第8話 言葉の魔術師(679文字)

 「そうだ。確かに俺が言葉の魔術師だ。」

 紺色の涼しげな着物を身に纏った、古風な風貌の男が言う。男は眼前の異形の怪物を睨みながら言葉を続ける。

 「貴様の推察通り俺、いや、正確には俺の一族は遥か昔から言葉を操るすべを心得ている。言葉を操る、というのは文字通りの意味で、俺個人は別に口達者だったりする訳じゃあない。言霊信仰というものがあるが、あれは正しい。言葉は強力だ。言葉には確かに霊力が宿っている。言葉によって万物は規定され、それは決して逆ではない。言葉は万物の主人だ。人間の放つ言葉には、その力の大小はあれど皆例外なく霊力が込められているものだが、俺たちはそれを最大限に引き出すことが出来る。言葉を形にする瞬間、その言葉の内包する事象を強力にイメージし、そしてそれを言葉に乗せる。すると言葉は、俺たちのイメージした心の中の事象を現実世界に具現化させる。それが言葉の魔術のカラクリだ。俺たちはそうやって言葉による奇蹟を行使する。貴様は俺たちの追い求めていた最後の妖だ。貴様を探し出すのには骨が折れたが、貴様は最後の敵にふさわしい強さで俺を楽しませてくれた。だからこそ、その返礼としてこうやって長々と話をしてきてやった訳だが、それももう終わりだ。これですべてに終止符を打つ。——一閃」

 それは一瞬のことだった。男が言葉を放った刹那、目の前の異形の怪物を一瞬のひらめきが襲った。光は瞬く間に怪物の体躯を貫通し、その体は塵と化した後に霧散した。

 男はこうして妖退治という一族の使命を果たし終えた。その事を確認した男は暗い森の中から、黄色い光の塊に溢れた街の方角へと足を向けた。

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