第014話 オルタナティヴ・アソシエーション ②
「ってもまずは、マサオミが斃したっていう13体の……『影狼』だっけか? を回収せにゃならんな。まあそいつらはなんとか馬車に積めるとして、『
俺のそんな考えとは関係なく、ディマスさんは狩った
言われてみれば確かに普通はそうやって運ぶ必要があるはずで、不可視の空間にあらゆるものを格納できるのはゲームにおけるプレイヤーの特権でしかない。
当たり前のようにそれが可能な俺が異質なのだ。
ディマスさんがそんな心配をするということは、この世界の冒険者たちも普通はそんな特殊能力を持ち合わせてなどいないのだろう。
つまり
なんとなく後者な気がするな。
しかし倒した
まあ少なくとも今の俺が気にする必要のない問題ではあるのだが。
「ああ、それは大丈夫です。自分で運べますから」
というかディマスさん、馬一頭で『影狼王』の巨躯を引くのは絶対に無理だし、俺とリィンが13体もの『影狼』の亡骸と一緒に荷台に詰められて
それが普通だと言われてしまえばそれまでなのだが。
「……は?」
「!? それって……」
俺のその返事に対して、ディマスさんは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をし、興味なさそうなクロを構いながらずっと黙って話を聞いていたリィンは、わかり易い驚愕の表情を浮かべている。
それの意味するところはおそらく、ディマスさんは俺がなにを言っているかまったく理解できず、リィンにはどうやらそういう能力に心当たりがあるということだ。
伊達にエルフとして長く生きているというわけではないということか。
しかしリィンはぱっと見10代前半にしか見えないけど、実際はいくつなんだかな。
ともかく。
「――こんなふうに」
視線を横たわった『影狼王』に向け、とくに必要はないのだが「俺がやった」という説得力を増すために手も伸ばす。
そうして俺が「格納」と意識した瞬間、『影狼王』の巨躯は忽然と消滅し、俺の視界に浮かぶ表示枠のひとつ、
もはや自分の身体を動かすかのように自然に使いこなせているが、この能力ひとつとってもとんでもない神技だよなあ、実際。
たぶん無理だろうけど、生きている相手にも同じことをできるのであれば、それだけでもはや無敵とすら言える。
異世界まで来てなんでそんなことをせにゃならんのかというのを置くのであれば、一切の証拠を残さずに大量殺人をやってのけることも可能なわけだし。
「で、こう」
今度はディマスさんの目の前に、今収納した『影狼王』に13体の『影狼』も加えた上で
「こいつぁ……」
「これって……
整然と並んだ高額商品に対して、ディマスさんはわかりやすく仰天してくれているが、リィンが茫然となりながらも、俺にとってめちゃくちゃ思わせぶりな台詞を呟いている。
つまりこの世界には遠い過去――人では失伝し、長寿種であるエルフであれば伝承されるほどの――に俺と同等、もしくはそれ以上の能力を持った『勇者様』とやらがおられたというわけだ。
いや今はそれは後回し、まずはディマスさんとの
「これだけではなく、俺は他にも
24時間の『時間停止』効果中に乱獲した、半径数百㎞の
ディマスさんでも見慣れているであろう牙鼠や角兎に始まり、見たことくらいはあるのかもしれない獣ベースの
話にくらいは聞いたことがあるかもしれない
極めつけは『影狼王』よりも高レベルであり、その体躯もひときわ巨大な
もはやここまでくれば、ディマスさんにしてみれば伝説や神話の域の
それ以前に巨大な
しかしレベル帯でいえば50以下とはいえ、人が暮らす場所から数百㎞範囲にこれだけの
基本的に
ゲームであれば疑問に思うこともないその特性だが、圧倒的強者がひとところに止まるというのはやはり奇異に感じる。
あるいは何者か――それこそ
それにその
まさに先刻の『影狼』と『影狼王』の襲来のように。
あれがゲームでいうところの「イベント」として発生しているのであれば、この世界にとっての平穏とは魔王や
つまりは俺こそがこれから起こるすべての厄災の原因と看做すこともできるわけだ。
その可能性も鑑みて、やはり俺の「思い付き」は実行しておくべきだろう。
力を以って
そんな
そのためには「行商人」であるディマスさんの協力を仰ぐのが一番早い。
「な、え? あ……」
「……」
当然馬車に載りきるはずもない、あたりを埋め尽くした高レベル
リィンがかまってくれなくなったのが不満なのか、クロは俺の足元に戻ってきて何やらゴロゴロ鳴いているがスルー。
「それでですね」
絶句しているディマスさんに対して、俺はとって付けたような胡散臭い笑顔を向ける。
今の俺は整った顔になっているだけに、より一層
まあ実際、悪魔の囁きといっても過言ではない「ご提案」を俺はこれからするのだから、似合いと言えば似合いの表情なのではあろうが。
「俺たちを
これは破格の条件で莫大な利益を相手に与える話だ。
ただし利益だけではない。
その莫大な
その意味を正しく把握できるがゆえに、驚愕していた一般人でしかなかったディマスさんの表情が、やり手の商人のそれへと瞬時で変貌する。
「つまり俺ぁその
「――できますか?」
瞬時かつ正確に俺の言わんとすることを理解してくれたディマスさんに対して、俺は我が意を得たりとばかりの笑みを浮かべながら最終確認を取る。
強制するつもりはないのだ。
これは
下手を打って早期に発覚すれば、人の命が莫大な利益の前ではどれだけ軽いのかを思い知ることになるのはまず間違いない。
自衛手段がある俺とは違い、今のところ一行商人でしかないディマスさんにとっては大げさでもなんでもなく命を懸けた『賭け』となる。
集める『仲間』を一人間違えただけで、即アウトになるほどの。
「はっ。一見すると人にしか見えねぇが、もしかしてマサオミもエルフのような長命種なのか?」
「とんでもない。見た目通りの
一世一代の賭けに
まさか本気ではないだろうが、中の人の俺としてはドキッとする発言でもある。
エルフ程ではないにせよ、見た目どおりの年齢出ないこともまた確かなのだから。
演技などしたことなどないが、せいぜい「なにを言っているのですか?」という表情をつくって流しておく。
「――やらせてもらおう」
表情を真面目なものに変え、ディマスさんが右手を差し出してくる。
どうやらこの世界においても、書面だなんだのに頼らない契約の際には握手を以って合意を表明するらしい。
個人的には承諾の言葉は「できらぁ!」であって欲しかった気もするが、馬鹿なことを言っている場合でもないので俺も右手を差し出してしっかりと握手を交わす。
これでただ戦闘を繰り返して強くなるだけではない、別の異世界の楽しみ方もできたというわけだ。
少々危険度は高いとはいえ。
「しかしマジでいいのか? 俺の調達資金なんざ、金貨30枚キッカリしかねえぞ?」
「そこはかまいませんよ。というか金貨30枚でなにができるのかを教えてもらってもいいですか?」
「そこからかよ! 締まらねえなあ……」
「すみません」
あたり一面に並べられた
金貨30枚の正確な価値はまだわからないが、少なくとも行商人が国境を越えるという手間暇をかけてまで利益を見込めるだけの原資なのだ。
当面の俺の異世界ライフを贅沢なものにしてくれる程度の価値はあるだろう。
そうであってくれ。
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