そっちの話が気になるんですけどーっ


 伊吹たちにお弁当を作るのは毎日ではないので、翌日の昼は、優は舷が作ってくれたお弁当を教室で食べていた。


「いーなあ。

 それまた、舷さんが作ったんでしょう?」

とクラスメートの結衣たちに言われながら。


 いやいやいや。

 昨日のは、おじさんは手伝ってくれただけで、私が作ったんですけどね、と思っていると、誰かが、


「格好いいよね、舷さん。

 大人の魅力っていうか」

と言い出した。


「えーっ。

 噂の舷さん、私もお会いしたかったーっ」

と見そびれた女子たちが騒いでいる。


「大人の魅力って言えばさ。

 京橋先生って、彼女居るのかな」


 優は舷が花の形にしてくれているゆで卵を箸から、ぽとりと落としてしまった。


「あー、居そうだよねー。

 あんな人、高校とか大学のとき居たら、もう絶対、逃がさないもん。


 大人になる前に、誰か目つけてるよー」


 ……ですよね、と思いながら、卵をもう一度つまもうとすると、

「いや、それがさ。

 昨日、家族で食事に行ったんだけど。


 近くの水族館で誰かと待ち合わせてる先生見たのよ」

と最初に、先生の話を振った爽子さわこが言い出した。


「……親御さんとかじゃない?」

と誰かが言った。


「なに無茶言ってんのよ。

 夜の水族館だよ」


「親戚の子供とじゃない?」

とまだ別の誰かが言う。


「夜の水族館だってば」


 みんなが先生に彼女が居る説をくつがえそうといろんなことを言ってみていた。


「あんた、知らないの? 優」

といきなり、結衣に話を振られた。


「へ?」


「だって、あんた、京橋先生と親戚なんでしょ?」


 えっ? そうなのっ? とみんながこちらを見る。


「王子とも親戚だって聞いたけど」

と言われ、


「あー、そうなんだけど。

 すごく遠い親戚だから。


 法事とかで出会って、ああ、こんな人居たな~くらいの親戚だよ」

と適当なことを言うと、


「やだーっ。

 会いたい、法事でーっ」


「先生も王子も黒似合うよね、黒っ」


「美貌が引き立つもんね、黒とか白とかーっ」

と違う方向に盛り上がってしまった。


 いや……私はその、先生が夜の水族館で、誰かと待ち合わせていた話の続報が聞きたいんですが、と思っていたのだが――。


「そういえばさー、私、この間、ゲーセンで、格好いい人見たんだよ。


 格好いい……


 っていうか、ぱっと見、金髪で制服の着崩し方がサマになってて、格好いいんだけど、顔はちょっと可愛いみたいな」


 なにそれーっ、とどんどん話がそれていく。


 ああっ、みなさんっ、待って! と思ってはいたのだが、声に出して、その話題を掘り返す勇気はなかった。



 


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