あの人、きっと本気だよ
薫と車でレースなどしながら、優は時計を確認する。
そろそろ先生が家に来るかも、と思いながらやると落ち着かない。
薫は、それに気づいていたようで、
「帰るか」
と笑って言ってきた。
帰り道、薫が、
「ああ、そうだ。
これやるよ」
とイルカと星の柄の可愛い小袋を渡してくる。
「え、ありがとう」
と受け取ると、中にはイルカのキーホルダーが入っていた。
ん? 水族館?
とキーホルダーについているタグを見つめる。
「そう。
昨日行ったんだ。
土産物屋にあったんだが。
それ見たら、なんかお前思い出して」
と笑う薫に、ポアンとなにも考えてなさそうに口を開けているイルカを見る。
……どの辺を見て、私だと思ったのか、気になりますが。
いや、それより気になることがあるんだが……。
「あのー、薫ちゃん、昨日、水族館に行ったの?
先生と出会わなかった?」
「ああ、伊吹先生?
先生と行ったんだけど」
……なんですと?
「伊吹先生と水族館の前で待ち合わせて行った」
「なんで?」
「昨日、うちの近くの商店街で伊吹先生と会ったんだよ。
それで、お前、近くの水族館行ったことはあるかと訊かれて。
あるって言ったら、ちょっとついて来いって。
でも、親に家でご飯食べるって言ってたから」
……いいヤンキーだな。
まあ、所詮、いいおうちのお坊っちゃまだからな、と思っていると、
「それで、水族館の前で待ち合わせた」
と言う。
お前か……、と優は思った。
ちょっとホッとする。
だが、何故、先生が薫ちゃんと水族館に? と思っていると、薫は小首を傾げ、言ってきた。
「さあ?
でも、なんか熱心にリサーチしてたよ。
メモ取って」
……取ってそうだな。
「あ、もしかして、お前、先生とデートとかする?」
「デ、デートとは言われなかったけど。
日曜、ひまかとは言われたけど……」
ともごもごと言うと、
「じゃあ、その下見なんじゃない?」
と薫は言ってきた。
わざわざ?
男二人で水族館に行って?
あの歳でそんなことするだろうか。
中高生の初めてのデートじゃあるまいし。
まだ、薫ちゃんに気があったって言われる方が信じられるような……と思っていると、
「嬉しそうだな、優」
と言われる。
「え、いや、別に」
と頬に手をやり、誤魔化すように言うと、
「あの先生、本気だぞ。
……いろんな意味で」
と薫は言ってきた。
いや、いろんな意味で、が気になるんだが、と思っていると、
「でも、水族館って、久しぶりに行ったけど。
すごい雰囲気よかったぞ。
夜は外もライトアップされてて」
カップルがいっぱい居た、と言う。
その中を男二人で……。
しかも、先生はメモ帳片手に。
片方は金髪の明らかなヤンキーだし。
この組み合わせ、なに!?
と幸せそうなカップルをさぞ、びびらせたことだろう……。
「っていうか、私は昼間行くのに。
薫ちゃんが行った方がなんかロマンティックじゃん~っ」
「いや、男二人でロマンティックでも」
と薫はもっともなことを言う。
「で、水族館に付き合ったから、あとで、近くのカフェでパフェおごってもらった」
……完全に男二人でいちゃついてるように見えるな。
「で、先生、またそこでメモ取ってた。
ところで、優は先生のこと好きなの?」
「……流れるように訊いてこないでよ」
「いや、ちょっと気になったから」
と問われ、
「よくわからないけど。
違う意味で気にはなるわ」
と言うと、
「違う意味でってなに?」
とまた訊いてくる。
「今日は突っ込むねー、薫ちゃん」
「今日は突っ込むよー。
だって、優に初カレができるかもしれない瀬戸際じゃん」
「初カレという言われ方は引っかかるな。
次があるみたいじゃないか」
と後ろから、あの声がした。
どきりとする。
案の定、伊吹が立っていた。
そういえば、もう家の近くまで来ている。
「優には、俺の前に彼氏はなく、俺の後にも彼氏はない。
結婚しよう、優」
あまりに、よどみなく言われて、心が入ってないように感じてしまうのですが。
どうでしょう、先生……。
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