第070話 人の力
「神威拘束術式起動」
『神威拘束術式起動』
すでに俺の周囲に無数に展開されている表示枠を通して、ティコに一手目の起動を指示する。
それを表示枠に映っているティコが復唱すると同時。
封印から解き放たれ再起動を続けている『巨神』の周囲にいくつもの『
そこから魔力によって編まれた巨大な鎖が幾条も解き放たれ、揺らめく穢れた魔力によって巨大なヒトガタ――まさに『巨神』のカタチを形成しつつある対象を拘束するべく絡みつく。
白かろうが黒かろうが、澄んでいようが穢れていようが、魔力と魔力のぶつかり合いはより巨大な奔流こそが相手を呑み込む。
まあそのあたりの理屈はティコに任せっきりなので正直なところよくわかってはいないが、魔力に基づくすべてを無効化しているように見える
少なくとも俺にとって、今実際に『巨神』の再起動を無数の魔力の鎖で封じられているという結果こそがすべてだ。
「さて次はリィンの『
リィン自身ですら一度起動してしまったら止め方を知らないそれをまず止める。
俺の最大の目的はリィンを救うことであって、世界の方はついでに過ぎないのだから。
こっちはわりと力押しというか、単純な物量でどうにかなるので簡単な部類だった。
とはいえその物量――膨大な数の『魔石』を集めるために、結構な時間がかかってはいるのだが。
「
『
先と同じように俺の指示に対してティコが復唱すると同時、俺を中心とした半径数百メートルに及ぶ球形結界が発生し、その内側のあらゆる魔力をその外へは漏らさないようにする。
あとは単純だ。
数百年に渡って貯め込まれた『巨神』の原動力たる原罪に穢れた魔力、その悉くを吸収し己が身の内に収めることを可能とするのが
その吸収許容量を上回る魔力をこの場に展開し、リィンに吸収させてしまえば『黒化超過駆動』は停止せざるを得ない。
球形結界の展開から一拍遅れて、その内側の空間が虹色の光で満たされる。
それは単純な転移魔法によってこの座標に送り込まれた、万を超えて空間を埋め尽くして浮かぶ巨大な『魔石』の連なりが発している光。
その数でさえ、俺が数えきれないほどの『時間遡行』のたびに可能な限りの
だがリィンの『黒化超過駆動』による魔力吸収を飽和させるには充分な量でもある。
しかもそれは『巨神』が
その『魔石』のすべてが俺に意志に従い一斉に砕け散り、球形結界内で
莫大な量の光が消え去った後には、『黒化超過駆動』どころか常態化していた『黒化』すらも解除され、本来の純白の肌となったリィンが己の魔導器の能力で空中に浮いているのみとなる。
これでまずは「分水嶺を越えてしまった」リィンを引き戻すことができたというわけだ。
まずはこれができないとどうにもならないので、理論上は完璧だったとはいえ実践でそれが証明できたことは重畳と言えるだろう。
まあ副作用として吸収した魔力を使い切るまでリィンの
誰も触れられない『黒化』状態とは逆に、今のリィンに魔力が持つ者が不用意に触れたら、リィンから自分に流れ込む膨大な魔力によって失神してしまう状態なのである。
まあリィンを自動的に護る仕組みとしてはそう悪くないものともいえる。
『黒化』していようが今の状態であろうが、リィンが平気で触れられるのも、逆に触れることができるのも俺だけというわけだ。
まあリィンが望むのであればそれを解除する手段も構築できてはいるのだが。
「これを全部……人が?」
「そ。神様の力でも
連続して起こっている、リィンの常識では考えられない状況に対して、茫然とリィンがそう口にする。
まあそりゃそうだ。
突然人の技術が数千年分も進化した結果を見せられても、おいそれと信じることは難しいのはいわば当然だ。
神様の御業ですと言われた方が、よほどしっくりくるだろう。
まあそれ以前に膨大量の魔力吸収に伴う感覚で、まともに思考もできないだろうけれど。
ある程度普通――な様子でもないけれど、まともな言葉を口にできているだけでリィンは大したものだと思う。
ここ数日で、魔力吸収に伴う感覚になれていただけはある。
「さてこれでリィンの『
「前座……」
「この後に真打が控えているのだから前座だろ、『巨神』は」
自分が、自分たちエフィルディスがその存在をかけて封じていた相手を前座扱いされて思うところがあるのは理解できる。
でもあえてここは、馬鹿な言い方を優先する。
こんなことは取るに足りないのだと、リィンに思ってもらうために。
そんなものにリィンが縛られる必要など、どこにもないのだと。
「
『
だけどそんな偽りの義務を放り出した結果、世界が滅んでも知ったことじゃないというのは俺の考えであって、リィンはそれを絶対によしとはしない。
だから本当の意味で笑い飛ばしたければ、実際にあっさりと『巨神』を無力化し、リィンを救うついでに世界を救って見せるくらいできなければだめなのだ。
だからリィンの代わりを俺がやる。
その上で自分も犠牲にすることもなく、これからも世界に蓄積され続ける『原罪に穢れた魔力』による世界の崩壊を起こさない
そもそも誰かを犠牲にして
欠陥品だ、そんな
原罪とやらに穢れていようがいまいが、魔力は魔力、力は力だ。
世界を滅ぼすだけの力がそれにあるのであれば、それを観察し、分析し、解析し、再構築して世界を滅ぼす以外のことに有効利用してやるまでだ。
それを可能とするのが人の知恵、技術の力なのだから。
『聖教会』の『
両眼から『原罪に穢れた魔力』の証である赤光を迸らせ、魔力の鎖に拘束された『巨神』がその身に纏う同じ「赤い魔力」を我が身にすべて吸収する。
すでにとんでもない桁のレベルになっている俺の
それがどれだけどす紅く汚れていようが、魔力を生きるために利用した人の欲望に染まっていようが、溶け広がって消えてなくなる。
とはいえその際に残留思念のようなものが俺に流れ込むことは防げない。
これが嫌だったんだよ、これがリィンに注ぎ込まれるのが。
魔力吸収に伴う快感もあるのがまた質が悪い。
だが長い時を経て、物理的な快感に対する耐性もとんでもない域に至っている俺にとってはそうたいした問題でもない。
まずは一旦完全に吸いあげ尽くす。
その結果『巨神』は魔力によって形成されていた揺らめくヒトガタを失い、魔力の鎖に雁字搦めにされたその核を露呈する。
なんのことはない。
纏うおどろおどろしい魔力を剥ぎ取ってしまえば、そこにあるのは理論に従って魔力を利用するカラクリが在るだけだ。
極まった技術は魔法と見分けがつかない。
つまり魔法もまた、技術の最果てに存在する御し得る力のひとつでしかない。
それは神の力であってもつまるところは同じことなのだ。
『巨神』として稼働するための原動力をすべて俺に奪われ、再び『原罪に穢れた魔力』を蓄積するモードに入った
これで今後は蓄積されてゆく『原罪に穢れた魔力』とやらも、俺たち『
あとはこれと同じことを12回繰り返し、エフィルディスの犠牲のもとに世界を
完全に制御下においた『巨神』の成れの果てを利用して、今のところ草案に過ぎないが『機神』でも創り出して世界を守護する象徴にするのも悪くない。
この案にはティコをはじめとした『
『十三機神』を操る13人の騎士様と、機体の制御を担当する『
「これ、で?」
「そ、お終い。これ以降は二度と、この『巨神』が世界に仇なすことはなくなった。俺たちが取り込んだからね。あと12体これを繰り返すだけだよ。そいつらはまだ封印が生きているから、これよりもずっと簡単じゃないかな」
ぽかんとしているリィンが可愛らしい。
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