模擬戦~力量と策略~
剣と剣のぶつかり合う音が響いた。
貴帆は真っ先に駆け出してナオボルトへ斬り込んだ。遠距離かつ初見の攻撃をしてくるレッタを攻めるのは得策ではないと踏んでの選択だ。
しかし当たり前のように貴帆の攻撃は受け止められ、流される。めげずに二度三度と斬撃を繰り出すが、掠ることもない。もう一度切り込み、鍔迫り合いの後ぱっと離れて間合いをとった。むやみに怪我を負わせることのないよう刃に革のカバーはしてあるものの、振動がビリビリと手に伝わって痺れていた。
距離をとりながら貴帆はレッタから習った戦いの術を巡らせた。剣術、武器の重量、体格などどれをとってもナオボルトが勝る。貴帆がかろうじて勝るものといえば機動力と柔軟さだろうか。物は試しで離れた間合いを二、三歩で一気につめて、低姿勢のまま下から細い剣を突き上げる。
「のわっ!?」
ナオボルトは間抜けな声を上げながらも仰け反ってかわした。出会った時がフラッシュバックして、並の反射神経でないことを改めて恨めしいほど思い知る。
そうとは知らずナオボルトは肩を回しつつ、呑気に貴帆に声を掛ける。
「貴帆、随分と上達したんだな〜」
「それはどうも」
「話してる暇なんてあるのかしらね?」
突然レッタの声がしたと思うと同時に、見たこともないような大きさの炎球が迫ってくる。それを見た雨虹が貴帆の前に飛び出してきた。
「そうはさせませんよ!」
素早く暗器を袖から滑らせ、炎を受け止める。そのまま大きく腕を振ると、その炎が真っ二つになり散っていった。その光景の物珍しさに貴帆は目を見張る。
すると目の端にぱっと動き出したナオボルトが目に入った。貴帆に振り返る間も与えず斬り込んでくるのを、貴帆はなんとか回避した。今まで使ったことのない筋肉を揺さぶり起こして総動員している気がする。
そのまま突進してくるナオボルトの大剣を、貴帆は踏ん張りながら受け止めた。男かつ勇者のナオボルトの大剣を、女で素人同然の貴帆の細剣で堪えるのはキツい。いつ貴帆の剣が欠けてもおかしくないだろう。
ということは、だ。
早々に決着をつけるのが良策だ。だが炎に限らず水や風、地形変化をもたらす土といった魔法を使ってくるレッタが邪魔をしてくる。
雨虹に目配せをすると、貴帆の援護に回っていた彼はしっかりと頷きレッタめがけて暗器を繰り出した。それを確認し、ナオボルトと改めて向き合う。
「1対1の真剣勝負ってやつか?いいぜ、楽しそうだ!」
この余裕な表情を敵に回すと、更に苛立つ。
日頃の鬱憤を力に変えて、この自信家に敗北をもたらしてやる。
でも1つ意外だったのは、貴帆のような相手でも自分と同等の敵として見ているところだった。てっきりもっと馬鹿にしてくるかと思ったのに。
貴帆はきゅっと口角を上げてナオボルトを真っ直ぐに見つめた。
「私だって負けませんから」
2人の剣士は同時に動き出した。
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