第5話 ろっじ

 ゴロゴロゴロ…


「ひえぇ…」


「注意!注意!」


 走っているのが凄く辛い。坂道だから速度を加減しないと転んじゃうし。後シンプルに怒涛の展開で体力が尽きてきた。



 コツッ… ドサッ!!

「チュウイ…」


 いやお前が転ぶんかいッ!

 

 なんてツッコミを入れてる場合じゃない!助けないと…


 コツッ… ドサッ!!

「ウワァ!?」


 バカヤロー!俺も転んでどうすんだ!!被害増やしてんじゃねーよ!!!


「───ッ!!」


 セルリアンとやらも既に目の前まで迫って来ていた。もうお終いみたいだ。


 (今まで良い人生…… だったか?まぁいいや、ありがとう────)









 ───タタタタタッ


「!?」


 パッカーン!!


 もうダメだと思った時、急にセルリアンが弾け飛んだ。


(一体何が…?)


「君、大丈夫かい?」


 目の前には、獣の耳を生やした少女が立っていた。


 長い紺色の髪の毛に、学生服のようなブレザーとスカート。水色と黄色が綺麗なオッドアイを持っていて。


 ラッキービーストによれば、彼女こそがフレンズだと言っている。


「は、はい!なんとか。ありがとうございます…」


「どういたしまして。ところで、君は何者だい?見ない顔だが…」


「えっと、俺はルロウっていいます。今はロッジって所に用事があって… 何か知りません?」


「ロッジなら私も今から帰るところなんだ。ちょうどいいね、着いておいで」


「は、はい… よろしくお願いします!」


「ああそれと、私はタイリクオオカミね。よろしく」


 何たる好都合か。

 俺は言われるままに、突然現れたフレンズさんに着いて行った。





 §





「到着したよ」


 しばらく歩き進めて、思ったよりも早く目的地に到着した。


 ロッジの玄関だろうか。その扉の前では、網目模様のマフラーを身に付けた少女が誰かを待っているように立っていた。


 その少女はこちらに気が付くと、一目散に駆け寄ってきた。


「せんせー!どこに行ってたんですか!」


 俺に対して… ってよりかは、隣に寄ってきたみたいだ。


「ちょっとセルリアンが出てね。大丈夫さ、締切はちゃんと守るよ」


「本当にですか…?」


「本当だよ」


「まぁ、いいです。それはそれとして…… 隣にいる貴方!」


「俺?」


「ええ貴方よ。とても怪しいわね…… この名探偵アミメキリンが正体を解き明かしてみせるわ!!」


 急に呼ばれたかと思えば、何故か推理ショーが始まった。別に俺は誰もころしてないぞ?!


「そうね…… 薄茶色の髪の毛。せんせーのと似た首にあるもふもふ。鋭い目付き。以上のことから貴方は!」


 ごくりと息を飲む。

 緊張が走るその瞬間。


「───ニホンオオカミのフレンズね?」


「いや違うよ!ただの人間だ!!」


「うぐぅ?!」

「え?」


「なに貴女タイリクオオカミさんまで驚いてるんですか??」


「いや、私もてっきりニホンオオカミなのかと……」


 確かにラッキービーストにも狼のフレンズみたいだって言われたけど、そこまで似てるの?

 それだったら、そのニホンオオカミって子にも会ってみたいよ。


「ま、まぁそんなことよりだ。中に入ろうじゃないか?」


「そんなことよりで片付けて欲しくないんですけど!?」





 §





「ようこそ、『ロッジ アリツカ』へ~」


 中に入ると、広い木造の空間の真ん中にある受け付けから声をかけられた。

 そこに居たのは、丸い眼鏡に黄色髪の毛をした少女だった。


「アリツさん、今戻ったよ」


「あ、オオカミさんでしたか!」


 どうやら二人は知り合いみたいだ。

 少し話を聞いたのだが、タイリクさんとアミメさんはここに住んでいるらしい。


「そちらの方は?」


「ああ、彼はお客さんだよ」


「はじめまして、ルロウっていいます」


「管理人のアリツカゲラです~」


 軽く自己紹介を挟んで、特に何事もなく泊まる部屋に案内されることとなった。





 §





 しばらく建物の中を歩いていて、ついでに色々な部屋を見ることが出来た。


 『ふわふわ』や『しっとり』、『みはらし』等、沢山の部屋があって中が容易に想像は出来た。しかし一つだけ、『なかよし』と呼ばれる部屋があったのだが、中の想像が着かなかった。


 まぁそんなことよりも、もっと重要なことがあって。



 ヒトの姿が見えないのだ。



 少ないとかではなくて、全く。ヒトという文字の一画目すらない。

 フレンズも決して多い訳ではないが、ロッジで少しは見たし、そもそもヒトの話題が全く出てこない。



 ここは一体何なのだろうか?



 なんて考えていると、いつの間にか部屋に着いたみたいだ。


「ごゆっくり~」


 そう指を差された先の看板には『しんりん』と書かれていた。


 中に入ると、緑豊かで心落ち着くような空間が広がっていた。それはまるで木漏れ日の差す森林にいると錯覚してしまう程。


 これは後で聞いたことなんだけど、この部屋はよく狼のフレンズさんが利用をする部屋みたいだ。


「…誰がオオカミだよ、おい」


 まぁ、そんな下らないことも存在しない荷物も置いて、タイリクさんに会いに行こう。色々聞きたいことあるしね。


 もっとも、詳しい居場所は知らないんだけどね!はっはっはー!!





 §





 ロッジ内を彷徨って体感数日、事実数分が経った。

 ロビーとして使われている空間で、タイリクさんを発見することが出来た。


「おや、ルロウじゃないか」


 こちらの存在に気付いたタイリクさんは、何か描いていた腕を止めて話し掛けてきた。


「一体どうしたんだい?」


「一つ聞きたいことがあって、ヒトについてなんですが……」


「何故、私に聞くんだい?」


「…なんとなく?」


 でも、あの迷探偵よりかは知ってそうだし。


「まぁ理由なんていいさ、教えてあげるよ」


 そうして、少し長い昔話が始まった。


 昔、ジャパリパークにもヒトがいた。

 しかし巨大な黒いセルリアンが現れて、ヒトはどうすることも出来ずにパークから去ってしまった。


 だがヒトはまだ残っていた。

 厳密にはヒトのフレンズらしいのだが、その子のお陰で巨大なセルリアンは倒せたらしい。


 そのヒトのフレンズの名前は『かばん』。


 彼女はその後、自分以外のヒトを探して他の島へ。

 しかし最近になって戻ってきたらしく、ここにも訪れていたようだ。


「そのかばんって子はどこに?」


「恐らく今頃はにでもいるんじゃないか?」


 図書館!?こんな島にもそんな施設が?!(失礼)

 いや、ロッジがある時点で不思議じゃないか。


「そういえば君、行く宛ては決まってないんだろう?次はそこに行ってみるといいよ」


 確かに図書館なら調べ物も出来るし、運が良ければヒトに出会えるかも?


「はい、そうしてみます」


 無事に次の目的地も決まったところで、今日はもう明日に備える為に寝ることにした。

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