第2話 美貌の持ち主との出会い
リベラ大陸――リベラ国――首都リベラがある中央区一番地。
そこには、国の中枢機能を担う重役達を始め、その統括者でもあるアイリス女王陛下がいる。
その為か、名が知れた有名人が来ることもしばしある。
そう言った面から王城に入る為には沢山の検査を行う必要があるのだが、元々軍にいたファントムは顔パスで本来であれば三十分以上掛かる検査を僅か数秒、それも検査兵に向かって「久しぶり~」の一言だけで終わらせた。
本来ならば有り得ないことではあるが、兵達は予め女王陛下に言われていた。
『今日ファントムが来るから、来たらそのまま通していいわ』
当然その事をファントムも知っているので、テクテクと歩きながら今も持ち物検査やら身体検査を行っている貴族を横目で見て「貴族でも大変なんだな……」と他人事をボソッと呟きながら横目で見た。
するとそこにいた一人の少女と目があった。
向こうは、「えっ? なんで?」と声に出して驚いていたが、ファントムは聞こえていない振りをして素通りしていく。
「何事も起きませんように」
そう願いながらファントムはアイリス女王陛下が待つ、謁見の間へと向かった。
――リベラ王城、謁見の間。
玉座に座り、足を組み、頬杖をつく者がいた。
黒髪ロングと王道でありながらその髪は艶があり麗しい。そんな腰下まである後ろ髪を胸元に持ってきては手遊びをしているアイリス。
こうなっているのにはちゃんと理由がある。
何を言おうと……ファントムが堂々と寝坊したあげく約束した時間を一時間過ぎてもやってこないので退屈しているのである。
その為、珍しく機嫌が悪く周りにいる者達は皆静まり返っていた。
――ガチャ。
扉が開く音が謁見の間に聞こえ、多くの視線が扉の方へと向けられる。
一人の男がアイリスと変わらないぐらいの茶髪を揺らしながら歩いてやってきたのだ。
「すみませんでした。本読んでいたらいつの間にか眠ってしまい、約束の時間を大幅に過ぎてしまいました」
来るなり頭を下げて、謝罪するファントム。
それを静かに見ていた者達が恐る恐るアイリスを見る。
絶対にこれは怒られる、誰しもがそう思った。
だけど――。
「遅い! 夜お詫びして」
「はい、喜んで」
「なら許す」
(やったー、これで夜甘えられる! まぁ甘えさせてくれるなら……許してもいいかな。えへへ~)
表情に笑みが戻るアイリス。
それを見たファントムが安堵する。
「一応確認だけど、今日から三日間私の側にいるのよね?」
「お望みとあれば」
「ならお願い」
「かしこまりました」
アイリスは頭を下げようとするファントムを手を使い呼ぶ。
「かしこまらなくていいからこっちに来て」
「は、はい……」
ファントムが玉座の前まで行くと、
「もうそろそろ白井家の令嬢が来るからファントムはこっちにいて」
そう言われ、ファントムは急いで玉座の後ろまで行き身体の向きを反転させる。
ちょうど、その時だった。
謁見の間に一人の少女が姿を見せた。
凛とした態度で真っすぐに歩き、扉から入ってくる令嬢。
ピンク色の長い髪が特徴的で容姿も整っている。
それに育ちも良いせいか、やはり大きい。
男の視線を釘付けにする身体は本当にアイリスにも負けないぐらい発達している。
また背が少し低い為か大人の女性(十九才)と言うよりかは女の子らしさもあるのだが、魔術師としての風格は一人前で見ただけで安易に手を出せば返り討ちにあうとわかる。
そんな彼女とは本日初対面のはずであるファントムは「あっ!」と声を上げた。
「さっき検問にいた子だ」
小声だったためにアイリスにしか聞こえていない。
「令嬢相手に今は一般人?的な感じで世間に通しているファントムがその口の聞き方はマズイわよ? 私ぐらいなものよ、タメ語でいいのは」
「そ、そうだね……」
ひそひそ話を始めた二人に白井家の令嬢――優美が語りかける。
「こうしてお会いするのはお久しぶりですね、アイリス女王陛下」
「そうね、久しぶりね。相変わらず元気そうじゃない」
「はい。それで早速ではございますが本題に……う、うん!?」
「あー、彼? 私の護衛よ。まぁ気にするなって方が無理よね。とりあえず部屋に移動しましょう。話しはそれからよ」
そう言ってアイリスが立ち上がり、歩き始めた。
その後ろをファントム、そして更にその数歩後ろを優美と護衛が付いて行く形で移動を始めた。
『護衛より絶対この令嬢一人の方が強い気がするんだが……』
ファントムは移動途中そんな事を心の奥底で思った。
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