第2章 ソーディリア大陸 魔剣王
第10話 船上と天才結界士と魔王
「とりあえず、俺達を探してるような奴はいない」
「そ、それは良かった」
翌朝、俺達は予定通り朝早くから宿をたち、船着き場からソーディリア大陸行きの定期便に乗りこんだ。
そよ風が頬をなぞり、目覚めの身体に良いリラックス効果を与える。これだから朝の船乗りというのはやめられない物である。
魔王にもそれが通ずるのか、俺の隣でマギアが甲板の柵にもたれながら、その長く綺麗な銀色の髪を靡かせている。俺達と同じソーディリア大陸に用のある男たちがボーッとしているのは、きっとマギアに見惚れているのだろう。実際、今のマギアは結構美しかった。
「こっちへの視線が強いですね……」
「私の容姿に男の愚民どもが見惚れているんでしょ?」
「今回ばかりは否定できないな」
「ばかりって何よ!」
船に乗った時は、もう誰かに追われていないかと少しばかり不安になってたが、大丈夫だと分かった後は、こんな感じですっかりのんびりタイムである。
これからもう一人の魔王に会いにいくというのに、この調子で大丈夫なんだろうか? いや、こういう時こそリラックスしないと精神がやられてしまうのかもしれない。
マギアの事だから、そんな事まで考えていないのだろうが。
「……ソーディリア大陸、私行った事ないんですよ」
「旅人やってたぐらいだから、てっきり行ってる物かと思ったが……。マギアは?」
「あるに決まってるでしょ。アンタはどうなの?」
「例のパーティーの奴らと少しな」
ソーディリア大陸。岩山に囲まれた岩窟地帯が8割を占めている大陸。他の大陸でも類を見ない程の戦争を過去に何度も起こった事から、出没する魔物も協力な物が多く、冒険者にとっては修行の地とも呼ばれている場所である。
A級クラスの魔物、ヘルロードの討伐依頼の為に数日程滞在していたことはある為、その危険度はよく理解している。そんな大陸を過去支配していた魔王……本当にどういう奴なんだ? ボーッとしてる子とは聞いたが。
「マギア」
「ん?」
「魔剣王、だったか。馬車の中では余り聞いてないが、詳しくはどういう奴なんだ?」
「……ボーっとしてる子だよ、本当に。でも、怒らせたら味方でも殺す程の、残虐非道さは持ってる。私よりは魔王してる子だよ」
「それは聞いたが、それ以外は?」
「あまり会話はしてないの。私、魔弓王以外とはあまり交流してないの。魔剣王とも、話したのは数回程度」
「……そんなにギスギスしてたのか」
「うん」
当時がいかに修羅の世界なのかが、交流関係でわかる例というのも早々ないであろう。おそらく彼女が魔王であるからこその体験だろう。
そんな関係だからこそ、一人の魔王の逆鱗に触れた事よって聖戦が勃発したのだろう。いやはや、いまこうやって俺が魔王と一緒にいる事が恐ろしく感じてしまう。
「何というか、マギアを敵に回さなくてよかったよ」
「そりゃそうでしょう。アンタなんて一瞬よ? 一瞬」
「出会ったとき、何とか耐える事は出来たが?」
「耐える事しかできないでしょ。あ、でも封印を使われるとやばいわね?」
「……互い様だな」
「……ふふっ。魔王様とクライン様、本当に良いコンビですね」
「そうか?」
「見てれば分かりますよ」
出会ったときこそ、殺されかけたりとかしたものの、短期間でそんな関係として見られるようになっていたのか? 互いに成長でもしたのだろうか?
昨日のブラックワイバーン戦でお互い少し苦戦を強いられたのもあるのだろう。それはそれとして、そういうものになっていたのであれば、こちらとしても少し嬉しい物である。
次会う魔剣王とも、上手く和解できるといいのだが。
「……そういえば、マギア。魔剣王がどこで封印されてるか、分かったりするか?」
「生憎と。あの子は私の後に封印されたと思うんだよね。知らせとか何もなかったから……」
「情報無し、か」
「そ、そこは調べるしかないですね……」
「だな。3人いれば良い感じに分散できるだろ」
一応ソーディリア大陸にも、他大陸同様城のある大きな街は存在する。いや、城というより城塞だな、あれは。
つまり、マギア同様禁足地と指定されている場所があるとするのなら、そこに封印されている可能性は高い。
幸い観光目的で禁足地をめぐる冒険者や旅人も少なからず存在するため、場所を聞く事自体はたやすい物である。最も、深入りして探りをいれてしまったら怪しまれてしまう為、そこは注意しなければならないのだが。
「港町についたら、まずは北のリーデンワーク城塞を目指すぞ。そこで手あたり次第に聞き込みだ。あそこは情報屋や商人も沢山いるからな」
「おっけ、了解」
「わかりました」
……魔剣王、どんな奴なんだろうな。
今から会うのが楽しみだ。
***
「……あれから何年がたったか」
ソーディリア大陸のとある場所。誰にも知られる事のない小さな砦に一人、青髪をたなびかせて、来たる日を待ちわびる女性の姿があった。
「私の代わりに封印されてくれて助かるわ。貴方はよくやってくれた……。さて」
女性は不適に笑う。
「……そろそろね。聖戦の再開は」
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