第20話 温泉たまごを求めて

「温泉たまごを食べてみたいのです!」


 時は朝食、何を思ったか急に博士がそう言ってきた。よりにもよって目玉焼きトーストの日に。


「…急にどうした」


 俺は何故そんな事を思ったのか、質問をしながらトーストを頬張った。それに対し博士は数口でトーストを完食し、理由を語った。


「これには深い訳があるのです」


 そうして始まった回想。特に長い訳では無いが、簡単に纏めて話すと、『本で見かけて美味しそうで興味を持ったから』らしい。


「そこまで深くないね?」


「うるさいですね。とにかく、私は温泉卵を食べてみたいのです。という訳でルロウ、お前に頼みたいのです」


「そう来ると思ったよ…」


 博士が机の下を漁り始めると、籠に山積みになった卵が姿を表した。それを机の上に置くと、差し出す様にこちらに寄せて来る。


 随分と用意周到な様子で。


 それに俺が承諾する前提で進めてるな?全く、俺は言ったら叶えてくれる万事屋じゃ無いぞ。


「で、引き受けてくれますよね?」


「まぁいいよ、引き受けよう」


 なんやかんや言ってここにはお世話になっているし、ここで本を読んでばかり居るのも飽きるからね。それに温泉がこの島のどこにあるのか気になるし、何なら浸かって来てやろうかと思っている。


 という事で引き受けた。


「流石、頼りがいのあるコックですね」


「誰がコックだよ。とりあえず、どこに行けばいい?」


「"ゆきやまちほー"ってところです。ちょっと待ってるのです、地図を持ってきてあげますよ」


「お、ありがとう。助かるよ」


「それまで身支度でもしといて下さい。分からないことはラッキービーストか助手に聞くのです」


 そう言い残すと博士は図書館の上の方へ消えて行った。


 さてと、言われた通り準備を済ませてしまおうか。目指すはゆきやまちほー、名前からして寒そうな場所だ。雪山と言うことで、防寒着とか色々入念に準備をしておいた方が良いだろう。


「ラッキービースト、防寒着がどこにあるか分かるか?」


「知ッテルヨ。付イテ来テネ」


 指示に従って歩き出したラッキービーストに付いて行く。すると、床下の収納スペースに辿り着いた。


「ココニ入ッテイルヨ」


 その耳だか手だか分からない部位で器用に蓋を開けると、沢山の物で溢れかえっている中身が見えた。そこに手を突っ込み、防寒着を探すついでに何か便利な物があればいいなと漁り始める。


「これは使えそうだな、こっちはダメそう。それは…使用用途は何?えっとそして… ああ、防寒着あった」


 使えそうな物、使えなさそうな物、訳の分からない物。これらを取り出しつつも無事に防寒着を見つける事が出来た。


 もこもこしてて凄く暖かそうな青い防寒着。少し埃っぽいが、まぁ払えば問題無く使えるだろう。

 オマケに、使えそうなランタンとか見つけたし準備は十分だろう。どれも埃っぽいけど。


「ルロウ!ありましたよ」


 おっと、丁度いい良く最後のパーツも揃った様だ。これでいつもで出発をする事が出来る。


「ナイスタイミング。こっちも準備は出来たよ」


「それでは頼みますよ?」


「おう!任せとけ?」


 地図もしっかり受け取った。そうしたらバイクジャパリチェイサーの確認をして、最後にリュックいっぱいにじゃぱりまんを詰め込んでいよいよ出発だ。


 …


「卵ヨシ!食料ヨシ!防寒着ヨシ!ラッキービースト、ナビで補佐頼むよ!」


「ワカッタ、目的地ヲ『ゆきやまちほー』ニ設定スルヨ』


「ヨシ!それじゃあ出発!」


 目指すは『ゆきやまちほー』。初めての温泉にワクワクと期待を胸に込めながら、元気良くエンジン音を鳴らしながら森林を駆け抜けて行った。

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