第046話 プレイヤー・パーティー

 俺の意識が「パーティー」に向いた瞬間、案の定視界の拡張現実A.R表示枠がパーティーに関するものに切り替わり、視界の中央に映し出される。


 クロも俺と一緒に『時間停止』発動中に充分休養を取れているから、元気いっぱいなのだろう。


 しかし本当にクロがこの手の制御を一手に引き受けてくれているのであれば、世界のことわりさえも超越する力を持った『くなどからの客人まれびと』として捉えた場合、『従魔』とか言ってはいてもはクロの方みたいなものだな。

 あくまでもクロは制御装置であって、力の本質は俺の中にあるのだとしても。


 ある意味わかりやすく明示してくれているといっても過言ではないのだ。

 クロ、もしくはクロの本当の飼い主がその気になれば、今俺に与えられている力を自由にすることができるということを。

 籠護女かごめ――【39】との情報連結リンクの一件から見ても、それはまず間違いない。


 まあもとより一方的に与えられている力であることに変わりはないし、今そんなことを気に病んでいてもなんの意味もないことくらいは俺もわかっている。

 だが、一応はそういう認識を持っておくことも必要だろう。


 今はとにかく俺が組むことになる『プレイヤー・パーティー』の仕様を確認することが最優先だ。


 ……現時点でもパーティー枠が3つもあるな。


 1枠の上限は6人。


 1stパーティーは当然一番上に俺、『真岐まき 匡臣まさおみ』が登録されている。


 1stのパーティー・リーダー兼レイド・リーダー。

 どうやれこれは俺固定で動かせないようである。


 もしもリーダー・ボーナスなんかがあるのであれば、2ndパーティー、3rdパーティーのリーダーは定期的にローテーションしなければならないだろうし、万が一リーダーが固定されるのであればかなり慎重に選択する必要が出てくる。


 俺の他の情報として、職種ジョブ、レベル、H.P及びM.Pの現状値/最大値が名前の隣に並んで表示されている。

 一覧から選択して『詳細』を表示させれば、現状習得している武技、魔法、スキルや次のレベルまでに必要な経験値、他職のレベルや各種ステータス値や状態なども確認できるし、装備確認欄へも移行できる。


 便利だ。


 究極の仮想現実V.Rゲームというものは、おそらくこんな感じになるのだろうなって感じである。

 今俺が置かれている状況こそが、まさにだという可能性も否定できないわけだが。


 とりあえずこれなら今からターニャさん、マスター・ハラルド、ヤン老師とパーティーを組んだ場合、レベルやH.Pがのかどうかを一目で確認できる。

 それに『詳細』へ入ればそれぞれがどの程度の武技や魔法、スキルを身につけていて、今の装備がどんなレベルなのかも一目瞭然となるのもありがたい。


 当然の事ながら2ndパーティー、3rdパーティーは現状完全に空欄。

 最初からまだ会ったこともないN.P.Cたちがパーティー・メンバーとして登録されていたりしても面白いが、そんなことは流石になかった。


 なんか「プレイヤー・モード」なる怪しい表示もあるが、そこは後回しにする。

 なんとなく予測はつくし、予想通りだとしたらそれはそれでかなり楽しめそうなモードではあるのだが。


「さて実験をする前にいくつか確認しておきたいのですが」


「はい」


 しばらく虚空を睨んでいたようにしか見えまい俺が発した言葉に、ターニャさんが代表して返事をしてくれる。


 【39】――彼女らにとっての『籠護女かごめ様』によるモノリス表示になれているせいか、俺にしか見えない映像があるのだろうということも受け入れやすいらしい。


「冒険者たちのパーティー単位は、5、6人が前提であっていますか?」


「ごく少数ですが3、4人で構成されているパーティーもございます。一組だけ二人組もありますな。上限については6人と冒険者ギルドで定めております。少人数の場合は冒険者ギルドからの許可制ということになっておりますな」


「なるほど」


 マスター・ハラルドが答えてくれたその内容は、ほぼ俺の予想どおりのものだ。


 成長レベル・アップができない現状であっても少人数パーティーが許可されているのは少々意外だったが、なぜか定められている6名という上限値がプレイヤー・パーティーの上限値と一致しているのは偶然なんかではあるまい。


 現代のこの世界の冒険者たちにはシステム的な上限人数だとか、それによって変化する経験値効率などが機能しているわけではないだろう。

 支援バフ魔法などが適用される基準とかにもなるはずだが、そもそも成長レベル・アップができていない現状では、支援魔法などというものが運用されているかどうかすら疑わしい。


 ヤン老師の『黒魔導士』とても相当な希少職レア・ジョブっぽいし、現状「魔法使い」という存在そのものが、伝説に片足を突っ込んでいるような存在なのかもしれない。


 となれば迷宮ダンジョンで問題なく戦闘展開できる上限人数で行動した方がより安全なはずだが、冒険者ギルドは上限を「6名」と定めているという。


 多分その理由を、本当の意味で理解できている者は現代にはいないはずだ。


 つまりおそらくは『勇者様が健在だった時代』を踏襲しているのだと思われる。

 それは言い換えれば、当時は「システム的なパーティー」が機能していたのだということを意味する。

 

 本当に機能していたのはいわゆる『勇者パーティー』のみだった可能性が高いが、それを基準として定まった規律ルールなのだと推測される。


「では先刻さっき言った実験なのですが、ターニャさん」


「は、はい!」


「……と、マスター・ハラルド、ヤン老師には一度、俺のパーティーへ入ってもらってかまいませんか?」


 普通に三人を続けて呼ぼうと思っていたのだが、なぜかターニャさんが呼ばれると同時に大きな声で返事をしてくれたので、一瞬止まってしまった。


 びっくりした俺の様子を見て、ターニャさんが真っ赤になってしまっている。

 どうも第一印象であったクール・ビューティー像からかけ離れていく一方のターニャさんである。


 やはり王族だけあって、さん付けで気安く呼ばれることには慣れていないのだろうか。

 隠しているとはいえ、エメリア王国この国の王女殿下をさん付けで呼ぶのは少々まずかったか。


 なんかマスター・ハラルドとヤン老師も複雑そうな顔をしているしな。

 間違っても近々催されるという夜会でうっかり呼ばないように注意しなければ。

 王城殿下にのみに従う『竜殺しドラゴン・スレイヤーというのは重要だろうし。


「現在儂はパーティーを組んでおりませんし、ヤン老師も長らく迷宮ダンジョンには潜っておられないので問題はないかと。ターニャ王女殿下については……」


「構いません。すぐに登録手続きをしていただいて問題ありません」


 確かに成長レベル・アップできないのであれば、スキル値などが成長限界に至って以降に迷宮ダンジョンに潜る意味はほとんどなくなるか。

 恵まれた戦闘能力を持った人材がそれゆえに重要なポジションにつき、そのせいで前線から退しりぞくことになるのには、奇妙な矛盾を感じはするが。


 とはいえ今の迷宮ダンジョンの在り方――人が強くなるための導線ではなく、高額商品を獲得するだけの場となっている――であれば、そんなに問題はないのかもしれない。


 だがそれぞれの口ぶりから察するに、この世界で「パーティーを組む」というのは軽々しくすることではなさそうな雰囲気である。

 ターニャさんの様子からすれば、王族に対して気楽に「俺のパーティーに入ってもらっていいですか?」などというのは、本来不敬に当たるのかもしれない。


 物を知らないことは申し訳ないが、こちらには王族はもちろん、歴戦の古兵ふるつわものを軽んじようなどという底意があるわけではないので、なにとぞご容赦願いたいところだ。


 それに御三方はどうやら「パーティーに入る」ということを、登録や手続きのたぐいだと捉えておられるが、そうではない。


「ああ、そういうのではなくてですね……」


 とはいえシステム的なパーティーの概念など理解できるはずもないので、先刻さっきの俺の言葉からすればそう捉えるのが普通なのか。


「もしかしたら劇的な変化があるかもしれません。心の準備をお願いします」


 説明するのも難しいし、実際にやってみせるのが一番はやい。

 警告だけはしておいて、ターニャさん、マスター・ハラルド、ヤン老師を俺と同じ1stパーティーに誘い、組み入れる。


 フレンド・リストの時も思ったが、プレイヤーはN.P.Cの意志を完全に無視できるというのは便利ではあるが、恐ろしくもあるな。


 パーティー・メンバーによる同士討ちフレンドリー・ファイアをシステムで制限されているのであれば、パーティーに組み込める相手であればどんな力を持っていても強制的に無力化することも可能になる。


 今後俺がとんでもない規模の広域殲滅系の武技や魔法を習得したとしてもパーティー・メンバーを気にすることなく使えるのだと考えれば、同士討ちフレンドリー・ファイアを制限している可能性はけっこう高いと思うんだよな。

 そうじゃなければ『星墜メテオ』系なんて恐ろしくて使えない。


「こ、これは!?」


「まさに……伝説通りか!!!」


「これって……私たちが『勇者の仲間プレイヤー・パーティー』になったってことですか⁉」


「おそらくは……」


 あっさりとパーティー・メンバーにすることができた結果、やはりというかほぼ予測通りの現象がターニャさん、マスター・ハラルド、ヤン老師の三人に発生している。


 レベルとH.Pの付与である。


 表示枠に映し出されているハーティー・リストと俺の目に映る三人の頭上には、今まではなかったレベルとH.Pの数値が表示されている。

 

 パーティー加入時の効果エフェクトはなかなかに派手であり、かなり強い光が数秒間三人の躰から吹き上がっていたので、自分たちに変化があったことを理解できるのも当然だろう。


 三人三様に今のステータスのまま「レベル1」となった以外はH.Pが付与されただけなので、派手な効果エフェクトのわりにはなにかが強化されたというわけではない。

 だが成長曲線だとか成長限界レベル・キャップだとかはあるにせよ、初期ステータス値がそのまま「レベル1」になるということは、恵まれた数値を持つ重要N.P.Cをパーティー・メンバーにする方が有利だと考えていいだろう。


 なぜ光が二回発生したのかと言えば、パーティーから抜けた際にどうなるのかを確認したくて『除名』→『再加入』を密かに行ったからである。


 ちなみにパーティーから抜ければレベルとH.Pは失われた。

 成長レベル・アップした後であればどうなるかはこの後検証する必要はあるだろうが、プレイヤーに準ずる力を獲得、行使できるのは、プレイヤー・パーティーの一員である間限定とみてまず間違いはあるまい。

  

 マスター・ハラルドは純粋に驚いている感じだが、ヤン老師とターニャさんのやり取りから察するに『勇者の仲間プレイヤー・パーティー』がとんでもない能力を得ることができるという伝承をある程度は知っていたのは間違いない。


 パーティー云々の話では主としてマスター・ハラルドが受け答えしてくれていて、ターニャさんとヤン老師が基本的に黙っていたのはこれあるを期待していたためなのかもしれないな。


 とにかくこれで俺は自身が強くなるだけではなく、少なくとも今の時点でも17名の超人を生み出すことと、その力を与えることも奪うことも自由にできる能力も持っているということが明確になったわけだ。


 これは人を――世界を『支配』するという視点で見た場合、自身の圧倒的強さに匹敵、下手をすれば凌ぎかねないほどの強烈な能力だともいえる。


 人はおろか、魔物モンスターですら成長レベル・アップの果てには歯牙にもかけなくなるほどの力を得ることができる立場に、憧れない者などほとんどおるまい。

 しかもその力は俺の気分次第でいつでも奪うことも、再び与えることもできるのだ。

 そしてプレイヤー・パーティーの一員である限り、見方によっては俺の力さえ無効化できる立場でもある。


 選ばれた17名や一度は選ばれて外された者たちにとって、俺は大げさでもなんでもなく神にも等しい存在となる。


「ああ、伝説の『勇者様』も同じことができたってわけですね」


「はい!」


 興奮した様子で答えてくれるターニャさんと、実はそれ以上に興奮を隠しきれていないヤン老師とマスター・ハラルドが微笑ましい。




 だが一つ、注意しなければならないことに俺は思い至っている。


 この世界から数百年前に姿を消してしまっている『勇者様』だが、その『仲間』であった者たちもすべてそうであったとは限らないのだ。


 そしてプレイヤーに準ずる存在となった者たちは、ゲーム世界における年月がどれほど経過しようとも年老いることもなく、よって寿命を全うして死ぬこともなくなっている可能性も否定しきれない。


 プレイヤーとはそういうもの。


 シナリオ・イベントが進んで結末エンディングに至らない限り、戦闘での死すら超越して存在し続ける、ある意味『魔王』をも凌ぐ

 本来であればすべてのN.P.Cたちもそうであったものが、現実化したことによってそれが適用されるのが『勇者の仲間プレイヤー・パーティー』限定となっている可能性は確かに存在するのだ。

 

 つまり今この世界で俺のパーティー・メンバー以外でレベルとH.Pを持った存在がいた場合、それは即ちこの世界で数百年の時を経た『勇者の仲間プレイヤー・パーティー』の一員メンバーだということになる。


 もしも成長限界レベル・キャップが無いのだとすれば、そのレベルは今の俺を遥かに凌駕している可能性が高い。

 数百年の長きに渡り、育成レベリングを続けてきた狂気の存在。

 それが多くの人には知られぬままに、俺の敵として存在しているかもしれないのだ。




 わりとのんびり構えている場合ではないのかもしれないな、これは。

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