第9話 夜の祈り(899文字)

 それが真摯な、どこまでも真っ直ぐな、そんな祈りにも似た願いならば、この世界はひとつくらい叶えてくれたっていいじゃないか。僕はそう思う。星降る夜に夜気を吸い込みながら、僕はそう思った。



 友達が事故に遭った。交通事故だ。信号待ちをしていた彼のところに、暴走したトラックが突っ込んできた。僕はそれを、夕方に何気なく目をやっていたニュースではじめて知った。僕の住む街の、僕と同じ年齢の男の子が突然理不尽に巻き込まれた。

 その衝撃は、男の子が僕の知っている子だった、という衝撃が容易く呑み込んだ。僕たちの日常はたいてい、想像の範疇のことしか起こらない、そんな退屈で、それでいて平穏なものに囲まれている。だから、身近な友達が事故に遭った、なんてことには全然リアリティがなくて、でもそれが確かに現実に起きたことだっていうことを理解すると、僕は怖くて怖くて堪らなくなった。

 その友達は、僕の、唯一の親友と呼べるような子だった。その子が目を開けることはもうないかもしれない、その子が口を開くことはもうないかもしれない、その子はもう二度と動かないかもしれない。そんな考えたくもないようなことばっかりが、頭の中に浮かんでは消えていく。その日はよく眠れなかった。

 翌日、僕はお母さんに連れられてお見舞いに行った。ベッドの中で友達は一見して安らかに眠っているようだった。けれど、彼が意識を取り戻すかどうかは分からないとお医者さんが言っていた。

 友達が事故に遭っただなんて、それにもう二度と目を覚まさないかもしれないだなんて、これは本当に現実のことなのか、事実のあまりの重さにその日は結局、混乱した頭を抱えて病室を出るしかなかった。



 友達が事故に遭ってから今日でもう四年になる。僕は今年高校生になるけれど、友達は一向に目覚める気配がない。はじめてお見舞いに行った日、あの日から月日はゆっくりと、それでいて一瞬にして過ぎていった気がする。

 それが真摯な、どこまでも真っ直ぐな、そんな祈りにも似た願いならばこの世界はひとつくらい叶えてくれたっていいじゃないか。いつかの夜そう思ったことを思い出しながら、僕は病室の窓の外に見える星空に高く祈った。

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