占い師イサラギ

「この会場内にレネッタとやらはおる」


 真っ白な小狐の占い師が言い放ったのはそんな言葉だった。エリックは顎がはずれそうなほど、あんぐりと口を開いている。それもそうだろう。てっきり会場にいないと思って探しに行こうとしていたら、まさか自分が見落としていただけだったとは。おまけに見知らぬ冒険者に泣きついたともなれば面子がない。


「この会場のどこにいるかわかるか!?」


 ナオボルトが興奮しながらきく。どうやら彼はレネッタ嬢に会うのがとても楽しみなようだった。強さを純粋に求める彼は、魔王の長女というある意味この世界での最高ステータスに挑みたい気持ちが抑えきれていないようである。一方の占い師は「うーん」と唸って首を傾げる。


「レネッタ嬢は姿を変えておるようだ。とても強力な身隠しの魔法が使われている……それしかわからない」


 ──やはりインチキが多少入っているのではないか。もしくは子供のお遊びか……。

 貴帆は少し落胆してこの場を去ろうと口を開きかけた。すると占い師は細い目をさらにキツく釣り上げ、貴帆をむっとした様子で見た。


「そこの人間、さっきからそなたは失礼だな。わらわはインチキでもないし子供でもない」


「え、声に出てた……?」


 貴帆はぎくりと焦った表情をする。そんな貴帆の顔を不機嫌そうに見つめながら狐は続ける。


「わらわにとってそなたらの心の中を読み取るのは朝飯前じゃ。それにわらわはどんな姿にでもなれるし、召喚書を操り戦うことも出来るのだぞ。子供ではない!」


 むうと頬を膨らませて、占い師は机に置いてあった1冊の革張りの本を指さした。分厚く小さいそれが召喚書らしい。貴帆達が言葉を失っていると、イサラギがさらに後ろの棚から何かを取り出した。紋章のようなものだ。中心に月や星が描かれ、水晶玉のようなものも見受けられる。


「我が名はイサラギ。いくらイースタホースから外れた僻地にいるとて、名くらいは知っておろう」


 それを聞いて貴帆以外の雨虹やレッタ、ナオボルトが反応した。心当たりがあるようだ。わかっていない貴帆はもちろん彼の名前など知る由もないため黙っている。

 

「占い師イサラギって……大昔に伝説の勇者と共に魔王との大戦争を戦い、星を砕き降らせて敵を殲滅したっていう……?」


 ナオボルトが穴が空くほどイサラギを見つめて呟いた。その言葉にぎょっとして、貴帆もイサラギを見る。見た目は小狐の彼が、そこまでの威力を持っているのか。そして彼は一体何歳なのか。全くもって計り知れない謎の存在を目の前にしている。


 すると雨虹がイサラギの前へ出て深々と頭を下げた。


「10年前とお姿が異なっていたので気が付きませんでした、申し訳ありません。タカホ様が幼い頃、短い間でしたが占星の魔術をご指導くださっていたことを覚えておられますか?」


「ああ、そんなこともあった。あの小生意気な小僧はどうしたのじゃ、姿が見えぬようだが」


 イサラギがふと疑問を口にすると、すかさず雨虹が事情を説明し始めた。そんな雨虹がイサラギを仲間へと引き入れる駆け引きへの勝利を確信しているように、貴帆には見えた。

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