとは聞いてなかったし、特に何かを頼んでもないから宅急便でもない。
こんな、いきなりくるのは、悟かな?
俺はだらけていた身体を起こし、玄関に向かう。
玄関に着いて、ドアを開ける。
そこに居たのは、茶髪の髪を一纏めにしており、歳のわりに綺麗な肌をしている──母さんだ。
「久しぶり。 ましろ」
「何の用?」
「母親が息子と娘の様子を見に来るのに理由なんている?」
俺はその言葉に、イラッ、とする。
何が母親だ。今まで放置してたくせに。
「帰ってくれ」
「ふふふ。ましろってば隅に置けないわよねー! こんな可愛い彼女さん作ってるなんて!」
「人の話を…………ん? 可愛い彼女さん?」
そう言うと、母さんの後ろからひょこっと、見覚えがある女の子が顔をだした。
「柊さん? どうして」
「あ、いやその……」
「家のまでウロウロしてたから捕まえちゃった! 」
捕まえちゃった、じゃねえよ!!とツッコミたいがぐっと堪える。
でも、何で柊さんがうちに。花月は居ないって伝えたはずなんだけど。
「ね? 立ち話もなんだし、中に入って話をしましょ!」
「………勝手にしろ」
「はーい!勝手にしまーす!」
元気に返事をして、俺を押し退けて家の中に入っていく母さん。この人は、子供か。
「柊さんも上がって。せっかく来てくれたんだからお茶ぐらいはだすよ」
「あ、はい!」
俺は、柊さんと中に入っていく。
「あら? 花月ちゃんは?」
「友達の家だよ。さっさと帰れ」
「あらそうなの。残念」
そう言って、母さんは椅子に座る。だから、人の話を聞けよ!!
もう、一々この人に構ってられない。構ってたら疲れる。
「ささ、奏ちゃんも座って座って!」
そう、母さんに促されて、柊さんは椅子に座る。
俺は冷蔵庫からキンキンに冷えたお茶をコップに注ぎ、持っていく。一応、母さんの分も持っていく。
と言うか、奏ちゃんって……いつの間にそんなに仲良くなったんだよ。
二人に渡し終えたら、母さんとは真反対の椅子に座る。
「はあ。もういい加減帰ってくんない?」
「まだ来たばかりじゃないの。私はそれより!奏ちゃん! ましろの何処が好きになったの!」
「ふえ!? ええっと……その」
「あのさ、別に柊さんは彼女とかじゃないから。困らせるなよ」
「え?そうなの? そうとは知らずにごめんなさいね」
「い、いえ!」
これで話は終わったな。帰ってもらおう。
「じゃあ、帰ってくれ」
はっきり言う、俺は物凄く苛々している。そろそろ沸騰しそうなぐらいに。
「ねえ、ましろ。そろそろ戻ってこない?」
「戻らない。それと、そんな話を人前でするな」
「そうでもしないと、ましろ話聞いてくれないじゃないの」
俺は口を紡ぐ。
何なんだよ、今さら関わってくんなよ。今までどれだけ放置してきたと思ってるんだ。
「ねえ、仕送りに一切手をだしてない見たいだけど、ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてる。聞きたい事は終わった? 」
母さんは心配そうな顔をする。やめろ、今さらそんな親みたいな顔をするな。
「そう………ごめんなさいね、いきなり来ちゃって。そろそろ帰るわ」
そうだ、それでいい。あんたはいつも通り、子供より仕事を優先すればいい。
母さんは席を立ち上がり、最後に、じゃあね、っと言って帰って行った。
「ごめんね、見苦しい物見せちゃって」
「いえ、私は別に!」
柊さんせっかく来てくれたのに本当に申し訳ない事をした。
あの、母親、場と空気ぐらい読めんのか?たっく………。
そこから、何を話したらいいか分からず、静まる空気。
き、気まずい…………何か話題を………。
「それで、柊さんは何かあったの?」
「あ、いえ。私は特に用事は……」
「そっか。花月もいないし、今日は帰る?」
「………あの、よかったらで良いんです。お話してくれませんか?」
その言葉を聞いて、俺は顔から緩みを無くして、柊さんを見る。
柊さんな真剣で、必死そうな表情をしている。
その時の俺は何を思ったのか自分でも分からない。本当は一番聞かせたくないのに。
「いいよ。話してあげる」
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