四歩目 王都

 ――王都ラグロク。ここは、ギルドが設立されている他にも、商業が盛んでとても賑わっている。食べ物も、俺がいた世界にもあった物も多く、懐かしさすら感じた。こんなに賑わっていると祭りみたいで楽しい気持ちになるな。


「おう兄ちゃん! 珍しい格好してるな! 旅人かい?」


 屋台の親父に声を掛けられる。

 シズクとリルは言わなかったから気にしてなかったけど、この世界でパーカーは珍しいんだな。


「ええ、遠い国からここへ」

「そうかい! いい旅になるといいな! これ持ってきな! うちのイチオシだ! ほれ、嬢ちゃん達も!」


 そう言って、焼かれた魚が刺さった串を渡された。見た目は鮎の塩焼き、だがほのかに甘い香りが漂う。違和感を感じながらも食べてみると、驚く事にチョコレートの味がした。


「うおっ! チョコレート!?」

「へへっ! 驚いたかい? この魚はラグロクの特産品で甘魚かんぎょ! それに塩を付けて炭火で焼いてるんだ! 旅の人は、みんな驚くぜ!」


 甘いのに、しっかりと塩焼きされていて、このあまじょっぱさが何故か食欲をそそる。


 まるでチョコレートをかけたポテトチップスの様だ。だけどしっかり、魚と炭火の香ばしさも感じられ、これはとても斬新で、癖になる味だ。


 あまりの美味しさと、衝撃の強さであっと言う間に完食した。俺の感動とは裏腹に、シズクとリルは顔をしかめていた。好みがハッキリ分かれるんだな。


「美味しかった。ありがとう! 機会があればまた来るよ」

「おう! また来いよ!」


 屋台の親父と言葉を交わし、俺たちはその場を去った。


「それにしても、人が多いのう」

「そうだな。すごく賑わってる」


 ギルドに向かっている途中でリルが疲れた雰囲気で言った。

 街に来たらリルの耳と尻尾が目立つと思ったけど案外、耳や尻尾が生えている人も多い。獣人って言う種族らしい。神獣族の下位互換に分類されるようだ。


「この国は色々な種族が交流しているんだな」

「そうなの! 賑やかで楽しいよ! でも、やっぱり種族によって差別とかがあって……」



 シズクが悲しげに言う。差別か……皆で住んでいるなら仲良くすればいいのにな。


「さあ! 着いたよ冒険者ギルド!」


 色々な事情がある事を理解しながら歩いていると、シズクが一歩前に出て俺の方を向く。

 周りの建物より遥かに大きい建物。中に入ると大きなテーブルが並べられ、屈強な男がそこら中にいる。一見大人しそうで、華奢な女性も結構いる事に驚く。


 初めて経験する空気感に戸惑っていたら、シズクが率先して冒険者登録の仕方を教えてくれる。



「役員の人に言えば登録できるよ! 近くに何人かいると思う!」


 そう言われ、声をかけようとするも、近くにいたお姉さん達は忙しそう。

 直接ギルドのカウンターに行く。このカウンターではクエストを受ける人で溢れかえっている。


 クエストは冒険者の収入源。これはゲームと変わらないな。そんな事を思いながら受付のお姉さんに近付く。

 よく見るとギルドで働いてる役員、女性しかいなくない?


「すみません、冒険者登録したいのですが」

「冒険者登録ですね。かしこまりました! ではこちらの書類の記入をお願いします」


 申請に行くと、制服をビシッと着こなした綺麗な女性の笑顔が輝き、耳に心地いいトーンで言われる。

 書類と聞いて、一瞬ややこしいものかと思って身構えたが、名前を書くだけの簡単なものだった。


 この書類は、鑑定具という魔道具にかざされ、名前を書いた人物の力を解析する物らしい。AからDランクで冒険者を選別。このランク分けはクエストを受ける時に重要な様だ。


 シズクに後から聞いた話だけど、魔道具はこの世界で重宝されている。物理的な不可能も、大抵可能にしてしまい、人々の生活を豊かにしているようだ。


「田辺翔吾さん、お待たせ致しました。解析終了です。今日からDランク冒険者としての活動をお願いします!」


 Dランク、一番下か……まぁ当然だな。クエストによっては、一気にランクアップも夢じゃないみたいだけど、今は上げる必要ないかな。


「それでは補助としまして、剣と銀貨十枚を贈らせていただきます。素敵な冒険者ライフをお過ごしください!」


 すごい、本当に貰えるんだ。


「ありがとうございます!」

「はい! 頑張ってくださいね」


 受付のお姉さんって全員こんな感じの明るい人なのだろうか。だとしたら素敵空間だな。うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る