第4話 星屑倶楽部
結成前、他のメンバー達と話していると、全員独身という事を知った。そこで一気に連帯感が高まり、「オフ会しようぜ!」とか、「みんなで旅行へ行かないか?」など、時計好きというよりも、ただの女好きの集まりではないのか?という位、いつも女の話ばかりしては、盛り上がっていた。中には、結婚を経験するも、今は独り。という離婚を経たメンバーもいた。彼の意見では、セックスは大事だが、結婚はタダまんがいつでも可能な甘いもんじゃない!と力説し、籍を入れずに、事実婚的なパートナー関係が理想であると、結論づけた。子供をもうけるか、もうけないかで、その理想は随分と変わってしまう。オレは親に孫の顔を見せたい一心で、漠然と結婚を望んでいたのだが、今後の母国、日本には、永く暗い時代が、しばらく続くのでは?という予感がする。少子高齢化、経済の停滞、貧富の差、中国の台頭など、枚挙にいとまがない。そんな状況下で、結婚し、子育てをし、生活費を稼いでいかねばならないのだ。
「所詮、結婚なんて、キラキラした幻想の屑なのかも知れないな。」と言ったのは、年長者のタカさん。
結婚をしたいが、結婚をしたくない。そんなアンビバレントな皮肉を込めて、コミュニティの名を、星屑倶楽部と命名した。
そして、妙な星回りで、クリスマスに生まれてしまったオレの誕生日、12月25日に泊まりで、皆と会う約束をしたのだった。そして、いつの間にか、オレのニックネームはジーザスとなっていた。
そして、イエス・キリストさんの誕生日でもあるその日、メンバーは居酒屋で一堂に会した。
形式ばったヤツはやめて、ざっくばらんにいきましょうよ、という事で、簡単な自己紹介を始めた。
「どうも、はじめまして。ダーツバーをやっておりますダイスケです。独身ですが、彼女はふたりいます。そして、子供がひとりいます。前の奥さんが育ててます。好きな時計は、カルティエですかね… 今日はパシャを嵌めてきました。よろしくお願いします。」
筋肉質でがっちりとした体型で、エロさには、定評のある、ダイスケが先陣を斬った。まだ38歳だという。
そして、いつも機知に富んだ話をされる年長者のタカさんが、続いた。
「こんばんは。今日は生意気にもブレゲのアエロナバルを連れて参りました。」ここでメンバー一同、笑ってしまった。生意気も何も、年長者かつ、立派な社長さんなのだから、堂々と嵌めていればいいのに… 皆、そう感じて、話を待った。
「たまに車を女性に例える方が、いらっしゃいます。さて、では腕時計はなんだろうか?宝飾品でしょうか、ステイタスシンボルでしょうか、私は、例えるならば、バイアグラみたいなものだと、思っています。」
「自分が男だと、再確認させる機能を併せ持っているからです。」皆、頷いた。「しかし、まだ今夜はビンビンとまでは、いってませんが… フフ、まあ、これからですかね…」と口元を緩めた。腕時計は当然として、スモークグレーのベルベットのジャケットに、ブラックジーンズを併せ、靴は黒のスリッポン。そして、カシミアのマフラーと黒革のグローブを脇に置いていた。
センスと財力は、他の追随を許さない、さすがのコーデだった。きっとオレを含め、他のメンバーが知らない世界を知り、凡人のわからない経験を積んでいるのだろう。それでいて、その柔和な表情とユーモラスな話し方にメンバー誰もが、魅了された。愛車はここ数年BMWの黒い6シリーズクーペを駆っているらしい。
そして、タカさんは独身ではなかった。年齢も、皆とひと回り位は違う。しかし本人の強い要望と、皆から受けていた人望により、参加の運びとなった。「自分よりも若い人間と接していると、刺激を受けるから老けないんだよ。」とは本人談だ。
次に自己紹介をはじめたのは、髪の毛が若干、寂しい感じになり始めている、目付きの鋭い元自衛官の男、アキラだ。「はじめまして、こんばんは。今、長距離ドライバーやってる、アキラと申します。今日は、オメガのスピードマスターをしてきました。しばらく彼女はいません。ぶっちゃけ溜まってます。バツ1です。子供はいません。恥ずかしい話なんですが、前のかみさんに浮気され、それが原因でこの有様です。しょっちゅう風俗に行ってます。是非、今度ご一緒に行きたいっすねぇ〜」
軽く顔を赤らめそう言った。
裏表のない性格で、お人好しな感じがして、皆、好感を持った。
次の自己紹介は、細身で高身長かつ、いかにもファッションにはこだわりを持っています。といった髪をツーブロックヘアにしているヨウジが始めた。
「実は、僕もアキラさんと同じ、元自衛官なんです。そして、同じバツ1なんです。今は看護師をしています。自衛隊時代に資格を取ってから、今はとある病院の精神科病棟に勤務しています。今日の時計は、前のカミさんが、結納返しにくれた、ロレックスのエクスプローラーしてきました。気に入ってる点は、派手すぎず、飽きのこないところですかね… そんな女性いませんかね?」
皆笑いに包まれた。
「ヨウジさんの方こそ、ナース紹介して下さいよ〜」
間髪入れずアキラが、叫んだ。
すると、ヨウジは「今度、白衣持ってきましょうか〜?」とやり返した。すると周りも、ピンクのやつもなかなかそそるんだよ。とか、給料いいから、バンバン遊んでる娘も多いんだよなとか、場が色めき立ってきた。それぞれナースに対して、思い入れがあるようで、オレも、当然やぶさかではなかった。
そして、いよいよオレの番になった。
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