第048話 大海嘯
地上の各所『
さすがに即時帰還を決定し、すでに今は冒険者ギルドへと戻ってきている。
というか
責任者というものは常に最悪
運よくそうでなかった場合は「よかったよかった」で済む。
その前提であらゆるリソースを効率的に振り分けられてこそ、責任者はそれにふさわしい権限と対価を与えられるのだ。
その上で俺の実験に付き合ってくれていたのだと考えれば、なかなかに剛毅ではある。
いや確認されている異変がレベルを上げて物理で殴ればどうにかなる
だが残念ながら、どうもそういう感じではない。
そして
当たり前のようにターニャさんの膝の上にのっているクロはどうかと思うが、俺がこの世界で出会ったすべての女性に大人気だな、うちの従魔殿は。
「攻略対象
「間違いないな!?」
「はい、派遣パーティーすべての報告を確認済みです。書類は本日中に提出できます!」
「観察対象
「管理№04と管理№09についてはB
対策室として開放されているらしい1階の広大な会議室は、報告へと戻った冒険者たちやそれを取りまとめ、張り出されている巨大な迷宮都市周辺の地図へ反映させるギルド職員たちでごった返している。
できるだけ多くの人間が情報を共有できるようにするためか、やり取りの声も怒鳴り声のように大きいものになっている。
だが活気があるというよりは、誰もが殺気立っていると言った方がしっくりくるだろう。
誰もがみな真剣極まりなく、昨日の大型S
「……あの、ターニャさん?」
「なんでしょう?」
よって
それにこの冒険者ギルドに満ちている危機感から察するに、一週間ほど狩るべき
報告の内容を聞いているだけでも狩場ではない
今日は少々ハイペースでマスター・ハラルドとヤン老師が狩っておられたにせよ、1500名前後と訊いているギルド所属の冒険者たちが狩るのに困ることはないだろう。
つまりはそれ以外の、この異変から連なって発生すると看做されている
「
「えー……っとですね……」
問いかけた俺に対するターニャさんの最初の「えー」は、間違いなく「知らないのか雷〇!?」といった呆れの要素を含んだものだ。
だが俺の正体をある程度は理解できているターニャさんは、気遣いのもとにそれをのみ込んでくれたというわけである。
それが
気遣いをされているという事実こそが重要なのだ。
そしてターニャさんが丁寧に説明してくれた内容をまとめると以下のとおりとなる。
世界にいくつも存在している『迷宮都市』では数十年に一度、今回のように周辺の
その現象は『凪』と呼ばれ、それ自体にはさほど大きな問題があるわけではない。
だが『凪』が確認された後、必ず『大海嘯』と呼ばれる
まさに津波の如く押し寄せる
呑み込み、時に
それは神話や伝説ではない。
実際に『
『冒険者ギルド』や『聖教会』の全面的な協力もあって生き延びた迷宮都市もある一方、『大海嘯』に呑み込まれてそこにあった
なんとか生き延びた迷宮都市であっても、その被害がとんでもない規模となるのは想像に難くない。
そしてここ、迷宮都市ヴァグラムは百数十年前に一度、『大海嘯』を経験して生き延びたという歴史が存在している。
生き延びたればこそ、その際につけられた傷痕の生々しさはただの記録として知っている者たちとは比べ物になるまい。
だからこその、この切羽詰まった空気なのだ。
「――というわけなのです」
あかん。
原因は間違いなく俺だし、『凪』からの『大海嘯』という流れも、プレイヤーである俺からすれば、よくあるトリガー判定からの特殊イベント発生ということで説明がつく。
要はプレイヤーの強さに応じた、経験値や入手アイテムという観点から見れば「おいしい」イベントのひとつだ。
大量の
ついでに巻き込まれる村落や城塞都市を救い、わかりやすく英雄として祭り上げられる。
救いきれなかった者たちは、哀しいスパイスとしてイベントに色を添えるというわけだ。
ゲームであればそれでよかろうが、現実となれば冗談ではすまない。
いやゲームであっても仲間になるN.P.Cの取捨選択などという、わりと容赦ない要素が内包されているイベントの場合もある。
それがプレイヤー不在で発生すれば、そりゃ大厄災にもなろうというものである。
逆にプレイヤー不在で『大海嘯』を凌ぎきっている事例があるということの方が、実は驚くべきことだとすら言える。
だが『大海嘯』の規模が、一定期間で一定範囲の
一か所の
となれば今回の『大海嘯』は、未曽有の規模となる可能性が高い。
なにしろ俺は半径百数十㎞圏内に及ぶあらゆる
なまじ便利な
冒険者ギルドが把握している
もしもそうであれば、『
なまじ救援が間に合ってしまった方が、徒に犠牲を拡大する可能性の方がずっと高い。
ただしそれは俺がいなければ、だ。
いや俺がいなければそもそも発生していないとか、とういうのは今は置いておく。
とにかく俺がいるからには、そんな大厄災にはさせない。
俺のせいで迷宮都市一つと周辺の村落すべてが壊滅致しましたとか、そんな最悪の展開で異世界生活をスタートさせるつもりはないのだ。
どこぞのゲームの実質7歳のように
「誰も教えてくれなかっただろっ! 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!」
とか叫ぶハメになることなど、なんとしてでも御免被りたい。
「……『凪』から『大海嘯』までのおおよその期間はわかりますか?」
「
間違いないな。
『凪』はその流れの過程で必然的に発生せざるを得ない空白期間に過ぎない。
だが現実となっているこの世界では、その期間にできることも数多くあるだろう。
なによりも二つの
またしても自分の考えなしから大規模イベントを発生させてしまったことには忸怩たる思いもあるが、発生するのであれば完璧な結末に導いて見せる所存である。
犠牲者なんか、ただの一人も出さずに収めてくれる。
「ちょっと着替えてきていいですか?」
そしてそうとなれば、最大限に有効活用するべきだ。
ただの『
単騎で伝説の大厄災である『大海嘯』、それも歴代最大の規模のそれを凌ぐという『大英雄』の誕生に利用させてもらうとしよう。
良かった、昨日のうちに『
「あ、はい。昨日の部屋をお使いください」
「マスター・ハラルドとヤン老師には、俺が着替えてくることをお伝え願えますか?」
「承知しました」
「ターニャさんはそのあと部屋へ来てもらっていいですか?」
「え!? あ、えっと……はぃ」
いや、なにを動揺されてるんですか?
赤面するとか止めてください。
この状況下じゃなくても、
危険を冒せばそれでいいってものじゃないと思うのですが。
そういうシチュエーションをやたらと好む層がいることは知識としては知っていますが、まさかターニャさんそうじゃないですよね?
――もしもそうなら、高貴な血の闇が深すぎて怖すぎる。
「『
冗談はさておき、ターニャさんにはこのイベントにおける、ある意味においては『主役』を張ってもらう。
「それは……」
だからこそ俺のまたしてもの
今回の『大海嘯』は、確かに俺のやらかしだ。
だが勇者無きこの世界において、正確に記録に残されるくらい直近に『大海嘯』が起こっているという事実。
つまりそれは、
そしてその存在の意図するところは、間違いなく迷宮都市の崩壊、つまり人の弱体化だ。
実際にいくつかは、それに成功もしている。
だからそれを、ここで止める。
いろんな迷宮都市を攻略して回るのは楽しそうだし、これ以上減らされるのは勘弁願いたいからな。
最悪の場合、数百年の
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