第18話 ヒーローショー

 そろそろ本番の時間だ。

 とても緊張する。


 舞台の裏から客席を覗いてみれば、沢山のフレンズが期待の眼差しをステージに向けていた。


 そろそろマーゲイさんのカウントダウンが始まる頃だろう。ほら、ざわざわとする声を押しのけて、マイク越しの声が聞こえてきた。


(さぁ…)


 ヒーローショーの始まりだ!




 §




「皆さん!今日は集まってくれてありがとうございます!そろそろライブが始まりますよ!準備はいいですか?」


 マーゲイがマイクを片手に、観客席に語りかける。それを聞いた観客席のフレンズは沢山の歓声を上げる。


「さあ!PPPの皆さんにご登場を!…きゃっ」


 フレンズの輝きを照らしていた明るさが一気に消える。しかしすぐに光を取り戻すが、そこには怪しい姿の奴らがいた。


「はっはっは!ステージは我々ライヘルクが乗っ取った!」


 そいつは観客席のフレンズに向かってそう宣言した。

 突然の出来事に観客席はざわつき始める。


「まずはお前マーゲイを人質とする!」


 どこからか現れた黒マント下っ端Aがマーゲイを人質にとる。


「命が惜しければ、大人しくじゃぱりまんを渡す事だな!」


 観客席からは「ひどーい」等の言葉が飛び交った。


「どうしましょう!ステージがライヘルクに乗っ取られてしまいました!そうだ、皆さんでヒーローを呼びましょう!息を合わせて大きな声で呼べば来てくれるかもしれません!せぇーの!」


 \助けて!ヒーロー!/

「まだまだ!大きな声で!」


 \助けて!ヒーロー!!/

「もう1回!これよりも大きな声で!」


 \助けて!ヒーロー!!!/



「そこまでだ!」



「誰だお前はっ!」


「フレンズの笑顔と平和を守る男!仮面フレンズウルフッ!」


 セリフを叫びながらポーズを決め、ヒーローは颯爽と登場した。

 意外と好評らしく、ざわついていた観客席の声は一気に歓声へと変わった。


「お前達の好きにはさせん!」


「そうか…… 野郎共、やれい!」


 ライブラックの指示で、ヒーローに二人の下っ端が仕向けられた。


 一人目の下っ端はヒーローに突っ込んで行く。それをヒーローは躱すとガラ空きの背中に蹴りを一発叩き込んだ。


 強烈な一撃に下っ端Aはステージ外に吹き飛んで退場した。


 次に向かってきた下っ端の攻撃を全てガードし、受けきったところに拳を入れ、更に怯んだところで拳を入れる。


 怒涛の連撃に下っ端Bも膝を崩して退場した。


「おっと、中々やるじゃあないか」


「面白い…… 我々も本気で行こう!」


 間髪入れずヒーローは親玉二人との距離を詰める。そして片割れ、ライブラックに拳の攻撃。しかし簡単に受け止められてしまう。

 そして横から、ヘラブラックが蹴りを入れてくる。それを受け入れてしまったヒーローは吹っ飛ばされてしまう。


 そこに追い打ちをかけるようにヘラブラックは拳を放つが、ヒーローはなんとか受け止めて反撃に出る。そこにライブラックも加わり二対一の攻防戦へ。ヒーローは最初は善戦したものの、やがて苦戦を強いられてしまった。


「ああ言っていた割には大した程でもないな?」


「くそっ、ここまでか……」


 ヒーローは膝を着いてしまう、が。


「大変です!このままだとヒーローが負けてしまいます!そうだ、皆で応援しましょう!せぇーの!」


 \負けるな!ヒーロー!/

「もっと声を出して!」


 \頑張れ!ヒーロー!!/

「最後に!大きく!」


 \負けるな!ヒーロー!!!/



「ここで… 負けるかっ!」



 数多くの声援により、ヒーローは立ち上がった。


「ほう、まだやるか」


「感動的だな?だが無意味だ!」


 ヒーローに向かってくるライブラックとヘラブラック。それを向かい打つため必殺技の構えに出る。


「これで終わりだ!」


 ヒーローは飛び上がって必殺技を放つ。


「喰らえ必殺……」



 ──ライジングアサルトバースト!!



 高く飛び上がり、そこから放たれたキックをくらった悪役は退場する。


 これで終わり。


 そのはずだったのだが、予想外の事が起こってしまった。


「ぐわぁ!」


 予定通り、必殺技でヘラジカさんは退場。しかし、まさかのライオンさんがキックを避けて反撃してきたのだ。


「おっとと……」


 床を転がるが、受身をとって体制を整え直す。


(あっれぇ?おっかしいぞぉ~~??)


 俺の記憶が正しければ台本には必殺技を躱すなんて存在しないのだけど。ここに来てアドリブですか???


 それに加えてなんか腰辺りから剣みたいなの取り出してますがそれもアドリブですか?何処から持って来たんですかそれ!!


(とにかく進めるしかないな……)


 武器を持った悪役に、苦戦しながらも戦いを進めていく。これ辛いです。


「はぁ!」


「ぐっ…!」


 さて、どうしようか。

 武器には武器で対抗したいところなんだけど。俺の衣装にもあったりしないか?確かライオンさんは腰辺りから…… お、あった。


「ファングソード!」


 腰に付けてあった剣を使って、親玉を迎え打つぞ!


「はぁっ!」

「なんのっ!」


 ガキィン!


 剣と剣はぶつかり合う。


「っはぁ!」


 しばらく膠着した後に、ライブラックの腹に蹴りを入れる。突き放され、怯んだその隙を逃さず剣撃をくらわす。


「はぁ!」


「ぐうっ……!」


 さて、さっきは逃したけど今度こそ!


「次で必ず決めてやる!!」


 変身に使う個別のアイテムを使い、剣の窪みに差し込む。派手な待機音を流しながら、その剣を構える。



「喰らいついてやる!」



 ──アサルトライジングスラッシュ!!



「ぐわぁぁぁぁ!」


 ヒーローの必殺技により、見事悪者をやっつける事が出来た。尺が押しているので決め台詞を言って、さっさと退場する。


「俺がいる限り、皆の笑顔と平和は守る!」


 その瞬間、大きな歓声が巻き起こる。歓声の嵐の中、速やかにヒーローは退場して行った。


 人質から解放されたマーゲイさんから、気を取りなしてのカウントダウンが告げられ、ついにライブの幕が上がった。

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