第017話 フレンド登録
『
俺にとっては『はじまりの街』であり、行商人であるディノスさんとエルフのリィンが目的地としていた場所。
だがその第一印象は『
なぜならば中世
相当な時を経ているであろうにも拘らず古びたイメージを抱かせない巨大な城壁は、まさにゲームの世界ではよくある「時代設定」と「建築物等」の技術乖離そのものである。
しれっと
これは街中に関してもゲーム世界らしい、中世
本当にそうだったら、俺にとっての冒険者暮らしは思っていたものよりもずっと快適なものになるだろう。
なんかこうなってくると元より存在していたどこかの異世界に転生、転移したというよりも、俺の妄想や知識、趣味嗜好や憧れを
俺よりも先に『勇者様』がいた以上、けしてそういうわけではないのだろうけれども。
しかしなるほど、
間違いなく今この街で暮らしている人々にとっては
もしかするとこの都市が抱えているという『
今のこの世界では
だがプレイヤーとしての視点で捉えれば、地上に
ゲームであればプレイヤーがその場所を訪れるまでなぜかじっとしていてくれるものだが、現実化している以上、万が一に備えて
まあさすがに穿ち過ぎた考えだとは思っているけれど。
ちなみに俺たちが到着したのは迷宮都市ヴァグラムの城壁に12ある大門のひとつ、北を0時とした時計盤でいえば4時の位置に当たる場所の近辺だ。
「じゃ、じゃあマサオミ。慌ただしくてほんとに申し訳ねえが、俺はこのまま
引きつった表情を浮かべつつ自分で選択した馬車に満載された
まだ
ディマスさん一人分であれば水も食料もまだ充分にあるらしく、
一頭引きの馬は速くない代わりに耐久性に優れ、夜休ませればまだ充分に持つとのこと。
すまん、馬。頑張ってくれ。
もう少しゆっくりすればいいと個人的には思わなくもないが、
ディマスさんの
「はい、お気をつけて。それと
今にも御者台に駆け上がって即出発してしまいそうなディマスさんに、最初に
ぎょっとした表情をするディマスさんに、代金は売れた際でいいことを伝えてまず安心してもらう。
すでに今は俺の
ディマスさんと馬には帰路にも最低限の路銀は必要となるだろうし、俺の方は当面金貨30枚もあればまず困ることもないだろうから、今の時点でこれ以上の資金は特に必要ない。
「こいつぁ……」
「特殊な手段で
素人目にも精巧な作りの
ああなるほど。
商人という仕事柄、見たことも聞いたこともない『商品』に対する反応が大きくなるのはある意味当然なのか。
だが実際にも知識においても初見の品には、商人としての魂が反応するらしい。
もったいぶるつもりもないので、一般には知られていないが
つまり俺との繋がりさえあれば、暫定名称『魔物武器』も『魔石』も継続的に供給可能な『商品』になり得るというわけである。
「わかった。武器商人と宝石商人で信用できるやつにまずは見せてみる」
「助かります」
あるいは
そもそも馬車で長距離移動なんてした日には、もともとよろしくなかった腰に致命傷を負ってしまう可能性が高い。
――俺も昔は冒険者だったんだが、腰に振動を受けてしまってな。
「じゃ、出発するわ。首尾を報告できるのはさっきも言ったように三ヶ月くらい先になると思うが、本当にいいんだな?」
ディマスさんは何度も「俺がこのまま持ち逃げする可能性は考えねえのか?」と確認してくれていたが、俺だって無期待献身で
いや俺がディマスさんをいい人だと思ってはいるのは確かなのだが。
だがディマスさんにしてみれば、どうも商人としてまだ会ったばかりの
まあわからなくもない感情ではある。
おかげでこちらから言わなくても証文関連はこれ以上ないほどにきっちりと仕上げてくれているが、これを使って売上金の権利を主張せねばならないことにはまずならないと踏んでいる。
それはディマスさんがいい人だからではなく、商人である以上これを契機にこれから生み出されるであろう莫大な利益を捨てるなどという、バカな判断はしないだろうと思うからだ。
だからこそディマスさんも危険を承知で俺の提案に乗ったのだろうし。
それに正直、ディマスさんが目先の利益というよりも既得権益を持った巨人たちに挑むことにビビって逃げたとしても、今の俺にとってディマスさんに渡した程度の
俺にとっては巨大組織に挑む初期投資のリスクとしては充分に許容範囲内なのだ。
成功した暁に得ることが可能なリターンを想定すれば、何回掛け捨てしてもかまわない程度の投資でしかない。
大げさではなく命懸けになるディマスさんがこの賭けから降りると判断した際の、せめてもの報酬としては妥当どころか安いくらいだとさえ思っている。
「何度も言いましたけどそれは構いません。報告を聞ける日を楽しみにしています。基本的にその三ヶ月間は
要はこれもお互いが納得した
だから気にすることはないと、俺も繰り返してディマスさんに伝える。
とにもかくにも右も左もわからない異世界なのだ、三ヶ月程度であれば腰を据えて冒険者暮らしというものを体験してみるのも悪くない。
城壁の感じからすれば、『
それに明言はしなかったが、すでに俺は「なんらかの手段」というやつを確立できている。
「なんらかの手段ね……まあマサオミならホントになんとかしそうだな。ま、こっちはできる限りのことをしてみせるよ。これだけのモンを預かっちまっているわけだしな」
極短い付き合いにも拘らず、もはや俺にはなんでもありだと思っておられる様子のディマスさん言葉は、期せずして正鵠を射ている。
呆れ顔でため息をついているディマスさんの頭上には、俺の視界では『F』のマークが浮かんでいるのだ。
そして現在も視界の隅に浮かんでいる便利マップには
別枠に一覧表も表示されており、その一番目には『リィン・エフィルディス』、二番目に『ディマス・ラッカード』と並んでいる状態だ。
つまりリィンとディマスさんは俺から一方的にフレンド認定され、ある程度の居場所と状態を離れていても把握可能になっているとみてまず間違いない。
さっきからリィンにじゃれつきながらも、従魔のクロさんは抜かりない仕事をしてくれているようだ。
プレイヤー同士であればフレンド申請とその承認のプロセスを経る必要があるのが当然なのだが、システムにとって
外すこともすぐにできたので、そういうことなのだろう。
もう少し距離が離れてから確認してみないとなんとも言えないが、H.PやM.Pの表示はなくとも状況によってネーム・カラーが
ログアウトなどできようはずもない
さっきまではディマスさん自身の才覚にまかせるしかないと思っていたが、遠く離れた場所でも危機的状況に陥った際にそれが察知できるのであれば、俺ならそこに介入することも可能だ。
ディマスさんのネーム・カラーが
しかしとことんゲーム風だな、異世界用俺の各種能力は。
「無理はしないでくださいよ」
「それこそ無理言うな」
おそらくは介入できるとはいえ、できるだけ安全第一でと伝えたら苦笑いで即答された。
まあそれもそうか。
無理を通して道理を引っ込めさせるくらいはしないと、俺とディマスさんが目論んでいることなど到底実現不可能なのだから。
幸い本当にやばくなったら助けに行けそうなので、思うがままにやってみてください。
先の会話を最後に、馬を促してディマスさんは馬車を動かし始める。
ゆっくりと遠くなっていく馬車を、リィンとクロと並んでしばらく手を振りながら見送った。
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