第5話 神の最期(550文字)
今、一柱の神がその命を終えようとしている。否、神に死の概念はないのであるから、正確にはあくまでもその存在が極限まで希薄と化そうとしている、ということである。
我が国には古来より八百万の神がおはしますと言われている。自然界に生きる動植物、人々の手により生み出される人工物。それらすべて、この世にあるすべての存在、万物に神は宿る。
神は一柱の例外もなしにすべて人々の思念、その総体から誕生し、また、その形を保っている。過去、現在、そして未来の別なく人々の精神が繫がりをもつ領域がある。そこは生者、死者の区別なく我々人類個々人の無意識が集う極大の水槽の中のような場所で、そこから神と呼ばれる存在は誕生し、また、誕生する。
このように神は人々の思念とは切り離すことのできない存在であるから、人々の神への信仰の衰退は、そのまま神の力の低下、ならびにその存在それ自体の危機を招くことになる。
今、一柱の神がその命を終えようとしている。古くは強大な力を誇ったこの荒れ果てた社に祀られている水神も社会の変化とともにゆるやかに信仰を失っていき、そうしてついには無に近しい存在へと成り果てた。
力を失った神は、忘れ去られた神は、その最期の時に一体何を思うのであろう。それは恐らく、その時を迎えた神にしか分からないことなのであろう。
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