模擬戦~才能とキャリア~
宿屋の屋上の石畳に、砂埃が舞う。戦士4人の足や武器によって舞い上がるそれが、言うまでもなく戦いの激しさを物語っていた。
仲間でも決して妥協はしない。そんな理念の元、全力でぶつかり合う2組の間に決着はなかなかつかなかった。
この模擬戦は、一応ペアのどちらかが敵に寸止めで首を取られた時点で決着がつくというルールである。死もなければ降参もない、決着がつかない限り終わらない戦いだ。だが4人の実力が均衡しているのか戦術の賜物かは定かでないが、勝敗の行方は未だに分からないままだ。
レッタは状況を探りつつナオボルトとの連携を心がけていたが、自分自身、予想の斜め上を行く彼の身のこなしに振り回されているのも事実であった。味方であるからある程度自由に動き回らせておけるものの、これの相手をしている貴帆はさぞ戦いにくいだろう。
レッタは攻撃の手を緩めず、注意深く観察を続けた。
その中でも驚いたのは貴帆の才能。
剣技はまだ甘さが残るものの、持ち前の冷静な判断力と慎重さがナオボルトとはまた違った強さを引き出している。だが経験不足ゆえ、ナオボルトの猛攻撃に対し防御ばかりを繰り返していた。
我ながら恐ろしい才能を育ててしまったと、レッタは雨虹の相手をしながら思った。
そして今相手をしているこの雨虹という男も強い。
執事だからと見くびっていたが、それは間違いだった。素早い身のこなしにより精度の高い技が容易く敵の隙を縫う。また敵の体制を崩す所から急所を狙った攻撃所まで、入念に考え抜かれた戦い方をしてくる厄介な相手だ。
また自分のパートナーであるナオボルトも、さすがは領内指折りの勇者。その真っ直ぐで力強い大剣の攻撃が当たれば、一撃で命の危機にさらされる。例え当たらなくともそれを避ければ体力はどんどん削られていくだろう。
――こんなに胸が高鳴る戦いはいつぶりだろうか。
この調子ならば武闘会であれを勝ち取り、あの人も探せる。それだけ十分な実力をこの冒険者達は持っていた。
あれ――すなわち「ブックゴッターズ」は、魔王一族所有の遺産であった。しかしある者に持ち出され5年間行方知れずとなったそれは、今武闘大会の優勝賞品。色々と不可解な点は多いが、あの人を探すため今までこれを探し求めてきたレッタにとっては絶好の機会である。。
すると目の端にナオボルトが大剣を貴帆に向かって振り下ろす様子が見えた。その時だった。
ナオボルトからの攻撃に押され、防御に徹していた貴帆が飛んだ。
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