いい提案、?

キ──ンコ──ンカ──ンコ──ン。


「───今日はここまで。予習しとけよー」


そう言って先生は出て行った。


ざわざわと騒がしくなる教室。

先生が出ていって直ぐだが、自分の昼飯を持って既にいくつかのグループができていた。


かくいう、俺の席にも一人の男子生徒が来ていた。


「おい、大丈夫か?」

「ん? 何が?」

「いや、今日ずっと上の空だったじゃん。先生に当てられて当てられてもずっとぼーーとしてたし」

「あー」


この無駄に茶髪を長髪にしている男、九条くじょうさとるとら小学校からの付き合いがある幼馴染だ。


身体付きどっちかと言うと筋肉質だし、背丈も高い方。見た目はチャラいがしっかりとしていて、頼れる男だ。この学校にファンクラブがあるぐらいモテる男でもある。


「で、何かあったのか?」

「んー、花月の事でな」

「花月ちゃんのこと?」


俺はさすがに大きな声で言えないので、ちょいちょいと手招きし悟は耳を傾けてくれた。

小さな声で俺は朝の出来事を悟に伝える。


「花月に、誕生日プレゼント何がいいって訊いたんだよ。そしたらさ、ママが欲しいって」

「え」


悟も素っ頓狂な声をだして驚いていた。うん、だよね、驚くよね……。


「で、どうしたんだ?」

「笑って誤魔化した」

「お前な、そこはちゃんと断れよ」

「いやでも、泣いちゃうかもしれないし、拗ねて口を聞いてくれなくなるかもしれないし」

「お前なぁ」


悟は呆れた様子で手で頭を抑えてため息をした。


花月が泣くのも嫌だし、話を聞いてくれなくなるのも嫌だ。そんな事になったら、俺は死ぬ。


「まあ、ましろなら作るの苦労しないから大丈夫か」

「ん、嫌味か? 自分がモテるからって嫌味か?」

「何でそうなる………。あのな……………いやいいわ。お前には何言っても無駄だ 」


悟は何かを言いかけてやめる。

なんだ?また嫌味を言おうとしたのか? 腐れ縁だからと言って何を言っても許されると思うなよ?


「どうやって断ろうかな」

「正直に言えば? 無理って」

「お前は、鬼か……。もっとオブラートに包んだ言葉を選べ」

「ええ」


悟は凄く面倒くさそうな顔をしているが、渋々といった感じで一緒に考えてくれている。


んー、この際、会長に頼むのもあり…………いや、無しだ。会長には迷惑かけぱなっしだし、これ以上はかけられない。


だとすると、どうしよう。何かいい策はないか。


そんな時、悟が、あっ、と声を漏らして何かを思いついたようだ。


「俺にいい考えがある」

「ほんとか! 花月は悲しまないか?」

「ああ。だが少し準備に時間かかるから、今日の放課後ましろの家に行っていいか?」

「もちろん。やっぱ悟は頼りになるな」

「どの口が言うんだ。まあ任せろ」


なんて頼りになる親友なんだ、やはり相談して正解だった。


でも、どんな策なんだろう…………まあいいか。花月が悲しまないなら何でもいい。



◇◇◇◇


西日が射しこんで茜色に染まる中央廊下。外からは部活動に励むサッカー部や野球部の掛け声が聞こえてくる。


俺は帰る前に生徒会に処理が終わった書類を持っていこうとしている。


ここ私立大熊高校は会長だけが選挙で選ばれる。あとのメンバーは会長自身が選ぶ、っとちょっと変わったやり方となっている。


まあ何が言いたいかって言うと、俺は副会長なんだ。ちなみに、悟は書記だ。あとは会計がいる。


生徒会室の前に着き、がらっとドアを開けて入っていく。


中央にローテーブルが置いてあり左右に二つ、真ん中に一つ椅子が置いてある。

壁際には本棚があり、色々な書類が挟まったファイルがぎっしり詰まっている。


これが大熊高校の生徒会である。何時も思うけど、シンプルだよな。まあそれが一番いいのだけど。


そして、真ん中の席に座るのが、我らが生徒会長───西蓮寺さいれんじ陽乃ひなのさんだ。


さらっ、としており艶やかなロングストレートの黒髪が特徴で、顔立ちや体型だってモデルに引けを取らないだろう。


「おや、ましろ君じゃないか」

「昨日預かった書類終わりましたよ」

「忙しいのにすまないね。ご苦労様」

「いえ、このぐらいどうって事ないですよ」


そうか、と安心した様子で頷く陽乃さん。


本当にどうって事はない。陽乃さんは事情を知ってくれているから少ない量しか俺に渡してこない。


その気遣いは嬉しいのだが、その反面、申し訳ない気持ちが一杯だ。だが、花月の事もあるから今は甘えさせてもらうしかない。


陽乃さんのためならなんだってしたいんだけどなぁ。


「じゃあ、俺は帰りますんで。またなんかあったら連絡下さい」

「うむ。それじゃあまた明日な」


踵を返し、俺は生徒会室を後にした。

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