第050話 星墜

 星墜メテオ


 攻撃系魔法使いジョブである『黒魔導士』が、最初の成長限界レベル・キャップであるレベル100に至った時点で習得する広域殲滅魔法。


 黒魔導士の奥義となる『禁呪』、その最初のひとつ。


 その攻撃対象は術者が「敵」だと認識しているすべてとなり、数的上限は存在しない。

 派手な演出エフェクトのわりにはその効果が発動するのは術者が「敵」と認識している相手に限定され、地下迷宮ダンジョンの深部であっても問題なく敵にのみ炸裂する。


 すでに実験で何度も撃っているから、そこに間違いはない。


 迷宮ダンジョンの天井から巨大な星が絵面は意外と様になっており、その破壊力も併せて、迷宮ダンジョンが崩れるのではないかという恐怖を覚えるほどのモノだった。


 さすがに今はもうなれたが。


 攻撃力は支援バフ系魔法や能力スキルによる防御力増加ブーストばかりか、本来の防御力すらも無視して『固定ダメージ』を一切の減衰なしで喰らわせるという、H.Pが一定の数値を越えない限りは「確殺」の魔法である。

 格下には一掃手段として使え、格上にはM.Pとの兼ね合いで確実に削れるH.Pを計算できる攻撃手段という、使い方によっては最後まで腐らない便利な魔法と言える。


 当然その『固定ダメージ』はかなりのものであり、俺が最初に殲滅した魔物領域テリトリー――上限レベルが100にも満たない程度の魔物モンスターたちのH.Pが堪え切れる数値であるはずもない。


 それが俺の視界に表示されている拡張現実A.R地図による、敵性存在を光点として捉える能力と組み合わせればどうなるか。


 竜種ドラゴアニール巨人種ジャイアントをはじめとして、万を超える数にまで膨れ上がり、今まさに迷宮都市ヴァグラムへ向けて侵攻を開始する寸前であるヴァルタイ丘陵に溢れかえっているすべての魔物モンスター


 そのことごとくをだだの一撃で焼き払うという、まさに神の一撃を演出することが可能になるのだ。


 眼下にヴァルタイ丘陵を一望できる高度。

 その位置に今俺は、『飛翔フライ』の魔法を発動させて浮いている。


 俺がこの位置にいることを捕捉できているのは、今のところそう教えられている冒険者ギルド関係者たちのみであり、中でも『遠見』などの能力スキルに恵まれた者たちだけのはずだ。


 だが今からは、ヴァルタイ丘陵を注視している者たちすべての目に俺――エメリア王国第三王女、ターニャ・エル・ヒルシュフルト・エメリアが使役する神遺物級魔導兵装アーティファクト・マギカウェポン神殻アキツミカミ』による、攻撃行動が焼き付けられることになる。


 まあ派手なんだよ、『禁呪ノ壱:星墜メテオ』の発動効果エフェクトって。


 ちなみにエメリア王国に代々伝わる建国王が使役したという『魔導器』を『神殻アキツミカミ』と名付けたのは俺じゃない。

 めっちゃ瞳を輝かせたターニャさんが「こういうのはどうでしょう!?」と提案してきたのを、マスター・ハラルドとヤン老師が曰く言い難い表情で俺に丸投げした結果、「い、いいんじゃないでしょうか?」となった末に確定したものだ。


 ターニャさん、あっちだったら間違いなく「たまにいるクッソ美人な厨二系オタク」になっていたと思われる。

 コスプレも本気でやるタイプの。


 というかそういう語彙ってどこで身につけるんだろうな。


 もうすでに大部分を理解しているこの世界の歴史とは別に、また今度勉強してみるべきだろう。


 まあまずは『大海嘯』を処理することだ。


 この世界にとっては僅か5日、俺の体感時間では1を費やしてここまでの強さに至ったのだ、その圧倒的戦闘力をとくとご覧あそばせ、矛盾と欺瞞に満ちたこの異世界め。


 俺の成長レベル・アップに伴って『従魔』としても精悍に――なんか毛皮の下がムキっとなったクロが、現在ヴァルタイ丘陵に湧出ポップしているすべての魔物モンスターを掌握完了した。


 その数、じつに1万とんで879体。


 そのすべてを『禁呪ノ壱:星墜メテオ』の攻撃対象として魔法発動開始。


 大魔法特有の長めの詠唱時間キャスト・タイムは、育成レベリングの過程で解放された補助職サポート・ジョブに設定している『赤魔導士』の各種能力によってかなり低減されている。


 だがそれでもかなり長い。


 ターニャさんに頼んだら、それっぽい『呪文』を考えてくれそうだが、聞く者もいない今回は詠唱省略ということでいいだろう。

 俺も初期のヴァ〇・ディールでは魔法に合わせた詠唱マクロを組んでいた口である、そういう設定を組み上げるのは吝かではないのだ。


 ともかく魔法演出エフェクトとして俺の躰を中心にして巨大な魔導光による謎の古代文字で描かれた立体積層魔法陣が幾重にも展開され、それぞれが別の方向に回転をしながら拡大してゆき、ヴァルタイ丘陵全域を包み込んだ時点で一旦消滅する。


 その後広大なヴァルタイ丘陵全域の地表に浮かび上がった魔方陣から膨大な魔力が吹きあがり、あいにくの曇天に覆われた空へと突き抜ける。


 このあたりで振動が発生開始。


 迷宮ダンジョン最奥で初めて使ったときは相当に俺もビビった振動は徐々に大きくなり、このあたり一帯に発生した地震の如く大地を震わせる。


 これは空から巨大質量が墜ちてきているために起こる、共振のようなものだ。


 魔物モンスターの本能で、自分たちが今なにか強力な攻撃に晒されつつあることを察して、牙鼠から属性竜に至るまで、あらゆる個体が固有の咆哮を発し始めている。


 だがもう遅い。

 星はもうそこまで墜ちてきている。

 

 分厚く空を覆った雲が一瞬の螺旋を描いて、初めからそこにはなかったかのように俺の視界の端、地平線の彼方まで消し飛ばされる。


 魔法によって天空から墜ち来る星が、そう成さしめたのだ。




 え?


 いやデカくない?


 迷宮ダンジョンで見たやつとは比べ物にならないほどに、デカすぎない?




 10,879体の魔物モンスターの群れには収まらず、ヴァルタイ丘陵そのものを呑み込むほどの巨大な星が、ものすごい速度で空に浮かぶ俺の眼前を墜ちてゆく。


 着弾。


 広大な空間に表示されていた万を超える魔物たちのH.P表示が一瞬ですべて消し飛び、着弾した星が巻き起こす爆発が今度は天頂方向へ向かって突き抜ける。


 その被害がヴァルタイ丘陵以外へ及ばないのは、最初に展開された魔方陣がそれを防いでいるからだ。


 ああなるほど、術者がその効果範囲にいる場合は敵のみを消し飛ばすが、そうじゃない場合はその場も容赦なく消し飛ばすのね……


 あとに残ったのは元ヴァルタイ丘陵であった巨大な穴。

 それ自体が自然系の迷宮の如く、その底を俺の視力を以てしても確認することはできない。




 ……ま、まあ『大海嘯』を未然に防ぐことはできた。

 地形を変えるのなんて、プレイヤーとしては夢のひとつだし良しとするべきか。


 とはいえやはり楽しかったからって、俺の体感時間で一年以上も育成レベリングに費やしたのはやりすぎだったか……

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