第21話 白吹雪く山道にて

 辺り一面は銀世界。しんしんと雪は降り注いでおり、吐く白い息とほんのり赤く染まる頬がその寒さを伝えていた。


 そんな寒さにも負けず、力強く雪を踏み締めて前へ進む。少し大荷物だが、これぐらいはどうって事は無い。

 転ばない様に足元に気を配りながらも、温泉があると言われる宿に向かってひたすら山を登る。


「ふぅ、思った通りに… いや、思った以上に大変だったな」


 ある程度の苦労は予測出来て居たのだが、それでも疲れが目に見えてしまう程、雪山登りは過酷だった。

 想像以上に雪が積もっていてバイクも麓に置いてくる羽目になっている。


「モウチョットダカラ、頑張ロウネ」


 ラッキービーストもそう言って励ましてくれているが、ハッキリ言ってコイツの『もう少し』は信用出来ない。ここに上陸した時もそう言われて一時間程歩かされた事がある。


「さて、後どれぐらい掛かる事やら… ん?」


 もう暫くの登頂に覚悟を決めながらも、何となく空を見上げた時だった。先程よりも雲はどんよりと、黒くなって来ている事に気が付いた。


「これは… 雲行きが怪しいな」


 吹雪にならないといいのだが。そう思った束の間、嫌な予感は的中した。


「注意、モウソロソロ吹雪ニナリソウダヨ」


 ラッキービーストから告げられた吹雪の注意報。しんしんと降り注いでいた雪は少しずつ勢いを強め、横殴りの雪へ変化して行った。


 このままじゃ吹雪の中に取り囲まれてしまう、早い所何とかしなければ。しかし、解決策が思い浮かばない。


「どうすれば…」


「ルロウ、"カマクラ"ヲ作ロウ」


「かまくら…?!」


 かまくらとは、積み重ねた雪の中に空洞を作るあれの事だろう。


「それで大丈夫なの?!」


「大丈夫、ナントカナルヨ」


 本当にかまくらで凌げるのか不安だが、解決策が思い浮かばい以上やるしかない。


「頑張るぞ、俺!」


 その後、ラッキービーストに手伝って貰いながらも何とかかまくらを完成させた。



 …



「ふぃ〜、何とかなったぁ…」


 雪まみれになりながらも、無事にかまくらの中に入る事が出来た。意外にも吹雪は凌げており、止むまでは持ちそうだった。


 しかし、かまくらの中は想像以上に快適だった。時間が無くてちょっと狭くなってしまったが、雪で作られた物の割には暖かくて結構頑丈だった。


「これなら次の吹雪も大丈夫そうだな」


 次が来る前に宿に着いてしまうかもしれないが、もう一度来る機会があると考えればいい情報の収穫なのかもしれない。


 それにしても、定期的に吹雪になってしまうのならここで暮らしているフレンズは大変なんじゃ無いんだろうか?

 ふと気になった俺は、ラッキービーストに聞いてみる事にした。


「なぁ、ラッキービースト。ここに棲んでるフレンズ達は吹雪はどうしてるんだ?」


「ココニ生息シテイルフレンズハ、寒サニ強カッタリ洞窟デ凌イデ居ルフレンズモ居ルカラ、問題ハ無イヨ」


 確かに。こんな寒い所、そういうのが得意じゃ無いと住み着こうとはしない。そしてここは山だからそういった洞窟も探せばあるのかもしれない。


「それじゃあ今も探せばフレンズは見つけられるかな?」


「居ルカモネ。モシカシタラ、カマクラノ壁ヲ突キ破ッテ顔ヲ覗カセルカモネ」


「まじで?」


「本当ダヨ」


 まぁ、確かにフレンズ達にとってはかまくらは珍しいものか… 雪の山の中から声が聞こえたら確かめたくもなるか。多分、俺もそうするかもしれない。


 もし本当に来たら、かまくらについて教えてあげるとしよう。



 ズボッ


 おっと、この音は。早速誰か来たのかな?


「アワワワ…」


「どうしたラッキービースト、そんな慌てた様な挙動して」


「チュ、注意!注意!」


「わぁ?!びっくりした。本当にどうしたんだよ、急に警報なんてならし… て…?」


 何事かと思い、ラッキービーストの視線の方向…もとい音がした方へ目を向けた。始めはフレンズが来たのかなと思っていたのだが、ラッキービーストの様子と今確認した事実から違う事が分かる。


「セルリアン…っ?!」


 かまくらの壁を突き破って居たのは、フレンズでも何でも無くセルリアンの触手。奴も気になって手を突っ込んで来たのだろうか、とにかくラッキービーストを抱え外に飛び出した。


 まだ吹雪は止んでいないが、あのまま狭い中に居ると思う様に身動きが取れず為す術なくやられてしまう。かと言ってこの天候の中だ、逃げ去る訳にもいかない。


「くそ… 戦うか?」


 奴のサイズは自分より一回りぐらい小さい。しかし鰐口の付いた触手を二本ももっており、とても油断出来たようなもんじゃない。


 野生解放すればとっとと終わるだろうが、この吹雪の中で意識を落とすのは命が危うい。それに、まだそれへの理解度も少ないから控えたいと言うのも本音。


 ここは何とか素の状態で戦うしか無いか。幸いにもサイズ的に二本の触手にさえ気を付ければ大丈夫そうだ。


「───!」


 言葉にも成らない声を発して、こちらに触手を伸ばしてきた。速度はそこまで出ていなかった為、簡単に避けられた。


 次はこっちの番だ。そう言わんばかりに飛び出した。


 しかし。


「…あっ!?」


 慣れない地形と言うものは本当に不便なものだ。雪に足をとられてしまい、転びそうになった。


 だが、その一瞬が命取り。


 セルリアンは隙を突くように触手を伸ばす、こちらは雪のせいで身動きが出来ず。このままではヤバい、今からでも野生解放をして巻き返すか…?


(ここでやらなくちゃ、殺られる…!)


「はぁ……あ?」


「……───?!」


 パッカーン!


 野生解放を使用する事に覚悟を決めた時だった。瞬間、青い閃光が走りセルリアンは粒子を放出しながら砕けていった。

 何が起こったのか、呆気にとられていたがその原因はすぐに判明出来そうだ。


「貴方、大丈夫だった?」


「あ…はい、なんとか」


 吹雪の中から姿を現したフレンズ。その娘は長く白い髪を靡かせ、犬の様な耳をぴょこりと動かし、制服の様なブレザーとスカートを身に付けている。


「吹雪の中は気を付けないとダメ、セルリアンがあんな風に攻撃してくるから」


「分かりました… えっと、ありがとうございます」


「ええ、それじゃ」


「あ、ちょっと待って… 行っちゃった」


 お礼は言えたけど、名前を聞く前に彼女は立ち去ってしまった。服装的にオオカミさんと似ていたから、きっとオオカミ系統のフレンズなんだろう。ただ、俺には細かい特徴の知識とかは無いからこれ以上の推測は出来ない。


 ともあれ助かった事には変わりは無いし、名前とかは今度また会った時でいいだろう。…再会出来るかは別として。


「ルロウ、カマクラノ中ニ戻ロウ」


「そうだね、またセルリアンに襲われたら一溜りも無いし」



 その後はすぐにかまくらに戻り、吹雪が止むまで何事も無く過ごした。

 晴れた後は再び山登りを始め、無事に宿へ着く事が出来た。

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