第47話 スピリッツマスター
「え?? スピリッツマスター?」
俺は今まで聞いた事のない単語をそのまま返した。
「魔力の減らない肉体……あの魔法の威力……間違いない……」
シズは目を下げて一人でぶつぶつと呟いている。しかし何かを確信しているようだ。やがて俺の顔を真っ直ぐに見つめる。
「スピリッツマスター……精霊の力を借りて魔法を使うことができる人のこと」
「えっと……よく分からないんですけど……」
「ごめん、シズ……私も」
精霊……確かに聞いたことはある。子供が読む物語などに登場する妖精のような存在。物語の中では小さな女の子が空を舞って登場人物を手助けしてくれる存在。それが実在し、俺がその力を借りているとシズは言いたいのか……
「レインには精霊は見えない?」
見えない……今までの人生で霊やら精霊やらその類のものは見たこともない。しかし心当たりはある。
「見たことはないけど……声が聞こえたことがある。その声が俺を助けてくれたことも……」
最近よく聞こえてくる女の子の声……最初は空耳かとも思ったが、その声はマンティコアとの戦いでは俺には扱うことができなかった魔法を手助けしてくれたように感じた。本当に精霊が俺に力を貸してくれているのか……
「声……間違いないかも……スピリッツマスターは精霊との意思疎通で魔法を使う。もしレインがまだ意思疎通とれてないとしたら、魔法をうまく使えない理由も……」
再びシズはぶつぶつと一人で呟き始めた。お願いだから、ちゃんと話してほしい。聞き取るのが大変だ。
「ちょっと待って。意思疎通? もしかして俺のやってたイメージとかは関係ないのか?」
「レインがスピリッツマスターなら……イメージしてもそれが精霊に伝わらないと意味ない」
なんてことだ……この二週間の俺の努力はなんだったんだ……ひたすらイメージして魔法を打つ。ただシズの言う通りそれを繰り返し、すこしも進歩しなかった。しかしあそこでクレアが魔法を見せて、魔力切れを起こしてくれたお陰でシズが気づいてくれた。無駄ではなかったのかもな。
「学校では精霊の事も学ばないのね」
「そうだな。初めて聞いたしな。学校ではひたすらイメージしろって言われてたよ」
「アイスライトだからしょうがないか……」
アイスライトだからしょうがない? そういえば前もクレアのことをアイスライトを地で行く人とかいってたよな。もしかしてアイスライトって……
「なぁ、シズ。アイスライトって魔法後進国なのか?」
「え? 知らなかった?」
普段あまり表情に変化のないシズが驚きの顔を見せる。そして俺の問いにクレアが答えた。
「あんたほんとバカね。アイスライトは他国に比べ魔力保有量が低いの。魔法に関する知識も他国にだいぶ劣るらしいわ」
そんなこと初めて聞いたぞ。少なくとも学校では教わっていない。まぁ、自分達の国をわざわざ弱いとは言わないか。プライドだけは高そうな学校だったからな。でも確か、アイスライトって強国として他国に知れ渡ってるんだよな?
俺の浮かんだ疑問に答えるように、クレアが続ける。
「でもアイスライトが他国から恐れられてるのは、魔法以外の分野が非常に優秀だから。剣術や体術、そして耐久力、もちろん魔法にたいしてもね。だから今までアイスライトは勝ち続けてきたの。魔法が使えなくても最強よ!」
まるで自分のことのように自慢げに腰に手を当てて言い放った。
なるほどね。今話してくれた内容はクレアに完全に当てはまる。魔法は苦手だが、その他の分野においては他の追随を許さない。他の生徒でも魔法をメインで使う生徒はいなかったのはそういう理由か。じゃあ、俺が魔法で一番だったのは自慢できないのか……
俺が勝手に心の中で落ち込んでいると、次はシズが話し始めた。
「だからアイスライトでスピリッツマスターに出会えると思わなかった。今世界で確認されてるマスターはレイン以外では二人しかいない」
「「二人!!」」
「そう、二人。レインは最強の魔術師になれる可能性がある」
「最強の魔術師……」
その言葉を聞いた時、全身の血が沸騰したように体が熱くなるのを感じた。この俺が最強……俺は別に強さに憧れている訳ではなかった。ただクレアと一緒にいられればよかった。ただ、あの事件……俺はクレアを守れなかった……クレアの大切なものを守れなかった……このままではいつかクレアを失ってしまうかもしれない。いつかまたクレアを悲しませてしまうかもしれない。クレアを守るために、俺はあの日から力を欲した。クレアを全てから守り抜く力を。クレアと笑って一緒にいられるように。その力が俺にあるかもしれない。それが凄くうれしかった。
「でもまだ使い物にならないけど……」
シズの一言に現実に戻される。そうなのだ。仮にスピリッツマスターだとしても、俺はまだ自在に魔法を使うことができない。方法がわからない。
「シズさん……新しい特訓は……」
恐る恐る尋ねる。
「わからない……」
唯一の頼みの綱が切れた。終わった……
お前は俺が守る!!~最強の彼女にはそんなもの必要なかったみたいです~ 咲希斗 @hirosakiaki
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