第11話 城塞と天才結界士と魔王

「だ、大丈夫ですかー?」

「あぁもう! 数が多いっ!!」

「……早いとこ前衛が欲しい所だな」

「い、今2体目ですっ!」


 ソーディリア大陸に降り立った俺達に待っていたのは、それはそれは大層なお出迎えであった。

 しかし、それは絶対に必要のないお出迎えだ。こんなサプライズ、喜ぶ人の方が稀なんじゃないだろうか。


 初めて来たときも思ったのが、船着き場の整備が行き届いていないのはどういうことなのだろうか? 船が止まる場所と橋、そして簡易的な出店に少人数の警備で構成された簡素な作りである。

 そのためなのか、護衛を探す商人たちが橋の上で屯している光景が日常茶判事となっていた。

 俺達は金銭面で多少余裕を持たせるために、比較的報酬が美味しい商人を見つけて護衛を請け負う事になった。行先は目指していたリーデンワーク城塞、その点でも丁度良かったし、商人から情報が手に入ればそれはもう万々歳であった。

 ……残念ながら、その情報を聞くタイミングが見つけられずにいたのだが。


(……マギア。大技は使うなよ? 身分がバレるか疑われるかでもしたら大変だ)

(わかってる。そのせいで処理が遅くなってるの目に見えない?)


 マギアに対しては身バレを考慮し、人前では2、3章程度の魔術行使までに留めるよう注意を促している。

 炎弾ファイアガントは連射出来て効率は良いのだが、威力はかなり低い為、何発も撃ち込まなければならない。

 雷槍フングニルも威力は高いが、魔力が多い分連発できないと一長一短だ。そりゃ処理も遅くなる。


 俺は攻撃できないので、ティナのサポートに徹する。回復役とはいえ、先日の黒竜戦の時のように、ティナに対して結界を施し、その間に攻撃してもらえば、何とか活躍はできる。魔剣王が仲間になるまでの前衛役というわけだ。

 ――最も、結界を付与している間の俺は無防備となるわけだが。


「マギアッ! 3章無詠唱、許可すっから吹き飛ばせっ!」

「もうこんなに増えてたわけ!? 《炎属性魔術 -三章-:炎斬ファイアグレイド》!」


 反対側の敵を炎弾で処理しつつ、こちらへと振り返り、三章魔術で一掃する。彼女の手に一瞬炎の剣が生成され、それを勢いよく振り払う。

 そこから放たれる炎の剣閃は、俺の背後を狙っていた魔獣たちを尽く塵へと変えていく。三章でこの威力か。苦笑しか出来なくなる。


 三章を無詠唱で扱う人は、例外なく帝国送りとされているので、身バレが危ういと思い使用を禁止していたのだが、こればっかりはもう仕方ない、使うなって言う方が無理な話だろう。

 魔王だからと、少し余裕をこいていたのかもしれない。


『グルラッ……』

『キキィーッ!!』


 その連続で放たれる三章魔術に恐れをなしたのか、周囲をかこっていた魔獣たちが次々と逃げ出していく。さすがのソーディリア大陸の魔獣でも、その光景は予想外だったのだろう。

 数がドンドン減っていき、ようやく道が開けてきた。これなら安心して進められる。


「……い、いやぁー、助かりました。御強いんですね」

「ぉ、終わりましたね……」

「ま、結構大変っしたけど」

「いえいえ~、道も開けましたし、さっそく向かいましょうか」


 あ、マギアが敬語使ってる。こういう時は大体機嫌が悪いのだ。仕方ない、後でケーキをごちそうするとしよう。この護衛を完遂すれば、ケーキ2個くらいは余裕で与えられるだろう。

 ――あれ? その目的で護衛の依頼を受けたんだっけ?



 馬車に乗り込み、再びリーデンワーク城塞を目指す。ティナに周囲を警戒させ、疲れた俺とマギアは一先ず壁にもたれかかって休む。ずっと短剣を刺し続けてたティナの方が疲れているだろうし、休ませようとしたのだが


『私は良いので休んでください。奴隷ですので』


 と言って聞かないので、仕方なく俺も休む側に回った。まあしばらくしたら変わってあげる事にしよう。ずっと続けさせるのも、奴隷とはいえさすがに申し訳ない。

 その間に、商人へ聞けるだけの事は聞いとこう。


「……商人さん。この大陸には良く来るのか?」

「え? あ、ええ。ヴィートリヒ大陸の薬草や鉱石は、この辺りでは採取できない物ばかりですので、売れ行きも良いのですよ」

「成程な。ところで、このソーディリア大陸に禁足地とかってあったりするかい? 立ち入り禁止スポット、とか」

「ふむ? そうですなあ……。立ち入り禁止と呼ばれるような場所は無かった筈ですけどね……」


 ふむ、失敗か。

 まあ仮に禁足地が山奥に存在しているとしたならば、一商人が知らないのもまあ無理はないだろう。そんな所に行くなんて稀だからな。

 それともしくは、城塞側が禁足地の情報を出し渋っている可能性があるか。一番最悪なパターンだが。その時は、虱潰しに探していくしかないだろう。


「……禁足地って訳ではないですが、よからぬ噂で誰も立ち入らなくなった場所なら一つ、心当たりがありますよ?」

「何?」

「それ、本当!?」


 情報が出る予感がしたのか、マギアの食いつき反応も凄まじい程速かった。誰も立ち入らなくなった場所、か。禁足地程ではないが、信ぴょう性は高そうだ。城塞側が噂をばらまいている可能性もあるからな。


「お、おぅおぅ? オカルトマニアとかそういう類ですかな? ……そうですね。ソーディリア大陸の中心部、剣山ソードマウンテンと呼ばれている場所の中心部の森に、古びた屋敷がありましてな」

「屋敷?」

「ええ。城塞の子供たちからは『亡霊屋敷』と呼ばれているそうな。何でも立ち入れば、気味の悪い音が何度も鳴り響き、物が勝手に動いたりするとかなんとか。しかも地下にはどうやっても開かない扉があるとかなんとか……」

「亡霊……屋敷?」

「お化け、お化けが出るんですかぁ!?」


 警戒していたティナが恐怖の雄たけびを上げた。どうしよう、凄い行きづらくなってしまう。その反応を聞いてマギアはふふっと笑っている。可哀そうだろ、やめてやれよ。


「なぁーに? ティナちゃんお化け怖いのかな~?」

「うっ……べ、別に、大丈夫ですっ!」

「揶揄うな、マギア。……前者の内容はともかく、どうやっても開かない扉、か。破壊とかも試みたのか?」

「ええ、城塞側が。しかし、結界なのかどうなのかは知りませんが、壊せないどころか、傷一つすらつかないらしいですよ? 鍵穴も見つからないと来た。いやあ、恐ろしいですね」


 俺は揶揄うマギアの方へ振り向く。


(……臭うな)

(もし仮にそこが封印場所なら、なんとも珍しい環境ね。もう少し情報が欲しい所だわ)


「そうですか。他に何かありますか?」

「いや生憎それ以上は。申し訳ない」

「いえ、ありがとうございます」


 それ以上の内容は、城塞の人達に話を聞くしかないだろう。子供たちが噂をしている、か。ならば子供に話を聞くのが手っ取り早いか。

 ……子供、苦手なんだよな。大丈夫だろうか。生憎と小さい頃に揶揄われた過去があるため、あまり良い思い出がない。



「……ふぅ。到着しました、皆さん今回はありがとうございます」

「こちらこそ、運んでいただき感謝です」

「少ないですが報酬金です、ありがとうございました~」


 降りた俺達に一袋の貨幣を渡し、馬車はそのまま城塞内へと走り去っていった。中身を確認して問題ない事を確認した後、改めて城塞の方へと視線を送る。


 リーデンワーク城塞。ソーディリア大陸の中心部に位置する巨大な城塞。この過酷な環境の中で耐え抜く為の武装や兵力、施設が整えられた、この大陸の核ともいうべき場所である。

 初めて行った時も思ったのだが、やはりその大きさには圧倒される。


「……この城塞、面影あるわね」

「お前のいた時から存在してたのか?」

「この地に要塞があったのは確かよ。多分その名残じゃないかしら」

「思った以上に歴史が古いんですね」


 魔剣王に対抗すべくして作られた要塞だったのだろうか? それならば、この異様すぎる物々しさも少し納得がいくかもしれない。城壁に触れてみると、所々金剛石が埋め込まれている感触を覚える。それほどしないと、護れない程の力だったのだろうか? 末恐ろしい。


「それで? これからどうするの?」

「予定通り情報収集だ。商人の言っていた事が事実なら、子供らに聞けば何か有力な情報が得られるだろ、気は重いがそうするしかない」

「子供、苦手なんですか?」

「……ちょっとな」

「ふーん、まあ了解。それじゃあ、さっさと行きましょう」


 ……いや、やはり子供相手は俺には向かないな。マギア達に頼むとしよう。

 二人こそ、大丈夫なんだろうか? ちょっと不安だが、まあ信じる事にしよう。

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