訪問者
受付を終えた貴帆達は、個室の控え室へ通された。その控え室で各々くつろぎ始めたところ、ドアがノックされた。雨虹が素早く反応して扉へと向かう。開けた扉の向こうにいたのは、兵士の装いをした男だった。彼は必死の形相で息を切らして早口で叫ぶ。
「レネッタ様はいらっしゃいますか!?」
「レネッタ様?そんな方はいらっしゃいませんが……」
雨虹があまりに唐突なために困惑した表情で兵士に向かって言うと、彼はがっくりと肩を落とす。そのあまりに気の毒な様子に、貴帆は「あの」と声をかけた。
「もしよければ手を貸しましょうか?本番までの間だけですけど……」
「本当ですか!?」
若い兵士がすごい速さで顔を上げた。そのキラキラと輝く兵士の顔を見て頷き、貴帆は後方の雨虹達に確認をする。
「はい。……いいですよね?」
「貴帆様がお望みとあらば」
「任せろっての!」
「ええ、もちろんよ」
その返事に安心して、貴帆は兵士を部屋の中へ招き入れた。備え付けのふかふかソファに一同が腰を下ろし、それぞれの前に雨虹が紅茶をそっと置く。そして兵士が事情を語りだした。
「私はエリック・バートルと申します。魔王城にて護衛部隊の高級兵士をさせて頂いている者です。今日は武闘会を見にいらっしゃるレネッタ様の、警備責任者を務めさせていただいていたのですが……」
「そのレネッタ様がいないってことか」
ナオボルトが腕組みをしながら先読みして言った。エリックが頷き、ぐすんと鼻をすすって続ける。一応兵士なだけあり体格はそこそこのため、めそめそしている顔が不釣り合いではある。
「はい。レネッタ様がここ最近朝早くどこかへお出かけになっているのは確認済みです。しかし今日のように公の予定がある日にいないとなると……魔王様の長女であり次期魔王のレネッタ様がここにいないとわかれば、明日には私の首がありません……」
涙を浮かべて語ったエリックの手を、貴帆は握った。
「レネッタ様は私達が見つけます!」
ここ最近よくお出かけになるレネッタ嬢。彼女は今日武闘会の来賓として来る予定をすっぽかしている。そう語ったエリックに協力すると決めたはいいものの、手がかりなどあるはずも無かった。
「そもそもレネッタ様の居場所がわからないのでしょう?探そうにもそんなに遠出はできないですし……」
困ったように眉を寄せて雨虹が言った。貴帆やナオボルトもそれに頷く。するとレッタがポンと手を叩いた。
「確か武闘会の会場に占い師がいるわ。その占い師にレネッタ様の居場所を占ってもらったらどうかしら?」
その提案に一同が納得の声をあげる。貴帆だけは納得のいかない顔を隠さざるを得なかったが、それで見つかるのであれば話は早い。何より魔法を始めとした現象が有り得るこの世界の占い師。貴帆の想像する占い師の域を超えてくるのは確かだと思った。
貴帆はそんな淡い期待を胸に抱き、控え室を出た。
「わらわがウルイケ領1の占い師である」
ウルイケ領で1番の実力と謳われる占い師。そんな看板の文句につられて入った小さなテントの中には、水晶玉と──小狐がいた。
本当に小さく子供のようで、ふわふわの毛と大きな尻尾を持っている。色はきつね色と呼ばれる本来の色ではなく、雪のような白だった。
「え……っと、その……占いお願いできますか……ね?」
幼児とごっこ遊びをしている気分に襲われながら、貴帆は言った。
「ふむ、良いだろう。何を占うのだ?」
戸惑いながらレネッタの居場所が知りたいと頼んだ。戸惑っているのは貴帆だけではない。他の全員が奇妙な顔をして水晶玉の向こうにいる小狐を見ている。
そんな困惑の視線はお構い無しに、占い師の白狐は目を閉じ水晶玉に手をかざした。ここは本格的だと安心するものの、見た目とのチグハグさには負ける。
「出たぞ」
目をゆっくりと開いて言った。貴帆達はごくりと唾を飲む。
「この会場内にレネッタとやらはおる」
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