いい提案、?(2)

「ただいまー」

「おかえり! パパ、おきゃくさんきてるよ!」


リビング方からダダダッッと足音を立ててお出迎えしてくれる俺の天使──花月。こらこら、走ったら危ないだろ?


よしよし、と頭を撫でてやる。


お客さん? 誰だろう。

花月は悟の事を知っているからお客さんなんて呼び方しないし。


考えても分からないから、花月に訊いてみる。


「お客さんって 悟じゃないのか?」

「ううん、さとるお兄ちゃんじゃないよ。とってもキレイなおねえさん!」


キレイなおねえさん、? ますます誰か分からない……。


そして、リビングのドア前まで来た。


ゴクリ、と唾を飲み込んで、少し覚悟を決めてからドアを開ける。


「おねえさん! パパ帰ってきたよ!」

「あ、お邪魔してます…!」


丁寧にお辞儀をしてくるキレイなお姉さん、元い、ひいらぎかなでさん。


色素の薄いロングストレートの髪。淡い青色の瞳に雪のように白い肌。小ぶりだがふっくらとした唇。街中で十人に聞いたら満場一致で美少女と答えるであろう。


そして、我らが大熊高校の三大美女の一人だ。そして、生徒会の一員でもある。


そんな彼女が何故ここに……。


俺と柊さんは生徒会で一緒って言っても滅多に生徒会室には行かないから初対面って言ってもいい程だし……。ましてや、家に入れる間からでもない。


花月には知らない人が来たら玄関開けちゃ駄目だとちゃんと言ってるから入れるなんて事しないと思うんだが。


「あ、あの」


そわそわ、と心配そうな顔で話しかけてくる柊さん。

まあいい。事情は本人から訊こう。


「話したいからこっちきて。花月ちょっとだけ一人で遊んでてくれるかな?」

「はーい!」


花月は元気よく返事し、俺は柊さんを連れて廊下にでた。


「ごめん、なんで家に柊さんがいるの?」

「? 九条くんから何も聞いてないんですか?」

「悟? 特になんも」


そこで待っていたかのようにピロリン、とスマホが鳴る。


送り主は、悟だ。なんだろうか、このタイミングで来ると嫌な予感しかしない。



『多分今ごろ、家に着いてる頃だと思う。

単刀直入に言う、柊さんがお前のお嫁さんになってくれるそうだ』


「完結的すぎるだろっ!」


思わず大声をだしてツッコミをいれてしまった。


え?なに?お嫁さんになってくれる? 悟はとうとうバカになったのか?こんな美少女が俺のお嫁さんになってくれるはずないだろ。




『あ、言っとくけど、本物のお嫁さんになってくれる訳じゃないからな? 偽だからな?期待すんなよ』


と、また悟るから文章が送られてくる。


期待は一切してないのだが、なんだかムカつくな。


メールだけじゃよく分からないから俺は悟に電話をして直接訊く事にした。


「もしもし。何の用だ?」

「何の用だ、じゃねぇよ。何でウチに柊さんがいんの?」

「いやさっき説明した通りだが」

「一から順を追って説明しろ、って言ってんだよ」

「いや、学校で話したじゃん。いい案があるって」

「いやしたけど…………まさか」

「そう、そのまさか」


顔から嫌な冷や汗がぽちゃん、と床に落ちる。


花月ちゃんが飽きるまで母親のフリをしてくれるってさ。ちなみに本人了承してるし、嫌がってないから、素直に受け取っとけよ」


じゃ、と言われ電話を切られる。あいつ、学校で会ったら絶対にシメる。


「はぁ…………柊さん本当にいいの? 言っちゃなんだけど、俺と柊さん初対面だよ? そんな事をされる義理とかもないし」


素直に受け取っとけよ、と言われたが流石に面識もない相手から素直に受け取れるはずかない。


「そんな事ないですよ! 私と白上くんは同じ生徒会じゃないですか!」

「俺、生徒会室行った時に柊さんと会った事ないよ?」

「だったら!同じ学年でクラスメイトじゃないですか!困っているクラスメイトがいるのなら助蹴るのは普通ですよ」

「あれ、同じクラスだったけ」

「え…………い、一年の頃から一緒の……ク、クラスです……」

「え」


柊さんは肩を落としショボーン、とあからさまにおちこんでいた。


まじで? 全然気づかなかった。可笑しいな、こんな美少女が同じクラスにいるなら気づくんだけどな。


「ごめんごめん。あんまりクラスの事を気にしたことが無くてさ」

「大丈夫です……」


柊さんはまだ少し悲しそうにしているが立ち直ってくれた。


いや、ほんとごめんなさい。


「先程の質問ですが、私は大丈夫ですよ」

「俺は助かるからいいんだけどさ。うーん」


困っているクラスメイトがいるなら助ける、か。とんだ慈善活動だな。仕方がないけど、今回は断ろう。

こっちに返せるものがないしな。


「私では駄目でしょうか……?」


ぱっちりとした瞳を潤わせ、上目遣いで力ない声で言ってくる柊さん。まつ毛も長いんだな。


「っ!」


ふいにもドキッとしてしまう。それは、反則だ……。


「はぁ、分かったよ。…………柊さん暫くの間だけお願いします」

「はい! 私、頑張ります!」


ぱぁぁ、と顔が明るくなり、ニコッと笑ってくれる柊さん。


俺はまたドキッとしてしまう。


俺、これから大丈夫かな、色んな意味で………。


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