第013話 オルタナティヴ・アソシエーション ①
とにかく今俺たちが――つまりは行商人であるディマスさんが目指している『
だがたった一つだけとはいえ、それでも『
「持たざる側」であるヴァリス都市連盟でも当然高い需要を持つ
それでもこの大きな馬車いっぱいに『
せいぜい
それだけ仕入れればディマスさんの買い付け資金はほぼ底をつき、空いたスペースにはできるだけ利益率の良い通常商品を仕入れられるだけ仕入れて帰途に着くのが関の山。
『影狼王』はもちろん、『影狼』であっても地上の
そもそも
それこそ国や冒険者ギルドに太いパイプを持つような大商人でもなければ、相当な高値がつくということを知っていても、ではその値はいくらが妥当なのかなど計る術すらないのが実情なのだ。
と同時に冒険者の方でも、自分が狩って得た
理由としてはまず第一に、冒険者ギルドが迷宮都市で贅沢な暮らしをするには困らない程度の価格での買い取りを冒険者に対して保証していることが上げられる。
しかもそれは常時買い取りであり、通常商人のように需給に左右されない。
「在庫が溢れているから、今日は『影狼』は買い取れねえなあ」ということは起こらないということだ。
当然需給バランスによってある程度の価格の変動はあるとはいえ、狩った
それに正式に禁じられているわけではないとはいえ、自分が属する巨大組織の頭越しに重要商品をやり取りすることが歓迎されないことくらい、誰にだって理解できる。
かてて加えて戦う能力には長けていても、海千山千の商人と駆け引きできる冒険者など皆無に等しい。
トラブルがあった際に自分で解決できる自信などあるはずもない以上、冒険者ギルドというそこを信用できなければそもそも冒険者などやっていられないという相手に売るのが一番安全、安定となるのは当然だ。
なによりも『冒険者』には
それは『冒険者ギルド』が発行する
もちろん
それだけではなく、同じ
これは別に
要は冒険者ギルドが「中抜き」する分を、高
冒険者ギルドにしてみれば利益は減るがなくなるわけではなく、高
つまり中長期的に判断した場合、冒険者ギルドは損をするどころか得難い利益を得ていることになる。
高
よってありとあらゆる面で優遇されるのは当然の事となる。
報酬はもとより武装の調達、維持の補助にはじまり、所属する冒険者ギルドが存在する
酒や食事、宿など、娼館すらも含んだサービス施設利用に際しての特権や、怪我を負った際に『教会』で受ける治療や保証もまた、一般人とは比べるべくもないほどに最優先されている。
それだけではなく、冒険者の力――
その額たるや少々贅沢な暮らしをしても親子三人が食べていくには充分なものであり、極端な話、冒険者である方の親が認知さえしてしまえば母子家庭、父子家庭であっても裕福に暮らしていけるほどのモノだ。
また貴族などが己の家の血に『
もっともそうなるのは冒険者として名を上げ、国に『対
ありていに言えば男女問わず、冒険者とはクソほどモテるのだ。
そしてそれは当然の事として、冒険者の
贅沢な暮らしを満喫しつつ
それはこの世界において、命をかけるのに充分な対価たり得る。
つまり冒険者にとって最優先すべきはまずは生き残ることと、己の
その
となれば、その状況下で小銭を稼ぐために直接
もしもいたとしても、そうとわからないように上手に潰されてはいるのだろうけれど。
いかな冒険者とはいえ完成した組織、しかも自分と同等の戦闘力を有した者の多くが属するそれに、個人で抗することなどできないのは当然の事だ。
そしてよほどのバカでなければ、冒険者だけではなく冒険者ギルドを出し抜こうする商人たちも、そんなことにはすぐに気が付く。
駆け出しの
懲りなかった者がどうなるかなど、聞くまでもあるまい。
真っ当にやっていればこの世界で成り上がるための導線がきちんと整えられている現状、
好きこのんで危ない橋を渡りたがる者などまずいないというわけである。
人の集合体――社会というものはそこに
「はー、なるほど……勉強になりました」
「……マジで何にも知らねぇんだな、マサオミは」
部分的にあっちこっち脱線しながらも、かなり詳しく説明してくれたディマスさんに対して本気で感謝の念を抱く。
本気であきれたような顔をされるが、少し前までこの世界に存在すらしていなかった俺としてみれば知らなくても当然の事ばかりである。
やり込んでいたゲーム世界だというならばいざ知らず、無茶言うなと言いたくもなる。
知ってた方が怖いわ。
いや、ゲーム世界だったとしても、そういう背景を理解できているとは言えないか。
しかし改めて聞いてみると「なるほどそういうカラクリか」と得心が行く部分も多い。
ディマスさんが説明してくれた「異世界の社会」がどうやって成り立っているのかというような話とはまた別に、もっと根源的な「この世界の
ある程度であればリィンから学ぶこともできそうだが。
「ま、俺の拙い説明でもある程度理解できたってんなら、行商人に
そう言ってため息をつくディマスさん。
なるほど、今の時点で俺から
いい人である。
ただそれだけでもなく、そうするだけの価値が俺にあるとみてくれていることも確かだろう。
そうした方が得だと、ディマスさんなりの価値観で判断しているのだ。
「理解できたと思います。ざっくりとは、ですけど……」
「ま、食料代を払わなきゃどうしても尻の座りが悪いってんなら、
そう言ってからからと笑う。
たしかに俺が狩ったと自己申告している13体の『影狼』と、今もまだ目の前に倒れ伏している『影狼王』を冒険者ギルドに納品すれば、そんなことくらい安いものだろう。
俺が今から冒険者ギルドに登録するような
ディマスさんが俺が斃したと認識している『影狼』13体と、ボス級である『影狼王』1体だけでも、俺が一般人から見れば大金持ちになることは確定路線なのだ。
そればかりか馬鹿正直に
おそらくディマスさんはそうなることも込みで、
そのあたりのことを、そうなる前に粗々でも理解できたのは本当に大きい。
そして理解した以上、可能な限り上手く、また俺にとって利があり面白くなるように立ち回ろうとするのもまた当然のことだろう。
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