空へ落ちる
目的の島に着いた僕はしっかりとマリンジェットを係留して島の中を歩きだした。
歩きながらあの日のことを思い出す。
中学生になっても遊ぶ物が少ないこの離島で、子供の頃から変わらず男子同士はくだらない、でも大事なことが一つあって。
俺は誰よりも勇気があるんだと示す遊びだけはまだ続いていた。
最初は岸壁から飛び降りる奴がいた。
次は本町、一番大きい町へとつながる橋から飛んだ。
海の深さは十分、波の強い場所もないこの離島の周りでとにかく高いところから飛び降りてはあいつの勇気はすげーとか、根性があるとか、とんでもないところから飛び降りたとか僕達は互いに互いを誉めあい――当然の様にたまに親や教師や大人から怒られ――色んな所から飛び込んだ。
小学生のあいだ続いたこの競技は中学になるころには周辺を制覇して、そしてより高い場所を見つける勝負にもなって行ったのだった。
皆が生活空間の中を探索していたころ、僕はネットで自分の家の周りの記事を探して見つけたのだ。隣の無人島には小高い丘とも山ともいえぬ高さがあり、そこから海へと飛べる場所があると。初めて訪れた時はまずその美しさに驚いた。昼過ぎに訪れたその場所は自分達のいる島よりもさらに海が奇麗なのだ。
海面は青くまるで空のようで、底知れぬ海よりも空に落ちていくかのようでその日僕は飛び込むことが出来なかった。次の機会に訪れた時にはまず島の外周をマリンジェットで進むと湾を見つけることが出来た。湾口部を進むとそれは島の中心部へと続き、その奥に滝の降り注ぐ大きく深い池があった。
そして次の機会で僕はそこから飛んだ。滝の脇は長年かけて侵食された岩だらけでそのグルっと巡ると滝壺を避けて飛び込むのに格好の場所があったのだ。
その日僕はプカプカと水面に浮かびながらガッツポーズを決めた。
明日学校で自慢してやろう、誰もこんな高さから飛んだ奴はいないんだから、これは絶対自慢できる奴だ、そう思って明日の事を楽しみにしていた。彼女に会うまでは。彼女と会った事でこの自慢は僕の胸にしまわれた。
それでも僕がこの島に来るのは単純で、僕は僕の好きな子に会いに来ている。
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