第17話 おじいちゃん

 目が覚めると、どこか見覚えのあるような空間に居た。


 どこまでも白が塗りたくられていて、そこに1人ポツンと自分が居る。


 ここは… 夢で見た場所?


「ん?」


 後ろに気配を感じて、くるりと振り返ってみるがそこには誰も居ない。気のせいかと前を向き直すと、目の前には白い狐面がこちらを見ていた。


 思わず俺は体を跳ねた。


『いやぁ、ごめんごめん』


 軽快な口調で謝る狐面の声は、どこか聞き覚えのある声であった。


 確か… 意識が途切れる前の時か。


「君は確か… 俺に話しかけてきた…?」


『そうそう、そいつ。誰って顔もしてるな』


「いや、当たり前でしょ…」


『俺ははカル。神様の神に留まるで神留だ。妖怪と人間の血を混ぜていて、それのフレンズさ』


 付けていた狐面を額にずらす。あらわになったのは朱色の瞳と薄茶色の髪に狼の耳。

 そしてカルはこう宣言した。


『そして俺は、お前の祖父にあたる』


 …え?


 えぇぇぇぇぇぇぇ?!


『…凄く、驚いた顔してるな』


「当たり前だよ!俺はおじいちゃんともおばあちゃんとも会った事ないし、死んだって聞かされてたし!そもそも見た目若すぎんだよ!」


 そう、カルの見た目は完全に青年。髪はさらさらしてるし肌は若々しいし。額に狐面付けて和風出てるのに服は学校の制服みたいだし…ん?


「夢に出てきたのも… あんた?」


『そそ、今更かよ』


 確かに、最初カルを見た時に気付くべきだったか…


「そういえば、俺の記憶途切れてるんだけど… 何か知らない?」


『なんで俺に聞くの?』


「え、いや、ここにいるの俺とカルだけだから…」


『…知りたい?』


「うん、知りたい」


『そう、なら動くなよ?』


 そう言うと、カルは俺の額辺りに掌をかざして、小声でぶつぶつと何かを唱え始める。

 すると、頭の中に直接映像のような何かが流れ込んでくる感触を覚える。


「これは…?」


 流れ込んできたのは、セルリアンと戦う… 一方的な戦闘を仕掛けている狼のフレンズだった。


「これが俺…?どうして耳としっぽが…」


『お前が…内に秘めた力を出した、野生解放をしたからだ』


「野生…解放?!」


『知らない?』


「いや知ってる…」


 としょかんで調べたし、なんなら博士からも聞いた。野生解放とは、自分のサンドスターを使い、ほぼ失われかけていた本能を呼び覚まし、戦闘能力をあげる物と。


「でも、ヒトである俺がなんで…」


『それはな、お前がフレンズの血も引いているからだ。ほら、お前の父親もこーんな耳としっぽ、生やして無かったか?』


 父親…か、父親…


「…分からない」


『あれ、おかしいな… まぁ、とりあえずお前はフレンズの血を引いているから、通常の人間よりかはサンドスターが貯まりやすいんだ。だから野生解放が出来た』


「…ちなみに、俺はなんのフレンズの血を?」


『見れば大体分かるだろうけど… ニホンオオカミと申し訳程度の妖だな。ほんとに申し訳程度だけど 妖術使えたり、普通の人より寿命少し伸びたり見た目の変化が少なかったり…


 ニホンオオカミ…だと?おいおいおい、嘘だろ?あの迷探偵の推理ほぼ当たりじゃねーか…


『…そろそろ時間かな?』


「時間?」


 その瞬間、辺りが強く光り始める。その光の眩しさに思わず目を瞑ってしまう。


『ほら、皆待ってるから、おはようって言ってやりな。それじゃあ、おやすみ』


 その言葉を最後に、俺はまた意識を落とした。


 …












「………っ!」


 次に目が覚めれば、知らない天井が見えた。

 辺りを見回せば、ベットに寝かされていたみたいで、体を動かせば少し痛みに襲われる。


「あ、ルロウさん… おはようございます…」


「あ、うん。おはよう」


 すぐ隣には、かばんちゃんが居た。その様子だと、ずっと隣に居てくれたようだった。


「あの、ルロウさん… ごめんなさい!」


 彼女は急に謝り始める。


「急にどうしたの?」


「僕があそこで逃げなかったから… 変な事をしてしまったから… ルロウさんに迷惑を掛けてしまって…」




 なんだ、そんな事か。


「君は迷惑は掛けてないよ。変な事なんてしていない、俺とは大違いだよ」


 何もせずにただ吹き飛ばされてうずくまっていた俺と、怖かったはずなのに勇敢に立ち向かって皆を守ろうとした君。どこをどう見ても大違いだ。


「でも…」


「…そういえば、今何時?」


「え、そ、そろそろライブの時間ですが…」


 え、ライブの日?!やばいまずい、1日寝ていた。


 ………バンッ!


「かばんちゃん!ルロウちゃん目覚めた?」


「「うわぁ?!」」


 慌てているところに急に扉が開いて、飛び上がってしまった。


「もう、サーバルちゃん。驚かせないでよー」


「えへへ、ごめん」


 扉から飛び出していたのは、黄色い髪に黄色い服に茶色の斑模様の少女だった。耳が大きい。


「えっと… 誰かな?」


「あ、ルロウさんまだ知りませんでしたね」


「私はサーバルキャットのサーバルだよ!よろしくね!」


「う、うん。俺は知ってると思うけどルロウ、ちゃんと起きてるよ」


「ちゃんと起きてる?なら良かった。皆外で待ってるから2人とも早くおいでね」


 サーバルちゃんはドタバタと部屋を出ていった。

 なんと言うかまぁ、元気な子だな。


「それじゃ、俺らも行こうか?」


「は、はい…」


 サーバルちゃんの後を追い、2人で部屋から出ていった。

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