第032話 舞台裏
さて。
うまくいってくれていればいいけれど、どうかな。
正直なところちょっとこう、
まず今の俺の格好からして厨二が極まっている。
全身黒ずくめ。
上等な生地と仕立てであるにも拘らず、わざと裾がぼろぼろに見えるように仕上げられている
無駄に拘束具めいた意匠が各所に施された革をふんだんに使用された服本体も、まさに
服のみだったら片刃の
極めつけは顔を隠すための仮面が「漆黒の地に真紅の目の文様七つ」って、黙示録の子羊かな?
というかこれも元ネタというよりは、明らかに「
……勇者様、よっぽど好きだったんだな。
とはいえ今俺が身につけているこれらは、過去勇者様が身につけていた伝説の装備だとかいうわけではない。
王族であるターニャさんの私物であり、本人から教えられたとおりヴァグラム総督府の彼女の私室になぜだかあったモノをお借りした結果である。
「勇者様の伝説に多大な影響を受けました」とは赤面しつつ仰られていた本人の弁だが、「変装ができる衣装を貸してもらえるか」との俺の依頼に、ノータイムでこれを提供できるターニャさんは何者なんだいったい。
実は王族だとか、監察官だとかという意味ではなく。
……この世界にも「コスプレ」という概念は存在しているのだろうか。
まあ正直なところこういうのは嫌いじゃないから良しとする。
一度でも中二病に罹患した者は、
それにこれから派手な役どころを担う存在のコスチュームとしては、そう悪いものではない。
それこそ
出所も王女様の秘密の趣味ということであれば漏れにくいだろうし、たとえ漏れたとしても「エメリア王族所縁」となればある意味、情報拡散の手間も省けるというものだしな。
まあ格好についてはそれでいいとしても、侵入した大型S
というかやりすぎたっぽい。
包囲していたB
それでも全員が一切の遅滞なく抜刀抜剣、戦闘態勢に入っていたのは素直に凄いと思うけど。
この世界の強者を自認する者たちは、勝てないと確信できる相手に対してでも最後まで人の強者としての義務を遂行するのを当然としているということだ。
俺なら勝てない相手だと判断したら、
それは俺にまだ、己の命を棄ててまで護りたいモノがないからなのだろうか。
そうであっても欲しいものだ。
どれだけ強力な力を与えられていても最後まで一番大事なのは自分自身というのは、なんというかなにか物悲しい気がする。
命を賭することを必要以上に美化するつもりもないが、虚言ではなく「誰かのために死ねる」、「自分よりも大切存在がある」精神状態をさして『幸福』と称してもそうズレていない気もするし。
あと一瞬で仕留めたように見せるための武技を、『格闘士:Lv48』の上限値まで武技を連続発動可能にする『
敵が
いやめちゃくちゃ好みの
剣閃ならぬ拳閃による無数の
戦闘中は自身の行使する
武技発動完了と同時に『思考加速』が解除され、主観的には時間の流れが通常に戻ることによって一気にダメージを喰らわせるという感じなのだ。
そこに視覚的、聴覚的のみならず、衝撃や振動といった触覚的なものも一斉に加わるとなれば、まさに『必殺技』の行使そのものである。
アレだ、瞬獄〇を喰らわせた時のような感じだ。
とにかく気持ちいいのだ。
とはいえ今回はすでにお亡くなりになっている
バレる要素は皆無だろうが。
まあ
たった今
俺の狙い通り、正体不明の迷宮都市ヴァグラムの守護者――『
その存在は正体不明でありながらも、大前提としてこの
脅威を排除してくれる者、自分たちに利益を与えてくれる存在を、多くの人間は味方だと認識する。
そして味方だと認識した存在の力を畏れるのは、大部分の住民たちのすることではない。
それは膨大な責任と権利を持つ、支配者階級の持つ宿痾なのだ。
とにかくこれで俺の本当の力を必要とする事態が発生した場合は謎の守護者『
その事実を知る人間の数がやがて増えていくことになるのは避け得まいが、当面ゲームの序盤らしい新人冒険者暮らしを楽しむ分には問題ないだろう。
少なくともディマスさんからの連絡を待つと約束した三ヶ月程度であればなんとか持つと信じたいところだ。
ディマスさんと組んで進めようとしている
とにかくこれで俺としてはかなり動きやすくなったはずだ。
そうであってくれ。
討伐された
まずは「計画通り」とドヤ顔をしておいても問題あるまい。
……ただしこれ、ゲーム的なお約束展開だとすると
「この時の俺はまだ、この一件が後にとんでもない騒動を引き起こすことになる
っていう、俺の時間軸どこやねん! という
いやそういうのも大好物なんですけれども。
まあ冗談はさておいて。
この場所で「
とはいえけっこう腹も減ったし、なんか寝むれそうな気もする。
とりあえずは冒険者ギルドに用意してもらった部屋に戻って、食事をしてから一眠りしてみるかな。
1回目の『時間停止』が解除されてから2回目の発動までにターニャさんたちがどういう行動を取っているかにもよるが、計画では1回目の発動時と寸分たがわぬ様子で2回目の解除を待とうと思ってはいる。
それが30分過ぎても俺が
まあ向こうでも24時間以上寝続けた記憶はないから、『時間停止』発動下でも眠れるかどうかの実験は、部屋に戻ってすぐすることにしよう。
お互い気まずい状況で事の仔細を説明する羽目になるのは避けたいからな。
うっかり肩を当てたりして『時間停止』が解除された時に謎の怪我とかされても困るので、慎重に停止した冒険者や
「待て」をしたら意外と素直に従ったクロが、部屋で寂しがっているといけないから急ぐことにする。
すべてが停止している中で一人にされることは、思っていたより不安になるものだった。
今回は正体バレに繋がるのでやむを得ず別行動をとったが、これからは常にクロと一緒にいることを大前提にする所存である。
ターニャさんに相談したら、クロ用の変装衣装も用意してくれるかな?
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