第17話 おじいちゃん

 目を覚ますと、何処かで見覚えのある空間に佇んでいた。


 遥か彼方まで白色で塗り潰されている不思議な世界。


 間違いない。

 ここは夢で見ていた場所だった。


「ん?」


 ふと後ろに気配を感じたような気がして、振り返ってみた。しかしそこには誰かの姿は見えず、杞憂だったかと視線を戻す。すると、眼前には白い狐面が俺を凝視していた。


「うわぁ!?」


『おっと、すまんすまん』


 軽快な口調で謝る狐面の声は、何処かで聞き覚えのある声だった。


「お前は確か、俺に話し掛けてきた……」


『そうだ。誰だって顔をしているな』


「いや、当たり前でしょ……」


『まぁまぁ、ちゃんと名乗ってやるから』


 顔に着けた面を額にずらして素顔を晒しながら彼は自己紹介を始めた。


『俺はカル。神様は留まるで神留だ。妖怪と人間の血が混ざった、所謂半妖だ』


 更に彼は宣言した。


『そして俺は、お前の祖父にあたる』


「えっ、は!?どういう……」


『凄く驚いているな』


「そりゃそうだ!今までおじいちゃんにもおばあちゃんにも会ったことないし!居ないって思ってたし!それ以前に見た目若すぎ!!」


 カルの容姿は完全に青年だった。髪はさらさらしているし、肌もつるつるで若々しい。服も学校の制服みたいだし、祖父味は全く感じられない。


『まぁ、ずっとここに居たしな』


 ここって歳取らないの!?怖すぎ!!


『そんなことよりもだ。何か気になることはないか?』


 そんなことよりも!?


「あ、でも。目が覚める前って何してたんだろ」


『気になるか?』


「そりゃあ、とても」


『そうか。なら、そこから動くなよ?』


 カルはそう言うと、俺の額の辺りに掌をかざして、小声で何かを唱えた。すると頭の中に直で映像のような何かが流れ込んでくる感触を覚える。


「これは…?」


 流れ込んできたのは、蜘蛛のセルリアンと戦うフレンズのような誰かだった。


『これがお前だ』


「これが俺?何でも耳とか尻尾が……」


『それはお前が内に秘めた力を、この時代で言えば野生解放をしたからだ』


「野生解放……!?」


『知らないか?』


「いや知ってる」


 図書館で調べたことで、なんなら博士からも聞いた。


 野生解放とは。自分のサンドスターを使い、ほぼ失われかけていた本能を呼び覚ますことで戦闘能力をあげる物と。


「でも、俺はヒトのはず…… 何で?」


『お前は人間と妖怪、その他にフレンズの血も引いてるからだ。ほら、お前の父親もこんな耳を生やしてなかったか?』


「父さんが…… いや、分からない」


『あれ…… まぁとりあえず、お前はフレンズの血があるから野生解放が出来た。そういうことだ』


「……ちなみに、俺は何のフレンズなの?」


『大体察しがつくだろうが、ニホンオオカミだな』


 ニホンオオカミ……!?

 通りで間違われる訳だ。


『さて、そろそろ時間だな』


「時間?」


 その瞬間、辺りが強く光り始める。その光の眩しさに思わず目を瞑ってしまう。


『ほら、仲間が待ってるだろ。おはようって言ってやるといいさ』


 その言葉を最後に、俺はまた意識を落とした。






 §






「…………っ!」


 再び目を覚ませば、知らない天井が見えた。

 どうやらベットに寝かされていたみたいで、体を動かせば少し痛みに襲われる。


「起きたんですね。おはようございます」


「ああ、うん、おはよう」


 すぐ隣にはかばんちゃんが座っていた。

 その様子だと付きっきりだったみたいだ。


「えっと、その…… ごめんなさい!」


「……急にどうしたの」


「僕があそこで飛び出してしまったから、ルロウさんに迷惑を掛けてしまって……」


 なんだ。そんなことか。


「全く迷惑なんて掛かってないよ。逆にお礼と、俺が謝りたいくらい」


 何も出来ずにただ吹き飛ばされてうずくまっていた俺と、怖かったはずなのに勇敢に立ち向かって俺を守ろうとしてくれた君。


 誰が迷惑を掛けたかなんて、一目瞭然だ。


「でも」


「あーそういえば…… 今何時?」


「えっと、多分そろそろライブが始まる時間かと」


 え、嘘!?一日経ってる!?急がなきゃ!!



 ───バンッ!!



「かばんちゃん!ルロウちゃん目覚めた?」


「「うわぁ?!」」


 慌てているところに急に扉が開いて、思わず驚いて飛び上がってしまった。


「もう、サーバルちゃん!驚かせないでよ〜」


「えへへ、ごめん」


 部屋に飛び込んで来たのは、黄色い髪に黄色い服に茶色の斑模様の少女だった。耳が大きい。


「えっと、君がサーバル?」


「うん!私はサーバルキャットのサーバルだよ!よろしくね!」


「俺は…… 知ってると思うけどルロウっていうんだ。よろしく」


「ちゃんと起きてるみたいで良かった。みんな外で待ってるから、二人も早くおいでよ」


 サーバルちゃんはドタバタと部屋を出ていった。

 まぁ、元気な子だな。


「それじゃあ、俺らも行こうか?」


「そうですね」


 サーバルちゃんの後を追うようにして、二人で部屋から出て行った。

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