第9話 旅立ちの前夜と天才結界士と魔王
散乱したブラックワイバーンの鱗を回収し、用済みとなったダンジョンを俺達3人はそそくさと後にした。
どういう原理なのか不明だが、ブラックワイバーンを討伐したダンジョンというのはまるで見るも無残といった様に、魔獣のまの字も無く静かであった。
マギア曰く『主がいなくなると、部下って意気消沈するでしょ? そういう感じ』と説明してくれた。そういう物なのか。
港町の役所に制圧報告をした後報酬をいただく。ちょっと失敗だったのが、報告をした瞬間周りにした冒険者が俺達を英雄だの最強だのと言って騒ぎ立てた事だった。
有名になってしまっては、足がついてしまって居場所がバレやすくなるために避けようと思ったのだが、ここまで制圧が高難易度の物と思われてるとは想像していなかった。最大の誤算だ。
しかし崇められるという事に優越感を感じるのか、マギアはその間とても気分が良い様な表情を見せた。俺に『寛容である』とか聞いたことないセリフまで吐き捨てる始末だ。ここまでくると非常に扱いづらくなってくる。
しかしおかげでケーキの件は無しにしてくれた。お金の節約になっただけまだマシと思うべきだろうか?
報酬で懐が多少潤った為、速いうちに宿の部屋を取った。念のため二部屋予約しようとしたのだが、明日船の定期船が再開するという事もあり、残っている部屋は後一つだけだったらしい。
みんな考える事は一緒というわけだ、そのために速く宿へ飛び込んだのだが、他の奴らが一歩上手だったという事だろう。
「今日は誤算続きだな……」
「ん? どうした? 部屋は取れたのでしょう?」
「女子二人と男一人だぞ、普通二部屋だろ、普通!」
「わ、私は別に大丈夫ですけれど……」
おい、魔王はともかくお前は人間だろ。
なぜ妥協する。
「……へぇ? 何? お前にも羞恥心という感情はあったのかなぁ?」
「寄るな寄るな!」
「……ふふっ」
「ティナも笑ってねぇで、止めろ!」
俺の読まれたくもない心を悟られ、いじるようにグイグイと身体を寄せてくる。クソ、身体はガキの癖に。
もうちょっと歳とってから出直してこい。と思ったが、そもそも歳はとってるんだったわ。身体が小さいだけで。
「――冗談。ま、何かするつもりなら返り撃ちにするだけだし、気にしない気にしない」
「するつもりはないから大丈夫だ。あっても死んで終わりだ」
「い、一応ここ宿ですからね? 派手な仕打ちは……」
「加減を考える必要はない。するつもりがないからな」
何回言えばいいのだろうか? そんなに俺は信用ならないのか?
ちょっとへこむ。
〇
街中に良い感じの飯屋を見つけた俺達は、店員に個室へと案内される。
これは俺が指示した物で、個室ならば人目を気にせず会話をする事が出来るからだ。個室のある店は思った以上に少ないため、非常にありがたかった。
さすがに声は響いてしまうため、バレたらまずい会話は小声で話さなければならないのだが。
適当に定食を注文し、頬張りながら今後について再度話し合う。
「明日に定期船が再開する。朝一に乗り込んで、直ぐにここをたつ。それで異論はないな?」
「うん、問題ない。行先はソーディリア大陸、と。はぁ……魔剣王に会うのか、改めて気が乗らないんだよね」
野鶏肉を口にしながら、マギアが苦い表情を見せる。
馬車の中でも聞いたが、マギアはその魔剣王とやらには一応面識自体はあるらしい。だが、出会ってすぐギスギスしていた為、良い思い出はないとのことだが。
「それにしても……」
白米を口にするティナが徐に声を上げる。
「魔王って、本当にいたんですね。アレを見た後ですが、未だに実感がわかなくて……」
「そりゃ仕方のない事だよ。一応伝承の中での存在みたいな物だったらしいし」
「……それはそうと、ティナの故郷にもそういう話は流れてきたりしてたのか?」
「は、はい。私の故郷は、フィミリア大陸にありまして……そこも、かつて魔王が支配していたとかなんとか」
「あー、魔薬王ね」
大陸名を聞いた瞬間に、直ぐその名を言い当てる。
魔剣王よりかはいたって普通の反応をした。
「知ってたのか?」
「顔は知ってる。話したことはないけど」
どうやら魔王というのは、全員が全員面識があるという訳ではないらしい。当然魔王同士の集会という物もない。
そもそも魔王同士が当時からギスギスした関係なのもあり、まともな交流ができなかった様である。
「その……私の故郷の魔王って、どういう人だったんですか?」
「ん~……? なーんだろうなぁ。話したことないからわかんないけど、まぁ魔王っぽい事はしてたよ。人間操って大地一つを呪われた地に変えたりとか……」
「あ、あの、呪われた大地、ですか!?」
俺はフィミリア大陸に対する知識は全くと言っていいほど持ち合わせていなかった為、その会話には全然興味がわかなかった。
だが、二人が会話しているを見て、案外悪い関係にはならなさそうだな、と一先ず安堵した。これでギスギスした関係だったら、今後が不安になる所だった。
今後、ティナは奴隷としてどういう道を歩んでいくのだろうか?
少し、楽しみではある。また一つ、面白い遊びが出来たような感覚だ。
「あ、クライン? ここにケーキはある?」
「無い」
「ッチ」
本当はあるが、バレないように嘘をついておく。
機嫌がいいときは、こういうほどよい嘘は通じるのだ。
〇
「クライン様ですね。はい、今日の朝、冒険者登録をされました」
王から創作命令を受けた俺達は、真っ先に冒険者ギルドを訪れる。
クラインみたいな解雇をされた野良の旅人というのは、大体行き場を無くして野垂れ死ぬか、冒険者ギルドに入って新たな人生を送るか、の二択が大半である。
今回の封印解除の事件、それの犯人がクラインとするのなら、野垂れ死ぬ選択肢は自然的に無くなる、故に俺達は残った冒険者の選択肢という望みにかけ、冒険者ギルドを訪れたというわけだ。
ビンゴ、やはり俺の頭脳は天才のようだ。
「そうか。で、クラインはどこへ?」
「そうですね……依頼は受けずにそのまま旅立たれていきましたが」
「何でもいい、何か情報はないか?」
クレイは真面目な表情で受付嬢に迫る。演技でその顔が出来るのは、一つの才能ではないだろうか?
「ん~……あ、そういえば、入口で女の子と話しているのを見かけましたね」
「女の子?」
「ええ。その子が指さしてた方角だと……港町、ですかね?」
「港町……カステットか。何か用事でもあったのか?」
「さあ、そこまでは」
ファルスはフッと苦笑した。
封印を解除した後は、別の大陸へ高飛びしようとしているのだろうか。
高飛びしたところで、封印を施したり解除したりすることしかできないクライン如きが、俺達という追手から逃げる事ができるわけがない。
今頃、余裕こきながら船にでも乗っているのだろう。
ちょうどいい、面食らわせるチャンスじゃないか。
予想とは反し、クラインは魔王の封印を解除し、それを仲間につけているという状況だった。現実はファルスたちにとっては絶望的だった。
ティナという新たな仲間も得ている。
予想なんてできるわけがないだろう。
彼は、クラインをどうやって捕らえようか、などという余裕こいた妄想をしながら、冒険者ギルドを後にする。
「……いやぁ、有力な情報だったな」
「ええ。ですが、受付嬢のいってた女の子というのは、どういう事でしょうか?」
「気になるが……ま、そんな大したものじゃないだろう」
「ああそうだ。深く考えるな。一先ず、俺達もすぐに港町へ行く。船着き場で情報収集して、大陸移動していたらすぐに船に乗り込む! 完璧な作業だな」
「ええ、そうですね」
「異論はない」
ただ当たり前の事を言って、ファルスたちは気分よく笑い、港町へと向かった。
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