第012話 迷宮保持国家
行商人のディマスさんがまず説明してくれたのは、
俺の予想したとおり、冒険者という稼業が成り立っている以上、この世界において
冒険者という命がけの稼業がそれでも憧れを以って見上げられるのは、己が力で狩る
当然
もはや今の俺は『影狼王』程度の
そして俺が今いるこの世界ではそんな
今、俺の
それを一斉に換金することが可能なのかどうかはまた別問題だとしても。
ちなみに『影狼王』
13体ある『影狼』ですら、全数を買い取るだけの資金力はないとのこと。
そもそも一般市場に流通している
つまりさっき俺が狩った『影狼』をはじめとした
国家に属する軍や傭兵などはその練度や数の力を以って
一線級の戦力となるまで膨大な金と時間をかけて育て上げた兵であっても、
その結果得られた戦利品を金に換えたところで焼け石に水、とてもその損耗には釣り合わないのである。
つまりそれは『狩り』というよりも強いられた種としての『防衛戦争』とでも呼ぶべきモノであり、経済活動が軸にはなり得ない。
よって狩られた
すべての部位が魔力を帯びた
牙や爪、角や骨は特殊な武器や防具に。
毛皮は特殊な防具や高級な衣服に。
肉や筋、内臓などはとても日持ちする携帯食や、一時的に能力を
眼球や心臓などの主要な器官は、大規模儀式魔法の触媒に使われることもあるらしい。
もちろん王族や貴族がその権勢を示すための贅沢品として、装飾品や高級料理の食材としても使用される。
だからこそ
とはいえ地上の
狩ったとしても、それらが一般市場には流れることはまずありえない。
いわば値が吊り上がる要素が揃っているのである。
ここまで聞いた時点でディマスさんとリィンが、俺を「世間知らず」認定した事は妥当であると納得せざるを得なかった。
と同時に今の俺の戦闘能力が、天才だのなんだの程度で説明できる域ではないということも。
かなりの強者であろうリィンはともかく、よくもまあディマスさんは俺に普通に接してくれているモノだと思う。
『影狼王』を斃したのが俺だと知ったときの、あの表情もむべなるかなというものだ。
文字通り、危険を冒す者。
それによって莫大な富を得ることが可能な強者。
そして国家が抱える正規兵――中でも「対
つまりは冒険者として名を馳せた強者が、国に召し抱えられるという流れになっているのだ。
どうやらその「対
いわば『冒険者』の上位存在ともいえる国家に属して凶悪な個体を討伐するのが『対
それを
だからこそ。
普通では考えられない、与太話ではない
もちろんやり方を間違えれば、既得権益を持った巨大な力に磨り潰されることになるだろうが。
その危険を冒してでも取引したいものなのだ、商人を己が稼業とする者にとって
そんなシロモノを食事代として渡しますと俺は言っていたのだから、ああいう反応をされても仕方がなかったのだ。
とにかくこの世界における
中には最初から軍属になるような天才もいるようだが、ほとんどは『冒険者』としての経験を積み、その中で生き残り、名を上げた強者が人の世界を
つまり地上の
そこの浅い階層で、
もっとも俺のような『
また当然
とはいえ今の時代、どの
噂程度で聞きはするが、あくまでも酒の席での与太話。
その域を出るものではない。
まず間違いなく、幾人かは『超越者』とでも呼ぶべきバケモノもいるのだろうけれど。
なぜか
それはめったなことでは己が
だからこそディマスさんは人の手が入った街道で
ゲームのイベントではないけれど、
また例外的に
知ってる、たぶんそれ街の近く。
それで、そこにはそれなりに有用な薬草とかなんかが生えたりしているんだ。
初期
ともかくそういった冒険者たちを、国家から認められた上で取りまとめているのが『冒険者ギルド』という組織だということだ。
そしてその『冒険者ギルド』こそが、ディマスさんの話の肝である。
なぜならば『冒険者ギルド』こそが、市場に流通する
ここまでの説明を聞いていれば、それもまあ当然かと思える話ではある。
最終的には人の世界を防衛する戦力の要となることを期待される人材を預ける組織が、国家と強く結びついていないはずもない。
そのつながりが『冒険者』の身分を保証し、命がけの稼業であっても才能に恵まれてさえいれば、それで食っていこうと思わせるだけの利益を提供しているのだろう。
養成学校の類なども、無償で運営されている可能性も高い。
そうするためにはもちろん資金が必要だ。
そういういわば必然の流れで、
複数の国家間にまたがる国際組織でもある冒険者ギルドは、その代替の利かない商品を以って多くの商人はもとより、事と次第によっては中堅以下の国家よりもすでに力を持っている可能性もある。
その国力の差という物差しそのものすら、
その商品価値のみならず、人に勝てても
軍vs軍による、いわゆる戦争の勝敗に絶対的な価値はなくなるというわけだ。
となれば社会という仕組みで「戦闘力が高いだけの者」を制御することにも限界がある。
どこの世界でもそうであるように、この世界にも様々な国家が存在するのは言うまでもない。
超大国、大国、中堅国、小国、その規模こそいろいろあれど、この世界において国家は
つまり領内に『
戦力を強化可能な導線が領地内にあるのとないのとでは、
その上需要の高い商品である『
それら
当然国際組織である『冒険者ギルド』はその稼ぎ場所を持つ『
運よく特権を持ち得た国家は同じ立場の国同士で連携し、『
もっとそれも見方を変えれば、いつ
だが人は昨日が無事だったから今日も、今日も無事だったから明日もきっとそうだろうと楽観、あるいは諦観する者が多いものなのだろう。
あるいは一人一人ではそうではなくとも、社会という集団が大きくなればなるほど危機感を失うというべきか。
この世界の支配者階級を自認している方々に会う機会でもあれば、一度そのあたりのことを聞いてみたいところだな。
まああっちの世界でいう、いつ巨大な隕石が降ってくるかを畏れていてもどうしようもないという認識に近いものなのかもしれないが。
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