第8話 負けられない戦い

 ろくに寝れないまま朝を迎えた。


 やっちまったなぁ。今日はアイスライト杯の予選なのに、寝不足なんて。


 眠い目を擦りながらクレアと毎日待ち合わせをしている場所へ足を運ぶ。同じ敷地内にいるのだから、どちらかが家に迎えにいけばいいと思うのだがクレアはそれだけは嫌だというので、敷地を出て50メートルほど先にある大きな木の下で待ち合わせすることになっていた。


「来てくれなかったらどうしよう」


 待ち合わせをしている場所に近づくと、クレアが待っているのが見えた。俺は喜びが押さえられずに、駆け足でクレアのもとに向かう。


「おはよう、クレア」


「おはようじゃないわよ。私を待たせるなんていい度胸してるわね。5分前には着いておくのが基本でしょ」


 うん、いつものクレアだ。


「ごめん、クレア。次からは早く来るよ」


「あら? 今日はやけに素直ね。って、その目の下のくまどうしたのよ。あんた寝てないでしょ」


「なんか、寝れなくて」


「どうせ今日の予選に緊張して寝れなかったんでしょ。でも分かってるわね。今日、決勝まで上がってこなかったら、一生私と話すことはできないんだからね。早く来るよって言ってるけど負けたら来なくていいんだからね」


 そうだった。今日来てくれたからって、負けてしまったら明日からは一人で登校しなくてはならない。なんとしても決勝まで残らないと。


「が、がんばるよ」


「でもきっと大丈夫よ。いつもあんたと訓練してる私が保証するわ。レインは強いのよ。自信持ちなさい。まぁ、私には勝てないでしょうけど」


 えっ、クレアが誉めてくれた? 今、誉めてくれたよね? なんかそれだけでやれそうな気がしてきた。よし、信じてくれたクレアの為にも全力でやってみよう。それでダメでも、また努力して強くなって認めてもらえばいい。


「ありがとうクレア。絶対勝ち上がるから決勝で戦おう」


「ふふ、楽しみにしてるわ」


 なんか今日のクレアは優しいな。


「じゃあ、とりあえず私を待たせた罰としてお昼はレインの奢りね」


「えっ、ちょっと待ってよ。俺あんまり金ないよ。クレア金持ちだろ? お金に困ってないだろ?」


 俺のお小遣いは月に10000ピアである。学校の食堂は貴族からの寄付金もあるので格安なのだがそれでも一食300ピアほどかかる。使えるお金はギリギリなのだ…


「私だって今月ピンチなの。昨日なんかむかつくことがあったから、買い物で発散したのよ。発散したから忘れたけど、何があったんだっけなぁ。何か思い出せそうだなぁ。なんだったかなぁ」


 クレアが脅してくる。


「わかった、わかりました。奢らせていただきます」


「そう、ならよかった。あっステーキが食べたいわ。今日は体力使うだろうし」


 はぁ……ステーキ。学食で一番高い料理だ。俺もまだ食べたことないのに。明日から昼食は水かな。


 やっぱりいつものクレアだった。


「かしこまりました、お嬢様」


 学校へ二人で歩いていると思い出したかのようにクレアが聞いてきた。


「あっ、そうそうお父さんは大丈夫?」


「え、お父さんって俺の?」


「他に誰がいるのよ。ほんとバカなんだから。昨日体調悪いからって仕事お休みしたんでしょ。お父様も心配してたわ。ここ10年以上休んだことなんてなかったのにって」


 ん? どういうことだ? 父さんはザワードさんが休みをくれたって言ってたが……


「あぁ、体調は大丈夫そうだったよ。普通に元気だったと思うけど……」


「そう、よかった。きっと休んでたら良くなったのね」


 そうなのかな。そうだといいけど何か気になるな……


 もやもやしながら歩いていると足に何かが当たって転んでしまった。クレアを見ると左足を少し上に上げていた。あっこいつ引っ掻けたな。


「なにすんだよ!」


「なにすんだよじゃないわよ。ボーってしてるからこんな簡単なイタズラに引っ掛かるのよ。ほら、もう学校に着いたわよ。一回戦はすぐ始まるわ。集中しなさい」


 その通りだ。気になるなら帰ってから聞けばいい。それよりも一回戦だ。相手はトールだ。何度か戦いは見たが決して剣も魔法も弱くない。油断できない相手だ。考え事をしていたら勝てる試合も落としてしまうかもしれない。


「そうだね。ありがとうクレア」


「ふん、わかればいいのよ、わかれば」

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