なんで俺の顔見て溜息をつく
……先生が誰か女性と夜の水族館で待ち合わせ。
いや、女性とは聞いてないけど。
でも、男同士で待ち合わせて、夜の水族館とかないかなー?
と優はいろいろと思いを巡らせる。
午後からの授業がいまいち身に入らなかったのは、その話を聞いたせいではない。
――と思いたい。
頭の中では、颯爽としたOL風の美女とライトアップされた水族館の前で、伊吹が待ち合わせていた。
まあ、そういう人の方が先生にはお似合いだよなー。
所詮、私は復讐に使われるだけの女。
いや……そういう言い方したら、なんとなく格好いいけど、全然状況は格好よくないぞ。
六時間目は伊吹の授業だったが。
つい、溜息をついてしまう。
すると、授業の終わり、伊吹は小テストを返したあとで、
「瀬ノ宮、放課後、職員室に来なさい」
と言ってきた。
結衣たちに、
「なになに、点悪かったー?」
と笑われたが。
うん……と隠したテストは、九十八点だった。
まあ、先生が、
「満点以外はないよな、優。
そうじゃないと、預かって面倒見ている俺がお前のご両親に申し訳が立たなくなるから」
とか言う舷おじさんと同じ主義主張なら怒られるかな、とは思うが。
職員室に行くと、伊吹に言われた。
「なんで俺の顔を見て溜息をつく」
それはねー。
先生が、夜の水族館で、女性と待ち合わせとかしてたからですよー。
……と此処では言えないではないか。
いや、外でも言えないが。
「なんでもありません……」
と優が小さく言うと、
「今日は家庭訪問に行こうか。
おじさんはご在宅か」
と伊吹は言い出した。
「おじさんのスケジュールはわかりませんが。
夕食はいらないという連絡が入らなければ居るかと」
そうか、と言ったあとで、伊吹は、
「じゃあ、戻っていいぞ」
と言い、背を向ける。
その背中に向かい、優は怨念を発していた。
誰なんですかー?
昨夜の女性はー。
人を日曜、デートに誘っておいて……
いや、デートとは言わなかったですけど、誘っておいてっ。
貴方、誰と会ってるんですかっ。
だが、それらの言葉を口から出すことはなく、優は頭を下げたあとで、職員室の出口まで行った。
出口でもう一度、礼をするために振り返ってみたのだが、伊吹はこちらを見もしない。
優は、ぺこりと頭を下げて職員室を出た。
どうせ、先生はまだ学校を出てないだろう。
おじさんが帰るくらいの時間に来る感じだったしなーと思いながら、優はあのゲーセンに向かった。
薫ちゃん、居るかなー?
と外から覗いていると、
「おい」
と後ろで声がした。
振り返ると、薫一人が立っている。
「あれ?
舎弟の人たちは?」
と訊くと、
「補習。
テスト悪かったから」
と言ってきた。
ああ、なるほど。
薫ちゃんは、補習とかないからなー、と思う。
昔から頭、良かったし。
悪かったのは素行だけだ。
「優、ひとりでゲーセンとか来るなよ、危ないから」
と言われ、
「いやいや。
薫ちゃん、居るかなー? と思って」
と言うと、
「居ないときもあるよ。
違う店のときもあるから、俺が居なかったら、帰れよ」
と言ってくる。
うん、ありがとう、と優は微笑む。
「なんだ。
ゲームしたいのか?」
「うん。
スカッとするような奴。
サルを叩くのと……
ランチボックス落とすの以外で」
と言った瞬間、ちょっと顔が凶悪になってしまっていたかもしれないが――。
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