　夫婦別姓/氏に関する議論が紛糾する近年、家族の形に深く関わるこの課題の解決を図るために現政権はひとつの、ある極めて革新的決断に踏み切った。それはN国国籍を有する国民の姓をすべて一律「佐藤」に改めるというものであった。政府は国民の苗字すべてを「佐藤」姓に置き換えるための新たな法律を制定し、その施行に至り国民はすべて「佐藤」と化した。もともと「佐藤」姓を纏っていた旧来の「佐藤」さんはそのまま「佐藤」さんとして、一方でかつて「鈴木」や「高橋」を始めとする様々な苗字を冠した人々は判を押したように皆「佐藤」さんへと変貌した。

　すべての国民を「佐藤」に変えるこの強大なムーブメントに際し、当然ながら賛否は相次ぎ、世の中には大きな混乱が広がった。しかしながら、結果としてこの法律は国民の一体化を図るという一側面においては確かな成果を示した。「佐藤」という共通の苗字を国民全体が持つことで、国民間には自ずからそれぞれに対する親愛の情が湧き出でるようになり、それは結果として犯罪率の減少や出生率の増加などといったあらゆる喜ばしきデータの数々に姿を変えた。

　我が国はおよそ一億二千万にも及ぶ「佐藤」の総体、つまるところ大きな「佐藤」、さらに端的に言うならば「佐藤」そのものとなった。「佐藤」は還元可能な存在となり、国家が「佐藤」であり、また「佐藤」が国家と化したのである。出生率の向上により今後も「佐藤」の規模は拡大の一途を辿るに違いない。それがどこまで続くのか、今から非常に楽しみだ。