第15話 輝くステージ、燃えよ炎

 いよいよ本番を想定した練習が始まる。

 観客役にはぺぱぷの皆さん、博士と助手、かばんちゃんがやってくれるみたいだ。彼女の隣に居るのがサーバルって子かな?


「準備はいいですか?」


「はい、大丈夫です」


 少しキラキラしている衣装を纏って、ステージ裏に待機する。小道具ベルトの動作もしっかりするようで、音も鳴る。全く問題無い。


 ライオンさんとヘラジカさんは反対側で既に待機している。


「それじゃあ、始めますよ」


 マーゲイさんがライブのカウントダウンを始める。


 3、2、1……とカウントが無くなったところで会場のライトは爆散!なんて大袈裟なことにはならず、光が消える。


 そして、俺の待機している反対側から黒い衣装を纏った怪しい人達がぞろぞろと姿を現す。


「はっはっはー!ステージは我々ライヘルクが乗っ取った!」


「そこのマー…… お前は人質とする!」


 少し人物名が出かかっているが、ここでヘラジカさんがマーゲイさんを人質に取る。


「命が惜しかったらじゃぱりまんを全て寄越すんだな!はっはっは!」


 それに対してライオンさんは役が溶け込んでいる。凄くノリノリだな。


「どうしましょう!ステージがライヘルクに乗っ取られてしまいました!そうだ、皆さんでヒーローを呼びましょう!息を合わせて大きな声で呼べば来てくれるかもしれません!せぇーの!」


 \助けて!ヒーロー!/

「まだまだ!大きな声で!」


 \助けて!ヒーロー!!/

「もう1回!これよりも大きな声で!」


 \助けて!ヒーロー!!!/


 掛け声が三回繰り返しされた時。

 ここでダイナミックに登場する。


「そこまでだ!」ガッシャーン


「誰だお前はっ?!」


「地g…… フレンズの笑顔と平和を守る男!仮面フレンズ ウルフッ!」


 危ない俺も台詞を間違えるところだった。

 何とか軌道修正してポーズを決める。セイ!


「お前等の好きにはさせないぞ!」


「そうか…… 野郎共、やれい!」


 ここで悪役(下っ端)との戦闘である。


 出てくる二人の内、最初に一人が向かってくる。それに対しては突進を躱し、カウンターの蹴りをくらわして退場させる。

 蹴りはもちろん寸止めなので安心して欲しい


 間髪入れずに攻撃を仕掛けて来るもう一人の下っ端の攻撃を受け止めて、拳を打ち込む。怯んだところにまた拳を打ち込んで、退場。

 これも寸止めなので以下略。


「さぁお前等、覚悟しろ!」


 台詞の後、いよいよ親玉との戦闘だ。


 まずは自分から近づいて行ってライブラック(役:ライオンさん)に攻撃。シンプルな右拳を叩き込む。


 しかしこれは簡単に受け止められてしまう。


 拳を受け止められているところにヘラブラック(役:ヘラジカさん)の横槍。蹴りの一撃で吹き飛ばされてしまう。


 吹き飛ばされた俺に追い討ちをかけるように、ヘラブラックが拳を放ってくるが、それを受け止める。そして加勢しに来たライブラックも混じり、俺は二人の猛攻を捌いてゆくが段々と押されてゆき、やがて吹き飛ばされる。


「大口を叩いた割には大したことないな?」


「くそっ、ここまでか……」


「大変です!このままだとヒーローが負けてしまいます!そうだ、皆で応援しましょう!せぇーの!」


 \負けるな!ヒーロー!/

「もっと声を出して!」


 \頑張れ!ヒーロー!!/

「最後に!大きく!」


 \負けるな!ヒーロー!!!/



「ここで…… 負けるかぁ!!」


 数多く(推測)の声援に背中を押されて、ヒーローは立ち上がる。


「まだ立ち上がるか」


「だが、無意味だと教えてやる!」


 ここからが山場、フィニッシュの必殺技の構えに出る。


「ここで決めてやる!」


 ベルトをちょちょいと操作して、必殺技モードに移る。……操作の詳細は省くとする。


 そして悪役二人に向かって行き、その途中でジャンプ!


「喰らえ必殺!」



 ──ライジングアサルトバースト!



 仮面フレンズの必殺キックを受けた親玉は、吹き飛ばされて退場。その予定だったのだが。


 予想外の出来事により、この通りに事が運ばれることはなかった。



「─────!!!」


 

 声にもならない唸り声を上げながらステージに突っ込んでくるイレギュラーな存在。


 セルリアンだ。


 しかし、その姿はいつもとは異なる姿をしていた。


 普段のセルリアンならば、一つ目のまんまるボディに精々触手が生えてる程度なのだが。


 こいつには目が複数あり、足が八本も存在していて、まるで蜘蛛のような特徴を持っていた。


 セルリアンは唸り声を上げて、大きなお尻や口から糸のような触手を吐き出し振るい始めた。


 それに応戦しようと衣装を脱ぎ捨てて、ライオンさんは爪を、ヘラジカさんは角を模した槍を構えた。


「なんだこいつは!」


「いつもとは違う、普通じゃないね」


 二人は触手の猛攻を掻い潜りながら攻撃を当てていく。しかし、セルリアンの身体が硬いのかダメージが入っている様子はなかった。


「────!!」


 全く怯まない為か、反撃の隙を与えられたセルリアンは触手を乱暴に振り回した。


「ぐぅ!?」


 飛び交う攻撃を二人は爪や槍を使い躱しているが、やがて限界が訪れ捌き切れなくなったのか、ヘラジカさんが被弾し吹き飛ばされてしまった。


「ヘラジカ!……がぁッ!?」


 一瞬の隙を見せてしまったライオンさんに触手が襲いかかった。諸に食らってしまったライオンさんもステージ外の床に叩き付けられる。


 ステージ場に残ったのは俺とあの怪物だけだった。当然見逃されるはずもなく、無慈悲な触手が俺に伸ばされる。


「…っ!」


 命の危機が迫っているのに、黙ってやられる訳にもいかない。全力で体を動かして回避を行う。


 でも所詮は人間。大きな力の前にちっぽけな力は歯が立たない。触手を腹に受け宙に舞った身体は床に叩き付けられ、ズルズルと全身を引き摺って端っこへ追い詰められる。


「────!!」


 トドメと言わんばかりの触手が襲い掛かる。

 迫り来る恐怖に死を覚悟した時、俺の視界を小さな影が覆った。


(かばんちゃん…!?)


 両手を広げて少しでも体を大きく見せて、かばんちゃんは俺の前に、セルリアンの前に立ち塞がっていた。


「何をしているのですか!!」


 博士の怒号が響き渡る。

 その通りだった。歯が立つはずもないのに、何故こんな命を投げ捨てるような真似をしているのだろうか。


(俺のことはいいから……)


 逃げてくれ!!


 そう叫ぼうとしても声が出なかった。

 何とかしようともがいている間にも、触手は今も距離を詰めている。



(くそっ!俺が弱いから!!)


 助けられて守られてばかりで。それでも挙句の果てにはピンチになって、こんな状況になってしまった。


(俺に何かが出来れば……)


 でも、それは願いでしかない。




 ───『あるだろ?出来ること』



 ……誰?



 ───『今はどうでもいいだろ。それよりも、出来ることはある。そうだろう?』



 ……俺に、出来ること。


 刹那、心の奥に温もりを感じた。燃え上がる炎のような熱い何か。思い出したかのように湧き上がる何かだ。


 ……確かに、あるな。


 ───『よく言ったな。さぁ、行ってこい。救えるものに手を伸ばせ』


 ……ああ、行って来るよ!






 ────

 ───

 ──






「ガァ!!!!!」


 雄叫びを一つ上げて、地面を蹴って走り出す。

 身体が軽い。今なら何でも出来そうだった。


 俺に気付いたセルリアンが放つ余り物の触手も、今なら全て避け切れる。


 体を捻って、浮かして、動かして。

 襲い来る触手を全て捌き切る。



(後、一歩。後一歩で……!)



 猛進する俺を止めようと、セルリアンは糸を吐いた。

 でも今の俺には関係ない。


「邪魔だッ!!!」


 それをで焼き払った。


 もうかばんちゃんは目と鼻の先。手を伸ばせばすぐそこに……!



(───間に合え!!)



 飛び込んで腕を掴んで、抱き寄せるように引っ張り上げる。その勢いのまま、背中を引き摺って不時着する。


 思い切り飛び込んだ甲斐があってか、セルリアンからは十分に距離が離れていた。その確認が取れたところで、彼女を降ろしてあげた。


 そして、俺はあの怪物と向き合った。


「………!」


 俺の意識が途切れたのは、そこからだった。

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