模擬戦~勝利へ~
一か八か、貴帆は大きく飛んだ。
広く青い空に溶け込めそうだった。
ジャンプの勢いを活用し、降下速度が上がる中でナオボルトの振り下ろした大剣の上に足を伸ばした。構えられた大剣の刃を倒すようにして平面を作り出し、その上へ着地する。それを受けてナオボルトの手首は捻れ、大剣は強く地面に押し付けられた。
「なっっ!?」
ナオボルトが奇声を上げた。その声に雨虹やレッタも攻撃の手を止める。
ナオボルトからすれば、まさか剣の上に乗ってきて踏みつけられるとは夢にも思わなかったのだろう。しかし貴帆の意図していた通りに大剣から手を離すことはしなかった。おまけに手首が予想外の方向に持っていかれたのにも関わらず、彼は自然と受け流すように手首を捻り、受け身とも言える怪我の回避までしてみせた。そこはさすが熟練冒険者であり、勇者とも名高いだけある。
だが貴帆には体力的にも戦略的にも余裕がなく、ナオボルトが丸腰にならなくともここで決めねばならなかった。最初で最後の好機だと防御で疲れきった体に言い聞かせ、剣を振りかぶる。
首をとった──はずだった。
ぐわんと足元が揺れ、次の瞬間には宙に放り出された。固い石畳に背中をうちつける。
「いっ……」
あまりの衝撃に内臓が飛び出るのではと心配になった。それと同時に気づく。
ああ、そうだ。
ナオボルトとっては大剣を持ち上げて貴帆を振り落とすことなど容易いことなのだ。彼の上背と体格はそうやって、そのために、作り上げられてきたのだ。
ショックだった。渾身の一撃をはずしたという事実が打ち付けた背中からジワジワと這って体を巡っていた。
絶望感を抱いていると、ナオボルトが貴帆と共に振り落とした大剣を拾う音を聞いた。涙がこぼれそうになりながら、どうにか体を起こす。まだ負けてないと脳みそは言っている。だがどうしても足が震えて立ち上がれなかった。
ナオボルトが息を切らしながら体勢を整える。そして貴帆に向かって大剣を構えた。
「本っ当どうかしてるよ、お前……。すっげー強ぇじゃん」
そう言って貴帆めがけて斬り込んできた。
負ける。
負けてしまう。
気がつけば体が勝手に動いていた。
数秒もしないうちに、4人全員の動きが止まる。
ナオボルトの喉元に貴帆の剣先があったのだ。
片膝を立てて腕を伸ばしている貴帆の目が丸くなる。貴帆本人が1番驚いているようだった。
ナオボルトが大剣を下ろす。大剣の剣先が石畳に触れてカラリと乾いた音を立てた。
「貴帆の勝ちだ」
優しく笑ってナオボルトは貴帆に言った。
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